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-11- 繰(く)り返し

 決算審査も済み、今年も予算編成の時期が迫っていた。反腰そりこしは、その対応に頭を抱えていた。反腰は長年、生活環境課にいた現場出身で、住民から出た苦情処理で蜂の巣を処理している途中、足を滑らせて転倒したのだ。その結果、半身不随にはならなかったものの、片足に麻痺まひが残り、翌年の人事で財政課へ異動した経緯けいいがあった。反腰自身も仕方ないとは思っていたが、それにしてもなぜ事務経験がない俺が財政課なんだ? という人事への素朴な疑問は残っていた。そうはいっても、異動させられた以上、やるしかなかった。民間に二年ばかりいて苦労した揚句あげく、ようやく地方公務員試験に受かり、今の役所に配属された反腰だったから、民間のきびしさはよく知っていた。

「まあ、愚痴ぐちっても仕方ないか…」

 反腰はようやくれ始めたデスクで前年度の予算書をめくり始めた。会計科目は同じで、編成方針にも何ら変更はない。り返しのなんと有難いことか…と反腰には思えるのである。課長の曲足まげあしも、編成方針には異論をはさんでいない。というか、当たりさわりなく来年の異動を迎えることこそが曲足の目的だった。何も失態を起こさなければ、次の次長ポストは約束されていたのだ。ただ、反腰にとっては有難い繰り返し作業だったが、疑問に思えることも多々、あった。

「昼だぞっ!」

 課の誰かが叫んで、課内のデスク作業が一斉いっせいに停止した。

「反腰さんは、いつものとこですね?」

 後輩の肩長かたながが小声でたずねた。

「ああ…」

「同じ注文ですね?」

『ああ…』 

 反腰は言い返さずうなずいた。いつの間にか、反腰にも繰り返しのくせみ込んでいた。


                    完

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