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姫騎士のスペシャルマッサージ(?)と蠢動する隣国

☆ ☆ ☆


 風呂に入りメシ(というか肉)を喰らい、あとは歯を磨いて寝るだけ。

 そう思いながら部屋の窓から外を眺めていたところで――自室のドアがノックされた。


「……あの、夜分遅くに申し訳ありません。少し、よろしいでしょうか?」


 すでに気配探知魔法で誰が来たのかはわかっていたが――トヨハだった。

 ちなみに、現在時刻は零時である。


「ああ、いいぞ。自由に入ってくれ」

「ありがとうございます。それでは」


 そして、入ってきたトヨハはパジャマ姿だった。

 姫騎士姿やドレス姿のときとは違った、自然体な感じだ。

 しかも、湯上りなのか、薄っすらと頬が上気していて髪が艶やかである。


「どうした? なにか悩み事があるなら、相談に乗るぞ?」

「はい、ありがとうございます。その……ここは来たのは……もしよろしければ、ナサト様にマッサージをさせていただきたいと思いまして……」

「マッサージ?」

「はい。わたくし、本当にナサト様には感謝をしております! なので、わたくし自らナサト様のお疲れを癒せたなら、と……だ、ダメでしょうか?」


 この国は、献身的な人間が多いらしい。

 浴場ではサキとミナミに背中を流してもらった。そして、今度は姫自らマッサージとは。

 メシも美味かったし、今回の異世界転生は至れり尽くせりといったところだ。


 しかし、嫌な予感がする。女性への免疫が0な俺としては、部屋でふたりっきりは辛い。

 だが、英雄がそんなことで狼狽(うろた)えてるのもどうかと思う。威厳に関わる。


「ま、まぁ……ダメということはないが……でも、いいのか? むしろ、今日の鍛錬で疲れているのは、おまえのほうだろ?」

「いえ、これくらい……へっちゃら、ですっ……」


 なんて言ってるが、魔法を使うまでもなく疲労しているのがわかる。そんな状態でも俺にマッサージをしようというのだから根性があるというか自己犠牲精神が強いというか。


「……まぁ、せっかくの申し出を断るのも無粋か……それじゃ、お願いするか」

「わあ、ありがとうございます! それでは、うつぶせになっていただけますか?」


 よほど嬉しいのかトヨハは花咲くような笑みを浮かべた。

 そんなに俺にマッサージできるのが嬉しいのか?


「お、おうっ」


 トヨハの笑みに思わずドキリとしながら、俺はベッドに上がり背中を向けてうつぶせになった。


「わたくし、こう見えてマッサージが得意なんです! わたしの城にはマッサージ術を極めたメイドがおりまして……いろいろ教わったのです!」

「ほう、それは楽しみだ」


 姫という立場なのにメイドさんからマッサージを教わるとは、おてんばなお姫様だ。

 姫なのに偉ぶらない点は評価できる。


「それでは、失礼いたしますね。……よいしょっ」


 そんな声とともに、俺の背中の下部に柔らかい感触が拡がった。

 どうやら、トヨハは馬乗りになったようだ。


 ……つまり、この柔らかさの正体は……って、なにを考えているんだ、俺は。

 これはマッサージなのだから、やましい気分になる必要はない。


「では、始めさせていただきますね♪ んしょ、よいしょっ♪」


 トヨハは五指を開くと、こちらの背中に向かってギュッ、ギュッと力を込めたマッサージをしてきた。


「お、おぉ、うあ、あぁあ」


 手は柔らかいのに、力は適度に強い。さすが剣士なだけある。

 しかも、こちらが凝っている部分を適確に見つけ出して、ほぐしてくれる。

 これは確かにマッサージ術を学んだというだけある。


「いかがでしょうか? どこか体に気になる部分はありますか?」

「いや、まぁ、特にないな……任せよう」

「はい、わかりました。お任せください♪ よいしょ、んしょっ」

「おぉお、上手いなっ、うぐぅ……」


 これは驚いた。下手な回復魔法より疲れが取れるし気持ちがいい。


「せっかくなので、メイドから教わった奥義を出しますね?」


 奥義? マッサージに、そんなものがあるのか? 剣術でもあるまいし……。

 そんな疑問は、すぐに――『柔らかさ』によって、氷解した。


 なんと、トヨハはこちらの背中に密着するようにしがみついてきたのだ。

 結果、ふたつの柔らかい膨らみが背中にあたる。

 いや、押しつけられる。否、押し潰される!


