第八話 異世界での怒り ドラゴンと魔族8
ストックの関係で 一日一話更新に戻りますね。
大地は肩を貸して貰っている現役高校生二人を横目で見た。その眼には真っ直ぐ前を向く二人が眩しく映る。その事に何だか自分が情けないような、何とも言えない感覚を味わった。
「この先に、…居るな。」
先頭を行く涼貴が声を掛けてきた。大地の足に合わせて進んでいた為、その歩みは遅く、涼貴が大地の言う巨大亀の足跡を探し出し、その跡を追わなければいけなかった。この辺りの自然は、巨大な亀が日常的に移動できる様にか枝葉はかなり高い所になっている。
地面自体もかなり踏み固められ、歩きやすいが、亀の足跡すら殆ど残っていなかった。しかし、其処は猟師である涼貴。確かに判り難いが、足取りに迷いはない。哲多達には判らないが、涼貴曰く、地面に踏みしめた時に出来る削れた後があるのだそうだ。
木々を避けて、数分歩き出すと哲多達にもこの先に居る事が判るようになった。腹に響くような、まるで巨大な生物が足踏みをするような、ズシンズシンという音と足の裏に伝わる振動。
「急ぐぞっ!!」
「あ、大地さんっ!!」
続いて聞こえてきた甲高い悲鳴の様な鳴き声に、肩を貸して貰っていた大地が飛び出した。後ろから三人の心配する様な声が聞こえてくるが、大地はそんな事よりも、亀の生存の方が何倍も心配であった。
「がはははっ、あの精霊種も無駄死にじゃったのっ!!」
大地が木々の間を抜け、広場の様な場所に出た時には、巨大な陸亀は地に伏していた。甲羅は罅割れ、手足に付いている鱗は剥がれ落ち、顔から血を流している。しかし、卵を守る為、片足だけは上がっていた。
それを、上空から巨大な蝿が嘲笑う。それを視界に捉えた大地は顔を真っ赤に染め上げた。本能のままに叫ぶ。
「俺は死んじゃいねぇっ!!ここに居るぞっ!!」
「ぬ?むっ、しぶとい精霊種じゃのう。」
その空気を震わせた大地の声で大地の事に気付いたのか、巨大な蝿は大地の方を向いた。巨大な陸亀はもう虫の息であり、放っておいても問題無いと判断したのだろう。
「ふむ、来た事は誉めてやろう。じゃが、如何するつもりかね。」
「如何するも、こうするもっ!!……っ!?」
何処までも上から目線で大地の事を侮る巨大な蝿に、目に物見せてやると意気込んだ大地だったが、自身の変身バックルに目をやって、言葉を失った。
巨大な足の下に存在する龍玉と呼ばれる部分が割れていたのだ。そういえばと思い出す。大地が最後に見た巨大な蝿の一撃が、バックルに当たり、変身が解かれたことに。その一撃がナノマシン制御部分に当たったのだと気付き、顔を青くする。
「ウインドシュート。」
「むっ…。」
「フレイムハンマーっ!!」
「シーランサーっ!!」
だが、次の瞬間、風の弾丸が巨大な蝿に命中した。高速で振るわれた羽に弾かれはしたものの、蝿の視線を涼貴、リュウレングリーンの居る木々の方へと引きつける事に成功した。
その隙を見逃さず、空高く跳び上がったリュウレンレッドがフレイムハンマーを。リュウレンブルーが空気中から集めた水で形成されたシーランサーを振るう。
「甘いわっ!!」
「うわっ!」
「きゃっ!」
意識が完全にリュウレングリーンの方へと向いていたのにも係わらず、普通なら死角となる筈の上空からの奇襲に対応して見せた蝿。振り下ろしたフレイムハンマーの柄を握り、リュウレンブルーの方へと放り投げる。
ぶつかった衝撃で驚きの声を上げる哲多と、小さく悲鳴を上げた空。瞬間、巨大な蝿は姿を消す。
「がぁっ!!」
木々の間に身を潜めていたリュウレングリーンが、苦悶の声と同時に跳び出してきた。高速で移動した蝿に蹴り飛ばされたのだ。
「ぐっ、な、何でっ!!」
「…複眼か?」
