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第5話

「芸術への探求心を持たぬ実行者など……」


「路地裏で骨を奪い合って噛み合う野良犬と何が違うというの?」


無面はその場に立ち尽くし、空白の仮面をまっすぐリアンに向けていた。


彼は三秒間沈黙した。


それから、ほとんど麻痺しているものの、使用人の哀愁に満ちたトーンで、ぼそりと返答した。


「……犬のほうが、夜遅くまで残されて主人の独演会に付き合わされずに済む分、マシです」


「……」


リアンは深く息を吸い込み、胸を大きく上下させた。右手の指先が無意識のうちに縮こまり、指先から魔力が制御を失って明滅し始めた。彼女は目を閉じ、心の中で「優雅であれ、優雅であれ、凡人と張り合ってはならない」と三度唱えた。


「黙りなさい。ロケハン用の隠蔽ルーンの準備に取りかかりなさい。もし午後までに要求通りのルーンを用意できなければ、私の言霊で広場のど真ん中で一日中アヒルダンスを踊らせてあげるわ」


無面はそれ以上言葉を返さず、極めて時宜を得たお辞儀をして、速やかに部屋の影の中へと消え去った。


審美眼のかけらもない従者を追い払った後、リアンは改めて気持ちを整理した。彼女は自ら外出し、現地調査を行うことを決めた。シナリオのアウトラインはすでに出来上がっている。今必要なのは、その枠組みを完璧に満たしてくれる「役者」を探すことだった。


午後の王都は、日差しが強かった。


リアンは貴族の令嬢としての変装を保ったまま、黒いレースの日傘を差し、一見すると何気ない様子で王都で最も賑わう中央市場を散策していた。


その歩みは優雅で落ち着き払っており、まるで自らの領地を巡回する女王のようだった。彼女の視線は行き交う平民、値切り交渉をする商人、巡回する騎士たちを通り抜け、脳内の『シナリオ』と名付けられた特殊能力が静かに作動して、街のあらゆる隅に潜む劇的なポテンシャルを分析していた。


(この広場は十分な広さがあるわね。周囲の建物の高さもちょうど天然の残響壁になりそうだし、第一幕の『言霊の宣告』を行う舞台としては最適だわ)

リアンは歩きながら、心の中で密かに評価を下していた。

(噴水の位置を視覚の中心に据えればいい。もし水を黒い逆流の滝に変えられたら、凄まじいパニックを引き起こせるはずよ……)


彼女が「悪役の視点からこの都市が崩壊する美学を審査する」ことに完全に没頭していたその時、足が自然とある露店の前で止まった。


リアンはわずかに頭を上げ、露店の向こう、広場の中央にある巨大な日時計に視線を向けた。その瞳は深くなり、どこか遠い世界を見つめるようだった。


彼女は心の中で新しい台詞をリハーサルしていた。

(平庸なる凡人どもよ、お前たちは太陽の光の下で無意味な時間を浪費しているが、常闇の刃がすでに運命の喉元に突きつけられていることにも気づかぬか……)


「お嬢さん! そこのお嬢さん!」


粗野で熱烈な声が、彼女の脳内にあった完璧で宿命感に満ちた絵図を乱暴に引き裂いた。


リアンはハッと我に返った。


見ると、露店の前で、太っ腹で満面の笑みを浮かべた商人が、真っ赤なリンゴを嬉しそうに彼女に突き出し、唾を飛ばしながら売り込んでいた。


「見てくださいこのリンゴ! 街の外にある陽光果樹園から今しがたもいできたばかりで、瑞々しさが弾けそうですよ! あなたのような高貴なお方にぴったりだ! 一袋いかがですか? それとも二袋?」


リアンの顔からうっとりとした陶酔が瞬時に凍りつき、暗赤色の双眸に邪魔をされたことへの不快感と、信じられないというような色が走った。


彼女は視線を下げ、身の程知らずな商人を冷ややかに見据えた。その声には極めて高圧的な威圧感が込められていた。


「凡夫よ。お前のその騒々しい羽音が、一人の女王によるこの都市の運命への凝視を妨げたこと、理解しているのかしら?」


商人は、突如として氷のように冷たく威厳に満ちたものに変わった彼女の視線に気圧され、リンゴを掲げた手を宙で硬直させた。


「ええと……もっと安くしろってことかい? 一袋銅貨二枚だけど、今日は特別に勉強して銅貨三枚で二袋にしておくよ、どうだい?」


「……」


リアンは沈黙した。


たっぷり十秒間の、死のような静寂。


『夜蝕会』の頂点に君臨する『月の席』であり、冷酷非道な闇の幹部、たった一言で傭兵団丸ごと恐怖のどん底に叩き落とした「名もなき女王」である彼女が、今、王都の俗世の垢にまみれた市場で、銅貨二枚のリンゴのことしか頭にない商人相手に、かつてない無力感を味わっていた。


悪役としての圧倒的な威圧感も、彼女が精巧に磨き上げた台詞も、この純朴で熱心な売り込みの前には完全に肩透かしを食らわされ、虚しく霧散してしまった。


リアンは深く息を吸い込み、日傘の柄を握る指先がかすかに白くなった。


彼女は無表情のまま、精巧なシルクのハンドバッグから銀貨を一枚取り出し、露店へと投げ置いた。


「一袋もらうわ。お釣りは取っておきなさい」


「毎度あり!……いやさ、ありがとうございます女王陛下! お気をつけて!」

商人は破顔一笑し、手早くリンゴを袋に詰めて差し出した。


リアンはリンゴの袋を受け取ると、翻って足早に去っていった。その足取りは依然として優雅であったが、注意深く観察すれば、ヒールを鳴らすその歩調には、どことなく這う這うの体で逃げ出すような慌ただしさが混じっていた。


