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-45- 思いこみ

 遅い朝食を食べ始めた蕪家かぶらやは、塩が余りいていない味のない漬物つけものかじりながら、妻の干江ほしえをチラ見した。

「おいっ! こいつは、いくらなんでも薄過ぎるんじゃないかっ!?」

 そうは言いながらも、蕪家は早くも二膳目の茶碗を手にしていた。干江は朝がいつも遅い蕪家を、見て見ぬ振りのお構いなしで洗濯機を回していた。むろん、新婚当初からそんな無愛想だった訳ではない。あれから40年、つきっきりの笑顔で、ニコッとおかわりを差し出してくれた可愛いはどこへ行ったんだ…と思う蕪家だった。その蕪家も、子供たちが自立し、すでに老人会役員に声をかけられる年齢になっていた。

「だって、お医者さまに減塩しろっ! って言われたんでしょ?」

「そんなことを言う医者はいないさ。塩分の取り過ぎですから注意なさってください・・って、やんわり言われたんだよ」

「それで、また検査?」

「ははは…それは、前の前の病院の医者だよ」

「ややこしいのね」

「俺は気に入った医者しか診てもらわん主義だからな! 今は5つ目だ」

「回った病院の数を自慢してどうするのよ。まあ、思いこみの激しいあなただから分からなくはないけど…」

 干江は止まった洗濯機を脱水し始めた。

「仕方ないだろ。そう思える医者なら…」

「それはそうだけど、先生に悪気がある訳じゃないんだから…」

「当たり前だ。悪気がありゃ、医者じゃねえよっ? 俺が言いたいのは人当たりのことだよっ!」

「ああ、接遇ね。それはそうかも…。人当たりで人は、いろいろと思いこむから」

「そうそう。いつやらも反省しろって言われたな。お前が反省しろって思ったよ。そこは、もう行ってないがな。医者に心・技・体は大事だな」

「それは、お相撲でしょ」

「ああ、そうか…」

 食べ終えた蕪家は新聞の相撲欄を偶然、見て言ったのだった。

「あの子の給料、余り上がらないわね…」

 何を思ったのか、急に干江は息子のサラリーを口にし始めた。

「それは、お前の思いこみだろ。今の時代、どこともそうさ。おっ! 株価が暴落したな…」

 干江はそれには返さず、洗濯物を干し始めた。蕪家は新聞を置き、食べ終えた食器を炊事場で洗い始めた。

 思いこみで、世の中が動くことは、確かによくある。


                    完

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