投げ飛ばされた為、本来の形とは違う落ち方をした為、呻き声を上げた哲多。何故奇襲に失敗したのか疑問の声を上げる。
その問いに答えたのは、吹き飛ばされた涼貴であった。蝿に限らず、昆虫に見られる複眼という多数の小さな個眼が束状に集まった目が、哲多達の姿を捉え、そればかりではなく、不可視の筈の風の弾丸すら視認を可能としてしまったのだ。
当然、その弾丸を放ったリュウレングリーンの姿も捉えており、すぐさま涼貴の後ろに回って蹴り飛ばしたのだった。
「当たりじゃ。お主らの動きは見えておるぞぉ。」
「見えてたって、ぐはっ…!!」
「哲多っ!!」
挑発も含んでいるのだろう。無駄に言葉尻を伸ばして言う蝿に、哲多が、見えていても避けられない攻撃をすればいいとハンマーを振り上げながら突撃した。
蝿の目には止まっているかのようにと言うと誇張表現になるが、スローモーションの様に見えている。動きの遅くなった空間、その中を蝿の速度で持って、普段と同じような速度で飛び、リュウレンレッドの腹に蹴りを見舞った。
ナノマシンが殺し切れなかった衝撃が、哲多を貫いていく。勢いよく飛んでいき、木々に打つかって止まった。
「甘い甘い。ほらほら、当たらなければ如何って事等ないのじゃよ。」
リュウレングリーンが風の弾丸を散弾に変えて放つも散弾が無い場所を空中を泳ぐ様にして避ける。面制圧と言っても、その弾丸にも隙間と言うものはあり、その中を潜り抜けてきた。
リュウレングリーンに攻撃を仕掛ける巨大な蝿、だがその瞬間を狙いリュウレンレッドがハンマーを振りかぶる。
「がはっ。」
「言ったじゃろ。当たらなければ如何って事無いと。」
同じ言葉を口にしながら、リュウレンレッドの後ろに回り込み、リュウレンレッドをグリーンの方へと蹴り飛ばした。
飛んできたリュウレンレッドと共にその勢いを殺せず、木々の間にその姿を消す。
リュウレンレッド、哲多が最初に戦った魔族、巨大な蜻蛉も複眼であったが、此処まで苦戦することは無かった。
それは単に相性というもの。蜻蛉は蝿と違い、一直線に飛ぶのであれば速いが小回りが利かないのである。その為、一直線に飛んできた蜻蛉の前に飛び込むようにしてハンマーを叩きつけた事であっさり勝ったのだ。
しかし、蝿は直線の速さは劣るもののその小回りの速度は比べようも無い程速いのだ。蜻蛉が戦闘機、蜂がヘリコプターだとすると蝿は小型飛行機だろう。戦闘機程の高速では飛べずとも、その速度は速く。ヘリコプター程小回りは効かずとも、下手な戦闘機よりも小回りは効く。
ましてや、その魔族は魔族の中にしては老齢だった為か異端で、頭脳戦を得意としていた。その頭脳が、哲多達の行動を先読みし、複眼から送られた情報を吟味し、最適な行動を可能としていた。
「くっ、くそっ!!」
大地は一人歯を噛み締めていた。変身した時のナノマシンの補助が無い状態で、あの戦いに行っても邪魔でしかない事は解っている。こうして哲多達が苦戦している所を見ても、陸亀の傍を離れられない自分に苛立つ。
その時、大地の後ろから地響きが聞こえてきた。何だと振り向く大地に倒れ伏す陸亀。その腹の下には上部から中程まで割れた卵があった。その傍には小さい、と言っても大柄な大地の膝よりも上ぐらいの大きさの陸亀が居た。
「う、産まれたのか。」
「うむ。」
思わず呟いた大地に、片目を開いて小さく頷いた巨大な陸亀。大地に頼みがあると言い、子供の名付け親になってくれと言ってきた。
名付け親になれと言われた大地は驚きながらも、亀は万年と長生きの象徴でもある事から、年の表外読みである『みのり』と名付ける。大地の職業である農業家としても、大きく実ってほしいと思いを込めたのだ。
