「乙女ゲーの悪役はお前たちじゃない」 影拳ガルガン オープニング
確かに死んだという記憶があった
戦いに負けて、ぼろぼろになって死んだ
それは間違いない
にもかかわらず、どういうわけだか気が付いたらベッドの上に寝かされていた
どうしても体が動かず、いやにもどかしい
何事かと思いよくよく確認してみれば、自分の体が赤ん坊のようになっていることに気が付く
一体何が起きたのか
考える時間だけはふんだんにある
仲間がいつか言っていた「転生」「生まれ変わり」の類ではないかと思い当たるのに、さして時間はかからなかった
存分に生きて、死んだ
それは間違いない
納得できる死に様だった
なら、なんで生まれ変わったのか
記憶がそのままなのはどうしてなのか
もしや、成長するにつれて記憶が薄れていくのではないか、などとも思っていた
だが、結局記憶は残ったまま、成長していく
この世界は、あまり技術の進んでいない世界なようだった
魔法を基礎としているようだが、それも余り高い水準には無い
科学のほうは、殆ど発達していないようにも見える
仲間の一人が見たら、さぞ嘆くだろう
アレは技術関連に強いやつで、なにかと作っては役に立ててくれていた
まあ、それはいい
元々あまりそういったものには関心がなかった
無ければ無いで満足できる
そんなものよりも、得がたいものがここにはあった
前世では、親というものにあったことが無かった
そもそも保護者というものが居た事が無く
気が付いたら、荒くれた生活をしていた
別にそういったもの、いわゆる「家族の愛」といったものに憧れは無かった
ただ、あるように、好きなように生き、好きなように死んだ
それで満たされていた
だが
今の自分の両親は、自分を愛してくれている
ふれあい、言葉を交わす
時に、抱きしめられる
疑う必要も、試す必要も無い
ああ、愛されているんだ
理屈ではなく、肌に感じる実感としてそう理解できた
無条件に、無償で愛してくれる存在が居る
それがどれだけ大きなものなのか
生まれ変わって初めて理解する事ができた
守らなければならないと思った
これはなくしてはいけないものだと、強く感じた
是が非でも、何をしてもなくしてはならない
それと同時に、もしなくしたら、という恐怖を強く感じた
死ぬ瞬間すら感じなかった恐ろしさで、胸が押しつぶされそうになった
ただ、普通の暮らしが信じられないほどに愛おしい
穏やかな世界がこんなにも大切なものだとは思わなかった
刹那的に生きていた、生まれ変わる前の人生
それには絶対に戻りたくないと感じた
懐かしく感じる事はあったが、いまの生活を失いたくないという気持ちのほうがはるかに勝る
守りたい、守るものがあるというのは、こういうことなのか
前世で自分を倒したやつは、これをもっていたのだ
強いはずだ
負けて当然じゃないか
馬鹿は死ななきゃ直らない
良くそういわれていたが、どうやら本当だったようだ
まあ、いい
今は家族を、穏やかな生活を
静かに守ろう
辺境伯の元に、一人の娘が生まれた
男勝りで負けん気が強く、身体を動かすのが得意な娘だ
やんちゃで、両親や兄妹、使用人達をよくひやひやさせている
情に厚く、困っている人を見過ごせない性質で、領民からの信頼も集めていた
礼儀作法やダンスなどよりも、剣術や馬術が得意で、父親である辺境伯は「アレが男だったら」と良く嘆いている
畑を荒らす害獣はおろか、被害が出る前にと魔獣退治にも出かけていく
恐ろしいのは、それらをまったく危なげなく倒してくるところだろう
領地が辺境にあることから、魔獣の恐怖は常に隣にあった
そのため抱えた兵士たちは精強で、騎士とも成れば国内有数である
にも拘らず、娘はそれらに引けを取らぬどころか、打ち負かすような腕白振りを見せていた
成長するにつれ、いつしか騎士団の先頭に立って魔獣と戦うようになったのも、無理からぬ事だろう
いつも髪の毛を短く切り、男物の服装ばかりのこの娘が、社交界デビューが遅れたのも、また無理からぬ事だろう
だが、あるときついに娘も舞踏会に出席せねばならない事に成った
あまりにも社交界デビューが遅れたので、国王直々に「隠している娘を自分にも見せろ」という旨の手紙が、辺境伯に送られてきたのだ
年貢の納め時というやつだろう
娘は渋々、王都の舞踏会へと出席する事になった
とはいえ、あと数年もすれば、無理矢理にでも舞踏会へは出席し無ければならなかったのだ
貴族の子弟子女は、ある年齢になると、必ずとある学園に入らねばならない
娘とて例外ではなく、学園が王都にある関係上、逃げる口実がなくなってしまうのだ
それまではやれ「急病」だ「領地から遠いので」だと言い訳をつけていたのだが、通用しなくなってしまう
今回も娘は「自分がいない間、魔獣退治は誰がするのか」と渋りに渋った
しかし、最後は父親に手を引かれ、兵と領民達に背中を押され、王都へと出発する事になる
せめてもの抵抗に、と、普段着慣れている「男性用の礼服」で、娘は舞踏会へと出席した
そして
思いがけない再会を果たす事になる




