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-84- 曲がる

 金属は熱を加えれば、大よその物は曲がるか、溶ける。人も程度の差こそあれ、曲がって生きている。まあ人の場合は、みずから積極的に曲がる人、影響を受けて曲がりやすい人、なかなか同調せず曲がりにくい人・・などと分かれるが、それでも少なからず曲がらなければ世間では生きられず、遠退とおのくことになる。曲がりにくい人は頑固がんこ者と呼ばれるが、さらに、まったく曲がらない人は宗教者、芸術家、芸能人などといった独自の分野で光を自ら発する人々で、世間とは一線をかくす。いわば、他の人々を自らの光で曲げる能力がある人・・ということになる。

「はいっ! それはもう…。私がやっておきますので、課長は先方の接待へお行き下さい…」

「そうか? すまんな、軟場なんば君」

「いえ…」

 係長の軟場はグニャリ! と自ら曲がり、課長の鋼原こうばらにピタッ! と溶け込むように接着した。

 それを遠目で見ていたのは、そんなお調子者の軟場をこころよく思わない平社員の陶山とうやま硝子がらすだった。

「チェ! 軟場のやつ、また曲がってら…」

「ほんと! あの方、よくもまあ、あれだけ柔らかく曲がられますよね、陶山さん」

「君もそう思うだろ?」

「ええ!」

「フンッ! 料亭かっ! こっちは屋台だっ! 行くぞっ、硝子!」

「はい!」

 腹立たしくデスクの椅子を立った陶山に肩をたたかれ、硝子は釣られるように席を立った。硝子は陶山に完全に溶かされて曲がり、形のいいグラスになっていた。

 多数から浮き上がるのがいやで、いつの間にか多数に入って曲がることは、世間で、よくある。


                    完

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