その名前と意味を聞いた陸亀は口角を上げて、たぶん笑った。大地にははっきりと判らなかったが、確かに喜んでいるような雰囲気を感じる事から笑っているのだろう。
「良い名だな。」
「だろう。」
巨大な陸亀の動きが、元々緩やかだったが、それでも素人目に判る程に遅くなっている。大地すら、もう手の施しようがないと判る程だ。自身でも判っているのだろう。大地に傍に来るよう頼んできた。
「…なんだよ。」
「すまぬな。みのりを頼めるか?」
「…ああ、任せとけよ。確り育ててやる。」
泣きそうになっているのを我慢していた為に、やけに言葉使いが汚くなるも、陸亀は気にした様子もなく、大地に一言謝ると、生まれたばかりのみのりを大地に預けてきた。大地は胸を張って了承する。
もう一つ謝った陸亀は、それを直しておくと言って、光に包まれる。
その光はやがて大地のバックルへと流れ込んだ。その事に驚き、バックルに目をやっている間に光になった陸亀の姿は薄れていき、バックルが治ったのと同時に消えて無くなった。
「無意味な事を。こやつは一度敗れておるのじゃぞ。」
その様子を見ていたのだろう。巨大な蝿が陸亀を馬鹿にするような言葉を吐いた。
「流水っ!!」
大地のその返答は、怒りに震える大声での掛け声であった。
左腕を肘から曲げて、顔の前に真直ぐ立てる。拳は顔の方へと向けて、手首に巻いたバックルが蝿へと良く見える様に掲げた。蝿側に向けた龍の足が正面に来るようにして右手で内側の摘みを掴んだ。
掛け声と共に、摘みを押しこんだことでギミックが作動する。龍の太い足が、虹色に輝く龍玉を踏み締める。
大地の体を光が包み込んだ。自然の光ではない。今現在の玩具というのはそういう物であった。
医療用のナノマシンを使用し、組み込まれたギミックを作動させると、収納されていたナノマシンが体の周りに放出され、それがゴム質な何かに変質する。
ナノマシン自体には複雑なプログラムを組む事は出来なくとも、磁力の影響を受けることは出来る為、ギミックを作動させた時にバックル側で操作することが出来るのだ。
電気の代わりに魔力によって動かされたナノマシンは大地のガッチリした肉体を黄色いゴム質な何かで覆っていく。肩、胸、腕、足と橙色で覆われていき、左右に広がる数本の猫の様な髭を持つ黄土色の龍の顔を模したヘルメットが大地の頭を覆った。
「大地と力の伝説、リュウレンイエロー。」
燃え上がる怒りを溜めているかのような、そんな雰囲気を出しながら決まっている動きと名乗りを上げる。
「くっ、火と鉄の伝説、リュウレンレッド。」
「…海と空の伝説、リュウレンブルー。」
「はぁ、木々と命の伝説、リュウレングリーン。」
その名乗りに、苦悶の声を上げながらも、木々の間から出てきた哲多が続く。同じく怒っているのか無言でそれに続いた空。溜息を吐きながらも、自身は冷静にあろうとクールに名乗った涼貴。
「な、何なんじゃお主らはっ!!」
『伝説が重なり今此処に。連楽戦隊リュウレンジャー』
巨大な蝿の問いに答える様に声を重ねてポーズを決めた。大地の静かな怒りに同調した過剰な魔力が背後で爆発を起こす。
「さぁ、伝説の物語の第四章だっ!!」
その爆発に感化されたのか、大地は蝿に指を突き付け、怒りを爆発させたのだった。
大地は今リュウレンイエローの中で激怒していた。怒りが視界を狭めていると何処か冷静に考える部分が無ければ、周りを無視して今にも飛び出してしまいそうだ。
何とか周りの名乗りと、変身後のポーズまで待っていたのが不思議なぐらいに体が疼いている。
ああ、だから俺が『大地と力』なんだなと冷静な部分で納得した。
リュウレンジャーの何々と何々の伝説という名乗りはその人の出自や名前、職業の中で合った物が選ばれている。哲多なら中流域の特産である金属加工技術と哲多の名前を掛け合わせたもの。空なら、最下流域の海を前面に押し出したレジャー施設や、スカイダイビング。そして空自身の名前だ。
