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-13- 世間並み

 すでに夜の8時を回っていた。クリスマスのイルミネーションが色とりどりに美しい光彩こうさいを放ち、またたいている。崎柴は今年も歳末だな…と、流行語のクリボッチ[クリスマスに一人ぼっち、という現代の造形語]を演じながらつぶやいた。崎柴の片手には先に予約しておいたクリスマス・ケーキの箱が、しっかりと握られていた。別に買う必要などなかったが、世間並みにそうしないといけないような気分が思うでなく崎柴をそうさせていた。クリボッチは一人、シャンパンを抜き、侘びしくテレビの番組などを見ながら騒ぐことなく、浮かれることなく、誰も聴いていないのに♪きよしこの夜♪を唄うのである。唄いながら、まあ、これも世間並みか…と崎柴は思った。リモコンをいじっていると、外国のニュース報道が映った。戦闘で逃げ惑う人々。ああ、痛ましい…と崎柴は思わずチャンネルを変えていた。よく考えれば、俺は幸せなのかも知れない…と崎柴はまた思った。

 次の日、買い物をしようと、崎柴はスーパーへ出かけた。街には世間並みの歳末風景が、そうしないといけないように展開されている。やはり歳末か…と、崎柴はまた思った。店へ入ると、主婦が世間並みの正月食品を買っていた。崎柴は買う積りもなかったが、いつの間にか正月用の食品の幾品かを世間並みに買っていた。この衝動買いも、そうしないといけないような気分が崎柴を買わせたのだった。

 崎柴は毎年、思うのだ。日本人は世間並みにげんかついで正月を迎える。別に迎えなくても、今日と明日が違う訳でもない。

 そのとき、ふと崎柴は思いついた。ああそうか…一年が過ぎたことを確認したい訳だな…と。なんとなく平穏な日々が過ぎ去ると、一年の感覚が麻痺マヒすることを崎柴は知識として得た。今年はやめよう…と思っていた崎柴だったが、世間並みに今年も正月風景を展開することにした。


                    完

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