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-68- 緩(ゆる)む

 町役場の財政課長である川竹は朝から似合わない日曜大工にはげんでいた。かなり前に取りつけた棚がグラついて物をせられなくなったからだ。整理していらなくなった陶磁器類を新聞紙に包んでダンボール箱に収納したまではよかったが、重くなった箱を載せようと思った途端、グラッ! ときたのだ。オット!! と、危うく片手でささえて箱を下ろし、川竹はやれやれ…と安息あんそく吐息といきらした。そのとき、川竹は問題のたなながめながら、『ゆるんだのか…』と思った。棚を支える板木のボルトを見ると、やはりゆるんでいた。すでに夕方近くだったから、修理は後日、することにした。

 夜になり、録画しておいたテレビの囲碁番組を観ていると、勝った棋士が最後に解説していた。

『…は、ゆるむ手となり、まず打たないと思いまして、付け越しました。それがよかったようです…』

 川竹はそれを観ながら、『ゆるんじゃいかんな、ゆるんじゃ…』とえらそうに思った。それが一週間前の日曜だったのだが、その棚の修理が気になり、一週間を職場でイライラしていた訳だ。

「課長、予算要求書の素案が出来ました…」

 課長補佐の武藤が川竹にうかがいを立てた。

「んっ? ああ! そこへ置いといて。あとで見るから…」

 うつろな眼差まなざしで、アングリと川竹は武藤に返した。 

「どうしたんです? 課長。ここ最近、少しおかしいですよ…。大丈夫ですか?」

「いやなに…なんでもない、なんでもない。少しゆるんだだけだ」

「えっ?」

「ははは…こっちのことだ」

 川竹は潜在意識が緩んでいたのか、[ゆるむ]という言葉を知らず知らず口にしていた。武藤は笑ってぼかした川竹の顔をいぶかしそうにうかがいながら、前の席へともどった。

 一週間前、そんなことがあったのだが、少し板木を調整したあと、無事にボルトを締め付けて川竹は欠伸あくびを一つした。よくよく考えれば、昨日の夜、『あしたは修理するぞっ!』と意気込んだまではよかったが、それがたたって、なかなか眠れなかったのだ。それが欠伸となったのである。ともかく一件落着し、川竹はアングリした顔で妻の顔を見て、『これは…』と、深い溜息ためいきを一ついた。

 長く続くと、物、、事、組織によらず、緩むことは、よくある。


                    完

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