だが、涼貴と大地に関しては、名前だけなのではないかと大地は考えていた。
涼貴は猟師であり、日々命を狩っている。それに対し、大地は農業家であり、命を育んでいるのだ。だが与えられた名乗りは、涼貴が『命』であり、大地が『力』なのである。
それには訳があった。大地の出自である。涼貴自身、日々命を貰って生きているからか、小さな命に対しても確りと感謝を込めている事もあるのだが、それでも大地にはそれ以外に思い浮かぶ事項がなかったのだ。
大地の小さな頃の記憶は暴力と共にある。父親からの暴力。所謂、家庭内暴力DVだ。飲んだくれで、酒が切れかかると身近な者に殴りかかるのだ。そんな父親の標的にされたのは幼い大地と、そして大地の母親であった。
この事が明るみに出れば警察も動けたのだろうが、母親は幼い大地ですら何処を好きになったのか判らないこの男を好いており、警察に届ける事をしなかったのだ。その上、この男酒が入っていない、要するに外用の顔は優しさ溢れる、頼れる良い父親と言ったもので誰もそんな男が暴力を振るっているとは思ってもいなかったのだ。
過疎化が酷くなり始めた時期の上、大地の住む地域は隣の家まで一キロ以上離れていた事も原因だったのだろう。
大地は母親に抱かれるようにして守られていた為、直接的な暴力を振るわれた事は無かったが、それでも母親の頭から赤い血が流れ落ちてくるのを見れば、その男に恐怖心を抱いても仕方がなかっただろう。
直接であれ間接であれ男の暴力が原因になったのは明らかであろう、母親がまだ四十にも届かない歳で逝ってしまった。外様には病死とされたが、疑う人も居たのではなかろうか。だが幸か不幸か、その頃には大地の体格は今ほどでは無いにしろガッシリとした印象を抱かせるものに成っていた。
男の暴力を自力で跳ね除ける様になっていたのだ。その頃からだろうか、男は酒をやめ、何をやるにしても、自身の息子、大地の顔色を窺うようになったのは。そんな男が許せなく数発殴っては、苛立ちのまま、まだ人がそれなりに溢れていた中流域の裏路地に出かけた。
そこで屯っていた不良と呼ばれる連中相手に喧嘩三昧の日々。同い年所か、大人よりも体が大きかった大地にとって、それなり程度しか実力のない相手は体のいいサンドバックが向こうからやって来てくれるだけであった。
朝方、路地裏のごみ溜めで目覚めた大地は家に向かって歩き出す。バイクとかの免許はまだ取れる年齢ではなく、暴力沙汰と深夜徘徊以外には良い子ちゃんであった大地は基本的に自身の足で移動していたのだ。その辺りは父親の血が流れていたのだろうと思える。
またヤンチャしてきたのかい?家に向かって帰っていると、何時も決まった場所で声を掛けられた。自身の家から二件隣の母親の知り合いであった老婆である。
母親が大地を産む前にしていたパート時代の大先輩だそうだ。大地のオシメも換えたことがある人で、大地自身苦手な人でもある。結構な歳であり、何時ポックリ逝ってもおかしくない皺くちゃの婆だったが、大地には何故かこの老婆の言葉が耳に付いた。
そんな老婆にウルセェとだけ返して、その老婆の家に上がり込む。これも日課であった。知らない仲では無し、その老婆の家で風呂に入り、汚れを落としてから食う野菜中心の朝食は美味かったのを覚えている。
老婆は朝風呂等入らないのだが、何故か沸かしてあったのだ。大地が入る為だけにである。朝食も、家庭菜園で生った物を使用して、色取り取りな物を大地に食わせていたのだ。
老婆は朝食を食べ終えた大地に決まってこう言うのだ。今日は何で泣いていたんだい。フザケンナ、ババァ。そう返す大地に優しい母親の様な眼差しで見られると、それ以上言えなくなる大地。
