こんなん考えたシリーズ・「おっさんとゴブリンとタマちゃんとダンジョン」 3
魔力とは奇跡を起すための対価
影響が大きいものならば沢山必要で、小さいものなら少なくていい
呪文や術式、魔法道具などは、設計図や説明書、指示書のようなもの
これこれこういう風にして欲しい、というのを書いたものだ
それがうまい具合に出来ていれば効率はよくなるので、支払う魔力は少なくなったりする
つまるところ魔法とは、「呪文」などの指示書を作り、「魔力」を支払って奇跡を起すもだ
「というのが、私が師匠から教わった魔法を理解する一番早い方法ですな。まあ、実際にはもっと細かくいろいろありますが、おおよそという事で」
「スズキさんの師匠ってゴブリンだったんですのん?」
「ですな」
「俺の知ってるゴブリンじゃない」
おおよその魔法の理屈説明が終わったところで、次はスズキの使える魔法の説明だ
火属性
クラッカー:小さな爆発を起す
ファイア:火を吹きかける
水属性
操水:少量の水、あるいは氷などを浮かせる
製水:少量の水を呼び出す
アイスニードル:水でツララを作る 製、操水の複合技的なもの
風属性
ヘイスト:追い風を作り出す
エアキャノン:魔法的に固めた空気を叩き付ける(ヘビー級プロボクサーのパンチ程度の威力)
土属性
スモールホール:直径30cm 深さ50cm程度の穴を自分の近くに瞬時に作り出す
ソイルキャノン:一抱えほどの土の塊を打ち出す
光属性
フラッシュ:目を晦ませる程度の光を放つ
ライト:夜に周囲を照らす程度の光を放つ
他にもあるが、スズキが普段使っているのはこのあたりなのだそうだ
「少なくてお恥ずかしい。呪文を覚えるのが中々大変でしてな。魔法道具があれば、魔力をこめるだけで魔法を使えるらしいですが。そういったものは我々にはとてもとても」
「いや、十分すごいと思うの。どうなのタマちゃん」
「呪文を空で暗記するのはかなり辛いので、数種類に限定して覚えるのが普通なようですが。あとは必要に応じてそのつど本などを見て読み上げたり、暗記したり」
「そうでしょうなぁ。同じ属性の魔法は似た呪文が多いので、覚えるものが偏る場合が多いのですが」
「得意な属性ってそういうことなのね」
とりあえずこれらの魔法だけでも戦え無い事はないが、下級魔法というだけあって威力は低い
なので、スズキはこれらの魔法を組み合わせて使うのだという
そうすることで利便性を高めたり、効果を増したりするのだそうだ
「そういうのって普通なの?」
「合成魔法ですね。かなり高度な技術です」
タマちゃん曰く、人間やエルフの術者でも出来るものは少ないらしい
「というか、普通に中級魔法使いますからね。下位魔法を合成するぐらいなら」
「その方が効果的でしょうな。ただ、私はゴブリンですので。魔力が少ないので、小手先でカバーしているんですよ」
「ダメです。頭痛くなってきました。基準がおかしい……」
「タマちゃんの頭ってどこなの?」
唸るタマちゃんをとりあえずほっといて、スズキは説明を続ける
「まずは、火属性系統から。クラッカーは通常では普通に殴った程度の威力を、5から6m離れた相手に当てる程度です」
スズキはそういって、開いた掌の上でクラッカーを爆発させて見せた
ぱん、という音が響き、衝撃が走る
とはいえ、威力は余りありそうではなかった
「ですが、爆発というのは狭いところに閉じ込めて起こすと、威力をますものです。たとえば、クラッカーを掌の上で爆発させても怪我をするだけですが、もし握りこんだ拳の中で爆発させれば、指が全て吹き飛ぶでしょう」
「なにそれこわい。そうなんだ」
「そうなのですな。ですので、たとえば土と小石の塊を飛ばすソイルキャノンの中心にクラッカーを仕込めばどうなるでしょう。圧縮されて威力がましているので、凄まじい勢いで周囲に小石をばら撒くわけですな」
「軽いクレイモア爆雷っぽい。凶悪だなぁ」
「クレイモアバクライ、というのが何かは知りませんが、確かにこれは凶悪ですな。師匠に実物を見せられたときは、身が竦んだものです」
クラッカーは非常に簡易な魔法らしく、他の呪文に絡めるのが簡単らしい
もちろんスズキ基準での話しになるが
他にも、いくつか良く使う合成魔法があるそうだ
「アイスニードルにクラッカーを仕込むのも効果的ですな。相手に突き刺さし、爆発させるのです。先ほどの例えの、握りこぶしを体そのものにしてしまうわけですな」
「体吹き飛ぶじゃないですかやだー」
「呪文を唱える時はどうしても無防備になりますし、合成魔法は二つを足した分以上の呪文が必要になりますがね。威力はかなり出ます。熊なら、腹に一撃打ち込めばかなり優位に立てますよ」
「そっか。集中力がいるのか。あれ、だからスズキさん、最近ほかのゴブリンさんが動かしてるゴブリンコガネの後ろに乗ってるの?」
「そうですな。腕のいいものに動いてもらいつつ、私は攻撃に徹する。いや、良いものを作っていただいた」
体格のいいゴブリンコガネは、ゴブリンを二人乗せていても普通に走れる
機動力があって一撃必殺の魔法を打って来るなんて、酷い話だ
「他にも、スモールホールの底にクラッカーを仕込んで、相手の足を吹き飛ばすというのもありますな。まあ、呪文が長いのでなかなか難しいですが」
「地雷かぁー」
「ジライ? どういったものですかな?」
「あーっと。要するに罠ですよ。踏んだら爆発するってかんじの」
「おお! なるほど。あらかじめ仕掛けておくわけですな。しかし、魔法でそれを再現しようとすると厄介そうだ。中級魔法にそういった類のものはありますが」
色々話し合った結果、ホーネティアンに覚えさせる魔法はアイスニードルとクラッカーの合成魔法がよかろうということになった
ホーネティアンはあらかじめ決めておいた魔法を、呪文を唱えることなく魔力をこめるだけで発動できる器官をもっている
それを使えば、合成魔法の長い呪文も関係無い
利点だけを適用できる
「突き刺さったら体内で爆発するツララを連射するのかぁ。やだなにそれこわい」
「恐ろしい限りですなぁ」
「ちなみに、この合成魔法ってなまえあったりしますのん?」
「シャウト・スタッドといいます。師匠がつけた名前ですがな」
「なんかかっこよさげ」
仕込む魔法も決まったので、山田は早速ホーネティアンの製作を始めた
ただ、作業は思いのほか難航した
山田が望む知能レベルと、実際のホーネティアンの能力がかけ離れていたためだ
「ゴブリンレベルって言ったじゃんウソツキっ! タマちゃんのばかっ! もうしらないっ!」
「私のせいじゃないです」
結局、調整には一週間ほどかかった
そのかいあって、ホーネティアンはかなりいい感じに完成したのだった