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-60- ズレ

 五月のなかば、外で夕食を済ませた丸太木まるたぎは、職場から帰宅した。丸太木は残業続きですっかり疲れていた。今日はぐっすり眠るか…と、丸太木はシャワーのあとビールをのどへグピッ! と流し込み、そのまま寝入ってしまった。次の日は休日である。仕事も一応、切りがつき、丸太木としては気分的にぐっすりと眠れる訳だ。当然、次の日の天気など、雨が降ろうと槍が降ろうとどうでもよかった。ところが、である。次の日の朝は誰もが外出したくなりそうな快晴で、朝陽あさひし込まなくてもいいのに丸太木の顔へ射し込んできた。春の大型連休を過ぎた頃合いだったから、気温も結構、朝から高くなっていた。いわゆるボカボカ陽気というやつである。こうなれば、眠るつもりが眠れなくなる。ベッドから出ると丸太木は寝室のカーテンを腹立たしく閉じ、また横になった。横にはなったが一端、目覚めればなかなか眠れるものではない。丸太木は窓に向かい、思わず「晴れればいいのかっ!」とつぶやいていた。そして、目をつむったが、やはり眠れそうにない。そうこうするうちに半時間ばかり過ぎてしまった。そのとき、ふと、丸太木の脳裏にあることがひらめいた。いい閃きならよかったが、生憎あいにくそれは悪く、忘れていた雑用を思い出さなくてもいいのに思い出してしまったのである。

『そういや今日はゴミ出しの日だった!』

 あわてて跳ね起きると、丸太木はパジャマのまま、マンションの階下へと急いだ。いつものゴミ置き場へ行くと、ゴミ袋はひとつもなかった。

『遅かったか…』

 丸太木はテンションを下げながら中へと取って返し、昇降用のエレベーター前へ来た。そのとき、同じ階の鋸引のこびきが犬の散歩を終え、マンションへ入ってきた。エレベーターは一つだから、当然、丸太木とバッタリ出合う。

「いい天気ですね、丸太さん! どうされました、ゴミ袋を持って?」

 丸太木は『丸太じゃなく丸太木ですっ!』と言おうとしたが、ばつ悪く思うにとどめた。

「ええ、まあ…」

 丸太木はなんとか、ぼかした。

 エレベーターが降り、チ~ン! と音がしたあとドアが開き、二人は中へ入った。丸太木がボタンを押してドアが閉じ、エレベーターは上へと動き出した。そして、しばらく二人の間に沈黙が続いた。やがて、チ~ン! と音がし、ドアが開いたあと、二人はエレベーターから出た。

「ゴミは明日ですよ、それじゃ…」

 いぶかしげに頭を下げ、鋸引は別方向へと去った。丸太木は、ぅぅぅ…と、なんとも言えない口惜くやしい気分で、思わず「晴れればいいのかっ!」と、またつぶやいていた。

 次の日の朝は土砂降りだった。丸太木はゴミを出したあと、恨めしげに天気のズレを感じながら、「降ればいいのかっ!」と呟いていた。

 思うに任せず、ズレることは、よくある。


                    完

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