-10- 雨が降る
今日は天気がいいから、車のタイヤ替えは、まあ昼過ぎでもいいか…と元岡は思った。すると妙なもので、時間ができたせいか急に余裕めいた気分が湧き、別に今日しなくてもいいような雑用を済まそうという気分になった。思いついたことをしよう! と考えるのは誰でもよくあることである。その日の元岡がそうで、積もった落ち葉をいつの間にか箒で掃いていた。掃き終わるまでには、さほど時間がかからなかった。昼にはまだ時間がたっぷりとある。元岡は、このままにしておけば、また風が吹いて飛び散るから燃やしてしまおうと思った。
幸いにも落ち葉は乾燥していたから、容易に火をつけることができた。当然、防火用の水バケツは準備してからの点火である。燃焼の三要素は、点火源、酸素供給源、可燃物である。こんな危険物取扱試験の基本的な知識をつまらなく考えながら火をつけると、落ち葉は勢いよく燃え始めた。腕を見れば11時過ぎだった。終われば、ちょうど昼のいい頃合いになるぞ…と元岡が誰もいないのにニヤリと北叟笑むと、急に空に雲が広がり始めた。とはいえ、それはまだ全天を覆うものではなく、降り出すような天候ではなかったから、元岡はまだそう気にしていなかった。元岡が予想したとおり、12時前にはすべて燃やし尽くし、水バケツで消火すると家へ入った。レトルトの冷凍ピラフをチン! して食べていると、いつの間にか雲が全天を覆っているのに元岡は気づいた。これは…と急に慌ただしく食べ終えた元岡は、キッチンで食器を洗うのをあとに回し、車のタイヤを変え始めた。すると、それに呼応するかのように雨が降り出した。雨が降るのか…と元岡は後悔した。これなら、午前中に済ませておけばよかったのだ。まあ、こういうこともよくある…と自分を慰めたが、いや、余りないぞ…と思えた。あとの後悔、先に立たず・・日本にはいい名言があるな…と元岡は恨めしそうに、また思った。
完




