4話 初配信
「今月の支出は以上です」
『わかった、丁寧にありがとうね』
「いえ、父にも同じようにしていたので。それよりも、支援ありがとうございます。姉さん達には僕のイラストでなんとかすると言ったものの、やはり微量しかないので」
『中学生なのに、イラストで稼いでいるだけすごいと思うよ』
「しかし、会社が正式に支援制度を作るのは大変でしたよね」
『まあ、そうだな』
夜風が僕の頬を掠める。
ベランダで星空を眺めたかったが、生憎曇っていて、暗い夜空を眺めていた。
『君のお父さんも言っていたけれど、君は詰め込みすぎるから、しっかりと息抜きもするんだよ』
「・・・はい。夜遅いのでそろそろ失礼します」
『そうだね。おやすみ』
ものすごく笑われている気がするが、気にしては負けだ。
「おやすみなさい」
電話を切り、ベランダの柵に体重を掛けながら考える。
詰め込みすぎか。昔華にも言われたな。母さんが亡くなってから頑張りすぎだと。
気がついたら日付が変わっていた。今日は父が亡くなって4週間が経つ日だ。
やはり辛い。今でも腹の中でぐつぐつと怒りが沸騰している。
しかし、感情を表に出すのは未熟もの。ガキにできることは何もないんだ。
「はぁぁぁ......」と大きなため息をし、気持ちをなんとか落ち着かせる。
しかし、秋元さんが後見人になってくれてよかった。親戚がいない僕らからすると、1番安心できる人だからね。
それにしても明日か。
明日は僕の娘の初配信だ。めっちゃ緊張する。
僕のイラストがYouTubeというネットの世界に晒されるのだ。
楽しみだが、不安でもある。
僕は夜風を浴びるのを程々にし、眠りについた。
「18時からやることがあるから、ご飯先に食べてて」
「兄さんご飯作りたくないからって嘘は駄目だよ、姉さんは騙されやすいんだから」
この子は何を言ってるのかな?
「いや、ご飯は僕が作るけど、華。あと、姉さんはどちらかと言うと人を騙す方だよ。ねえ、姉さん」
「ふふふ」
いや、怖いな。その笑いは。ほら、華も少し引いてる。
「とにかく、僕の娘の初配信があるから、先に食べてて」
「いや、私も見たい。だから、ご飯食べながら、テレビで見ない?」
「僕はいいけど、姉さんが許すかどうかだよ」
流石に姉さんは駄目って言うよね。
「いいね。私も見たいし、華の意見にさんせ〜」
「えっ」
あのマナーにうるさい姉さんが了承するなんて。これは夢なのかもしれない。
「凪、今失礼なことを考えていたよね?」
「そんなことないさ、僕は常に姉さんを尊敬しているから」
危ない、姉さんはやはり危険だ。
「確かに、普段だったら許さないけど、私も見たいというのと、昔約束したじゃん、ご飯はなるべくみんなで食べると」
そういえば、母さんが亡くなったあの日、約束したな。
そして華、何故貴女は泣きそうなのだ。感動の涙だといいのだけれど。朝から悲しまないで欲しい。
「わかった。ご飯はいつも通り、作って、リビングにローテーブル出して、テレビ見ながら食べるでいいんだね」
「意義なし!」
「同じく〜」
みんなで見ることが決まった。なんか、恥ずかしいな。僕の子がみんなに見られるなんて。
「いや〜、兄さんの娘早く見たいな〜」
「ねー、凪の絵見るの初めてだもんね〜」
時刻は17時55分。あと5分で配信が始まる。
待機人数は、1万人弱だ。初配信とは言え、最近できた事務所にしては多い方だ。
「てか、今日のご飯豪華だね〜」
「緊張で、作り落ち着いていられなくて、、、」
「兄さんって緊張するんだね。そんなもの無縁の人間だと思っていたよ」
は?何言ってんだこいつ。
「華は最近、僕に対する遠慮なくなったよね」
僕は死んだ魚のような目をして睨む。
「兄さんごめんなさい。調子に乗りました。目に光がなくて怖いからもうやめてください」
「へー、調子に乗っていたんだ。どうして自分がそんな立場になれると考えることができたのかな〜?」
