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-36- 脇道(わきみち)

 遠くに見えた建物の多さから、向こうの方がいかにも街らしい…と思った山畑は、その方角へと歩を進めることにした。ところが、行こうとする方向に道がない。細道は2、3あるのに、肝心の街に向かう幹線らしき道がないのだ。仕方なく山畑は脇道わきみちを伝って迂回うかいルートで街に向かうことにした。登山では直途を迂回して登る[巻き登り]という手段もあるが、ここは平地である。そんな慎重な手段を使わずとも十分な余裕を持って街へ着くように思えた。ところが、それは少し甘かった。

「あの…すみません。この道を行けばあの街へ行けますよね?」

 山畑は付近の人らしい、畑をくわたがやす農家の男にたずねた。

「ああ、行こう思や、行けるども…」

 男は鍬で土を耕す動作を止め、朴訥ぼくとつにそう返した。

「そうですか…。ありがとうございました」

 軽く頭を下げて礼を言い、山畑は歩き出そうとした。そのとき、である。

「だけんど、遠回りになるがのう。あんた、どこから来なすった?」

 後方から問いかけられ、山畑はビクッ! として立ちどまり、振り向いた。

「私ですか? 東京からですが…」

「東京かい。いいねぇ~都会とけいは。わしら一生かかっても行けねえ土地だぁ~」

「いや、そんなことはないと思いますが…」

「なに言ってる。そんなことはあるだよ。あんた、知らねぇ~からそんな気楽きらくが言えるのさ」

「えっ? どういうことです?」

 山畑は気になってたずねた。

「まあ、聞いてくれろや」

 男は長々と語り出した。話は脇道へとれ始めた。それから約小一時間が経過した。山畑は聞く一方になり、相槌あいづちを入れるだけだった。男は専業農家の悲哀を切々と訴えたのである。

「大変なんですね…」

「そうとも! そこへPTAだろ?」

「なるほど…」

 山畑はTPPだろう…とは思ったが、正さず思うにとどめた。

「子供は放っといても育つが、学校は放ってくれねえ~」

 あっ! そちらか。正さずによかった…と、山畑は思った。それから、教育の話へと入り、次第に脇道は複雑な様相を見せ始めた。山畑は腕を見た。すでに街で会う約束の正午まで1時間を切っていた。さりとて、道の脇道相場か、話の脇道からも抜けられそうにない山畑はあせり出した。世間では物事の途中で脇道へ逸れることが、よくある。


                    完


 ※ 漏れ聞くところによれば、なんとか山畑さんは時間に間に合ったそうです。

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