だけど、偶々その日は、『マタ、食いに来るよ。』そう言って帰路につくのだった。足取りは軽くなっていた。その老婆がその日の夜半に亡くなったと、次の日に知るまでは。
何時も通りの日常を送り、何時も通りの道を帰っていると何時も必ず掛かる声がない。それどころか、何時もの家に黒と白の布が飾り付けられ、何時もの玄関前に提灯がぶら下がっていた。黒いスーツを着た人が疎らに出入りしている。
バァサン、如何したんだっ。慌てた大地が、出入りしている見知らぬ人を捕まえて問いただす。体格が大人よりいいとは言え、顔はまだまだ幼さが抜けない大地の権幕に、近所の知り合いであろうと考えたその人は、大地に老婆が亡くなった事を告げて、焼香をあげていくかどうか聞いてきた。
茫然とした大地を無理やり焼香の前に連れてきて、そこで白黒の生前の笑顔の写真を見た大地の目から涙が溢れ出したのだ。母親が亡くなった時でさえ、やっぱりという思いが強く、涙が出なかったのだが、この時ばかりは大声で泣きわめいてしまった。
子供の様に泣きわめいて迷惑を掛けたであろうに、その老婆の親族は泣き疲れて眠ってしまった大地を、部屋の一室に寝かせてくれていた。
目が覚めて最初に見た風景はその老婆の育てていた野菜達である。夏に差し掛かろうかという時期に、真っ赤になって朝露を滴れせているトマトに曲がりすぎだろうと突っ込みを入れてしまいそうになる一回転したキュウリは、家主が亡くなっても、まるで大地を待っていたかのように見事に生っていた。
涙が溢れそうになる心に整理を付けた大地は、親族の人達に許可を貰って、その野菜を植木鉢ごと貰ったのだ。
高校に上がった大地は農業家への道を歩き出す。家に持ち帰った野菜は、毎日欠かさず世話をして、老婆程のものは流石に無理であったが、それでも食べたら美味しかったのだ。まるで、老婆が生きていた時に出してもらった朝食の様に。その感動を、他の人達にも味わって貰いたくて、自身の育てた野菜を出す店を開くのが大地の夢と成っていたのだった。
やがてその夢は叶う。だが、過疎化の進んだ地域では客の入りが無いも同然であり、感動を別の人にもというのは、まだまだであった。
そんな時に、地域活性化を考え合併という話が浮上してきた。その事にいの一番に賛成した大地は、その合併に際し考え出されたリュウレンジャーに応募したのだ。
現場監督が、大地と同い年であったが、他の作品で大当たりしている以上下手は打つまい。そう考えていたが、出身も同じ、年も同じだとすれば、何処かで大地の過去を聞いていたのかもしれない。
その事に溜息を吐きたくなるも、過去を思い出していた為か、収まった怒り。しかし、視線を魔族の、蝿の方へとやると、怒りが溢れてきたのだ。
ああ、そうか。似ているんだ。目の前の蝿が、暴力を振るっていた頃の父親に。そしてあの巨大陸亀の目が朝食を食わせて貰っていた老婆に。
「おい坊主、お前は一発デカいの頼むぜ。」
「大地さん?」
「涼貴はその補佐な。嬢ちゃんは遊撃で頼む。」
「黄広さん?」
「…あの蝿野郎は、俺にやらせてくれ。」
大地が一歩前に出て、哲多に指示を出す。その事に不思議そうに大地を見る哲多。哲多の様子に笑ってしまいそうになりながら、更に一歩、歩を進め涼貴に哲多に協力するよう言葉に出した。
涼貴にも大地の行動を訝しむ様な声を出され、そんなに俺は信用無いのかよと思いながら、更に一歩踏み締めて振り返り頭を下げる。そんな大地に三人は息を飲み、大地が顔を上げた瞬間、応っ!と答えたのだった。
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