-34- 見解(けんかい)
双方の意見対立が起き、見解の相違だっ! と物別れになることが、世の中ではよくある。見解は人それぞれで、自分の見解を他人にも当てはめようと主張するとトラブルになりかねない。各個人は見えないオーラにも似たシールドで包まれていて、そこへ侵入しようとする他人に対し、自然と自分を守る防御態勢に入る訳である。
「厄介なことになったなっ!」
「どうされたんですっ?」
朝から町内会長の東崎が悩みながら副会長の岩波に愚痴った。というのも、正月早々、町内会の会計をしている舟出が急な発作で亡くなったのだ。さあ! 大変なことになった…と東崎は思った。注連縄が取れない松の内とはいえ、同じ町内会の役員である。町内会長としては無碍に見て見ぬふりはできないが、さりとて松の内だからな…と考えた訳だ。
一方、急な不幸に見舞われた舟出家では、松の内ということもあり、密葬でとりあえずは済ませ、松が取れてから改めて告別式だけやろう・・ということで話が纏まっていた。そこへ現れたのが東崎である。
「町内会としては放ってはおけませんからな。ここはひとつ、町内葬ということで…」
東崎は勝手な自分の見解を語った。それを聞かされたのは、舟出の息子で銀行頭取の砂雄である。
「いえ、それは困ります。密葬にして、告別は別の日にやらせてもらいますから」
砂雄は突っぱねた。砂雄は少し意固地なところがあった。
「いやいやいや、それでは町内会長の私が困る。ここはひとつ、私の言うとおりに…」
「なにをおっしゃいます。こちらこそ、お願いしますよ。別の日にお別れの会とかを町内で開いて下されば、それでいいじゃないですかっ!」
意固地な砂雄は興奮し出した。
「困った人だっ! それじゃお亡くなりになったのを町内会が無視したことになる!」
「無視もなにも、知らなかった・・でいいじゃないですかっ!」
「知らなかったって、あんたねっ! こんな20軒ばかりの狭い町内ですよ。それに、私の家はあんたの斜め向かいだっ!」
東崎も興奮し出した。両者の見解は完全に逆だった。
「まあ、とにかく私の家は密葬でやらせてもらいます。葬儀社も、すでに手配してますからっ!」
「ああ、お好きにっ!! しかし、今後は町内会としてお宅は考えさせてもらいますよっ!!」
「考えるって、どうするつもりですっ!! この町内から追い出すとでも言われるんですかっ!!」
「いや、そんなことは言ってない。言ってないが、いろいろあるっ!」
東崎は興奮したまま舟出家を去った。意固地に自分の見解を通そうとすると厄介なことになることは、よくある。その後、町内会と舟出家がどうなったかまでは、聞いていない。
完