華は追い詰められて、ガクガク震えている。
「凪、そこまでにしなさい。折角のご飯が美味しく無くなる」
「わかった。そもそも、最初からそんなに怒ってないし」
そう、僕は怒ってないのだ。
それよりも、姉さんの発言が面白すぎる。姉さんは食いしん坊だからな。それなのに体型はいいので、女性からすると喉から手が出るほど羨ましいだろう。
『みなさん、お待たせしました、こんばんは』
「「かわいいー!」」
2人とも食べることを忘れて、画面に見入っている。
コメント欄も
《かわいい〜》
《声がいい》
《これが天使か》
などと高評価だ。
コメントであった通り、声がすごく綺麗だと思う。僕も初めて聞いたから驚いている。
『本日は配信にきてくださりありがとうございます。初配信なので、自己紹介と雑談の二本立てでお送りします』
「凪、何この子、可愛すぎる!」
「兄さん、私推しちゃうよ」
「そう言ってもらえると、あの3週間が報われるよ」
実はこの2人、意外にも2次元ヲタクだ。僕みたいに曝け出していないけど。
『グレースフル所属4期生の東雲千華と申します。趣味は読書とアニメ鑑賞などです』
《この子ヲタクだ》
《何歳なの?》
《絶対ヲタク》
《かわいい》
『コメントでみんな言っている通り、私はヲタクだよ〜。あと年齢も多いね。年齢は大学生だよ。ちなみにサバ読みはしてないよ〜』
「若いね〜。兄さん、中の人可愛かった?」
「華、聞いてはダメよそんなことと言いたいけど私も気になる」
確かに気になるよね、中の人の容姿。聞いてはダメだけど聞きたくなるんだよ。
「ごめんね。実際に会ったことはないんだよね。通話での打ち合わせはしたことあるけど」
「「えっ!いいな〜」」
仲良いなこいつら。
「いいのか悪いのかはわからないけど、会話はしたよ」
「私にも連絡先頂戴!」
「姉さん、流石にそれはできないよ」
「ケチー」
「代わりに幸人の連絡先あげようか?」
「なっ、なに、言ってんのよ。じ、自分で聞くからいいよ!それよりも配信にし、集中して」
僕と華は思わず吹き出してしまった。
姉さんは幸人のことが好きなのだ昔から。まあ、今はそんな話置いておいて。
『次に、私の生みの親を紹介します。まず、イラストは小雪ふーとママです』
《誰だ?》
《誰?》
《誰だよ》
《最近出てきた人か》
《この前のサイン会にいた人か》
「うん?サイン会?凪、サイン会って何?」
うっ、姉さん目敏い。
「兄さんサイン会って、絵師さん50人が毎日、入れ替わりでサインする奴だよね」
「そ、そうだよ。また、あとで詳しく話すから今は配信に戻ろう」
「凪。逃がさないからね〜」
背中に汗が伝う。もちろん暑いからではなく冷や汗だ。
『次にモデリング。モデリングというのは、ママが描いてくれた絵を動かしてくれた人のこと。これは小雪ふーとさんです』
《まさかの同じ人で草》
《草》
《草》
《すごいな》
『マネージャーが言っていたんだけど、3週間で完成させたらしいよ〜』
《3週間!》
《それはすごい》
《普通は1ヶ月くらいはかかるはずなのに》
『自己紹介はこんなもんにして、雑談でもしますか』
我が娘は30分くらい雑談をして、無事初配信を終わらせたのだ。
「凪の絵初めて見たけど、上手いね」
「ねー。とりあえず、目の保養として、千華ちゃん推すね」
「私も」
「そう言ってもらえてよかった。納品してからずっと不安で夜しか眠れなかったんだよね」
「それは大変な。凪今日は私と寝よっか」
「えっ、ちょ、何言ってんの兄さん、姉さん。あと姉さんと寝るのは私だから」
配信が終わり、茶番をしてから片付けをして寝れればよかったけれど、姉さんは流してくれない。
「そういえば凪、さっきの話の続きで、サイン会って何?」
2ヶ月更新がなくて申し訳ございません。
次はもっと早く出す予定です。
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