「ちょ、なっ!? えええ!?」


 俺は思いっきり狼狽える。

 だが、トヨハは落ち着いたものだ。


「一番柔らかい部分を使うのがいいとメイドは言っておりました。わたしも何度かメイドにしてもらったことがあるのですが、こうやってお胸を押しつけられると気持ちいいですし、安心しますよね?」

「さ、左様……」


 つい、変な応答をしてしまった。

 というか、なんだこの展開は! 


 俺はあらゆる激痛や苦痛には耐えられるが、こういうことへの免疫はない。

 というか、この姫、わざとなのか天然なのかわからないから困る!


「どうぞ疲れを癒してくださいね。んしょっ、んしょっ」


 トヨハはそのまま俺にしがみついたまま、体を上下に揺さぶってきた。

 当然、そんなことされたら、頭がフットーしそうである。


「ちょ、待てっ、これ、俺には刺激が強すぎるから……!」

「ふふ、そう言われると……逆にもっとしてさしあげたくなります♪」


 なんという自重しない姫なんだ!

 というかこの国の女子たち変なところでアグレッシブすぎ!


「ストップ、ストップ! もう、いいから!」


 俺は傀儡魔法を使って、強制的にトヨハの動きを止めた。

 まさか、一日に二度もこんな魔法を使うとは思わなかった……。


「ああっ、ナサトさま、これからがいいところでしたのに……」

「おまえは俺をどうしようと言うんだ……」


 この国の女子たちはフリーダムすぎて、俺にはキツイ。

 風紀の乱れている女子校に赴任してしまった教師のような気分になる。


 この学園で教鞭を執り続けることは、世界を救うよりも難易度が高いのではなかろうか?

 俺は、元の世界に帰りたい気持ちになった……。


「ま、まぁ、それよりも……隣国の状況が、なんかおかしいぞ? この国に向けられている悪意というか敵意が強まっている」


 俺は危機探知の魔法によって、この世界のあらゆる状況を監視している。

 具体的には、悪意や殺意に対して感知できるようになっているのだ。


「……隣国ダーノは世界が滅びに瀕している状況でも他国への侵略をやめず、領土を増やすような国なのです。そんなことをしても、魔族につけいる隙を与えるだけなのですが……」


 まぁ、俺の転生タイミングは世界が滅ぶ一年ぐらい前に設定されているので、少しは余裕があるはずだ。


 つまり、俺が転生しなかったら人間の国同士で争って疲弊したところに魔族が侵入してきて人間が滅ぼされるということだろう。『漁夫の利』といったところか。


「実は、急遽、一週間後にクラギ学園で武道大会が開かれることになったのです。もしかすると、それに乗じてこの国を攻め滅ぼそうと目論んでいるのかもしれません。突然、今日通告されたので困惑したのですが……しかし、相手国は大国なので、わたくしは拒絶できませんでした。そのご相談もあって、今日、わたくしはナサトさまのところに来たのです」


「なるほど。そうだったのか」


 武道大会に参加する生徒を引率するという名目で、引率の教師たちもくるだろう。

 その中に特殊部隊的な魔法使いや剣士がいれば、容易くトヨハを暗殺することができる。


「まったく、愚かな話だな。むしろ今は人間の国同士で協調して魔物と戦うべきなのに」

「ええ、そうです。それなのに、ダーノは西部の国を滅ぼし南部の国まで解体しました。わたくしとしても同盟したくないのですが魔物との戦いがあるので、やむをえず……」


 政治家としては、それが正解だろう。好き嫌いだけで動くことは、国を亡ぼす元だ。


「ま、俺が来たからには安心だ。そのまま武道大会とやらを開催すればいい。もし変な動きをする奴がいたら絶対に俺が守ってやる。トヨハのことも生徒たちのことも」


「ありがとうございます! 本当にナサト様が来てくださって助かりました。わたくしにとって、白馬に乗った王子様のようです!」


 トヨハは瞳をキラキラと輝かせていた。

 これまで百回転生したけど、ここまで善良かつ美人な姫は初めてだ。


「やはり、この感謝の気持ちを伝えずにはいられません! ぜひぜひマッサージの続きをさせてください!」


 ……ついでにいうと、大胆さも。

 ほんと、積極的すぎるだろ。しかも、間違った方向に。


「いや、気持ちだけ受け取っておこう」


 女性に対する免疫0の俺は、もうこれ以上はメンタル的に限界だった。

 俺は、あくまでも戦いが第一の男なのだ……。



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