◇光の檻~とある神の誕生~序章
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冥王には左右を担う側近が存在する。
闇と光と喚ばれる一対の神である。闇はともかくも、夜闇の神が光の呼称は如何なものか。しかし、そんな疑問など光と呼ばれる白華を見れば霧散するものでしか無かった。
女神白華。
女神と喚ばれ乍らも、その姿は男神にしか見えない。
神々は声に出すことなく、下世話な想像を巡らせる事もある。
閨では女体なのであろうか………その想像が決して音声にして語られ無いのは、その女神の相手に憚るからだ。
最弱にして最強の神。
決して配下のモノに手を出さない冥王の、唯一の例外。
女神白華は冥王の、下世話な云い方をするならば、『愛人』でもあった。
何が下世話かと云うならば、それが人間の言葉だからだろう。本来ならば、神々の間でその様な曖昧な関係は有り得ないのだ。神の愛は喩え戯れに傾ける程度のモノでさえ、人間にしてみれば狂気としか表現しようも無い、神ならぬ身には耐える事も敵わぬ刃とも云えるモノだ。神々もまた、それを自覚するが故に、愛などとは無縁に過ごす事は特に珍しくも無かった。
また、自らを滅ぼす程にのめり込む神も、また、希少と呼ぶ程の事も無い。
大なり小なり、神々の『愛』と云うものは、そんな『狂った』モノなのだ。
だからこそ。
神々の間にあるのは、互いに割り切り快楽のみを交わす単なる『遊戯』か、互いに愛を交わす『配偶者』か、捧げた想いを一方的に搾取される『玩具』か。人間の世にあまた存在する、愛や戯れの狭間を揺らめく曖昧な『愛人』だの『恋人』などと云う関係など、存在する余地が無いのだ。
存在しないからこそ、それを表現する言葉もまた無かった。しかし、白華の立場は、単なる『玩具』と呼ぶには憚られ、冥王もまた『愛人』などと称される関係を否定しなかった。
誰が知るだろうか?
白華は思う。
周囲の下世話な想像とは、明確に異なる実態がある。
白華は困惑もする。
白華は冥王が希求する姿をとれる。にも拘わらず、冥王はそれをよしとしない。
寧ろ、冥王は白華に男性体である事なら求める。無性の神を抱くのは好まないらしいと、白華は知る。
しかし。
白華は『知って』いる。
冥王が、白華の中に『ある』ナニを求めているのか。
それは女性の姿でこそ、獲られる筈だった。
白華の魂魄に刻まれた、オンナである部分。
女神と喚ばれる由縁。
誰も………冥王とその『女神』しか知らない筈の事実を、白華は本能で『知って』いたのだ。
だが。
それは本能が知るだけで、明確に知識として知る訳では無い。
故に、その複雑な冥王の感慨を知らず、しかし、その餓えた希求を『知り』、なのに………それを斥ける主に困惑した。
矛盾を孕む冥王。
その矛盾は、愛情もまた、例外では無い。
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