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-83- 値打ち

 値下がりした株を買っておいた平社員の氷場こおりばだったが、どういう訳か急騰きゅうとうした株のもうけで億万長者になっていた。その株は氷場が働いている親会社の株だったが、氷場はそのことを秘密にして、コツコツと今までどおり働いた。氷場は苦労して得た金と楽をして得た金の、値内ねうちの差を知っていた。氷場は株が下がる都度つど、その金でまた同じ株を買いしていった。

 時は流れ、氷場はいつのまにか発言力を持つ大株主となっていた。そんな、ある日のことである。

「さて…昼にするかっ!」

 課長のかすみはいつもの動作で両手を大の字にして欠伸あくびをし、そう言った。その大声に課員達の手は一斉いっせいに止まり、課内はザワついた。いつも昼休みの10分前、買い出しと出前回り[出前をこちらから店へ取りに行く]の時間を見て、少し早く昼にするのが慣例となっていた。その10分ぶんだけ早く午後の始業に入るという、一種のフレックス・タイム制である。

「氷場さんは酢豚弁当でしたね…」

 氷場が黙って首を縦に振ると、後輩の霜地しもちは飛び出すように買いに出ていった。これも、いつもの一日の流れだった。

「氷場は酢豚ばかりだなっ! ははは…俺は特上の鰻重うなじゅうだぞっ!」

「分かってますよっ! 課長は金が有り余ってますからねっ!」

「ははは…馬鹿を言うなっ!」

 鰻のように首をウネウネとさせ、霞は、まんざらでもないように笑った。笑いは、親会社からの電話が社長室へ入るのと同時だった。

「はっ?! うちの会社の、こ、氷場がっ! いえっ! 氷場さんがですかっ?!」

 社長の霧橋きりはしあわて驚き、思わず言葉をんでいた。

 半年後、氷場は親会社の専務席に座っていた。

「専務…酢豚弁当でしたね」

「ああ、そうしてください…」

 氷場は、さも当たり前のように秘書の霙木みぞれぎの顔を見て言った。

 五年後、氷場は社長席に座っていた。

 物の価値を知り、変化に流されない人は、どこまでも出世する・・ということは、確かに世間で、よくある。


                    完

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