(この忌々しい世俗の垢……)

リアンは心の中で憤慨した。

(第一幕が始まったら、まずは言霊でこの商人どもを一人残らず黙らせてやるわ)


リアンが決まりの悪さを誤魔化すように歩調を速め、市場の反対側にある路地の入り口を通り抜けようとしたその時、前方から突如として騒がしい物音が響いてきた。


「金を出しな! つべこべ言わずに早くしろ!」


「これは妹の薬代なんです、お願いです、旦那方……」


リアンは足を止め、わずかに首を傾けてそちらを見た。


路地の薄暗がりの中、数人の素行の悪そうなゴロツキが、痩せ細った平民の少年を取り囲んでいた。その中の一人の大男が、少年の衣服を乱暴に引っ張り、胸元から財布を奪い取ろうとしている。


「くだらない悪ふざけね」

リアンは冷淡に視線を戻した。このような低俗な犯罪は毎日どこかで起きている。高尚な芸術を追求する悪役である彼女の興味を惹くはずもなかった。こんなゴミどもを言霊で懲らしめる気さえ起きない。そんなことをすれば、自らの価値を下げるだけだからだ。


しかし、彼女がその場を去ろうとしたその瞬間。


銀と金が織りなす一筋の稲妻が、市場の反対側から猛スピードで疾走してきた。


「やめなさい!」


凛とした威厳に満ちた鋭い制止の声とともに、きらめく金髪と銀白の軽装鎧を身に纏った少女が、まるで天から舞い降りた武神のように、ゴロツキと少年の間に降り立った。


セレナ・ヴェストであった。


彼女は聖堂での報告を終え、外街の巡回に向かう途中、市場を通りかかったところで助けを求める声を聞きつけたのだった。


無駄な問答は不要とばかりに、セレナは腰の長剣を抜くことすらせず、ただその体を揺らした。


「ドカッ! バキッ! ドカッ!」


鮮やかな三連続の重拳と膝蹴り。先ほどまで威張り散らしていた大男たちは、悲鳴を上げる間もなくボロ雑巾のように吹き飛ばされ、路地のレンガ壁に激しく叩きつけられて意識を失った。


セレナは倒れ伏したゴロツキたちを一瞥もせず、振り返って少年の前に屈み込んだ。怯える少年を温和な眼差しで見つめながら、手で彼の服の汚れを払い、地面に落ちていた財布を拾って胸元へ押し戻した。


「もう大丈夫よ」

セレナの声は力強く、温かかった。そのサファイアのような瞳には、弱者への憐れみではなく、正義を貫く者としての揺るぎない決意だけが宿っていた。

「早くお帰り。騎士団はこの街のすべての人を守るためにあるのだから」


少し離れた野次馬の中に佇むリアンは、黒いベール越しにそのすべてを克明に観察していた。


彼女の呼吸が、この瞬間にふと止まった。


金髪に、青い目。すらりとした立ち姿に、一点の曇りもない正義感。そして、不条理を断ち切る際にその瞳の奥から放たれる、直視し難いほどの眩い光。


さらにリアンが注視したのは、少女が爆発的な速度で暴漢をねじ伏せたその瞬間、リアンの鋭い魔力知覚が、少女の体内に潜む極めて特殊で純粋な、古の威圧感を湛えた金色の気配が刹那に明滅したのをはっきりと捉えたことだった。


「面白いわね……」

リアンの口元がゆっくりと吊り上がり、暗赤色の双眸に、極上の獲物を見つけ出した狩人のような狂熱の光彩が弾けた。


(ただの騎士ではないわね。あの気配……あれは幾多の鍛錬を重ね、さらには何かしら古の血脈を受け継ぐ者だけが宿す特異な資質……)


リアンは人混みの中で立ち止まった。それはまるで、目の肥えたスカウトマンが、広大な人海の中からついに劇場の看板を背負えるようなヒロインを見つけ出したかのようだった。


「金髪、青い目、凛とした正義感……完璧だわ」

リアンは日傘の柄を指先で優しく愛撫しながら、心の中にある壮大なシナリオを狂ったように補完し、作動させ始めた。

「彼女はまさしくこの大戯曲のために生み出された存在よ。彼女こそが、このシナリオにおける最も相応しい主役だわ」


彼女はすでに脳内で幾つものシーンを描き出していた。あの頑なな金髪の少女を火の海に立たせ、究極の二択を迫る場面。彼女の正義が、絶対的な力の前で青白く無力に霞む場面。そしてあの澄んだ青い瞳が、運命に翻弄されて絶望と不条理に染まる場面――。


「星の光が眩ければ眩しいほど、それが堕ちる瞬間の軌跡はより凄絶で美しくなるものよ」


リアンはセレナの背中を深く見つめ、その少女の姿を脳裏に克明に焼き付けると、踵を返して市場の人混みの中へと溶け込んでいった。


彼女が気づかなかったのは、セレナを観察していたのと全く同じ瞬間に、市場の向かいにある茶館の二階の窓辺からも、静かにこの光景を見つめる者がいたということだった。


それは、私服を身に纏った赤髪の少女だった。彼女は知的なフチなしメガネをかけ、琥珀色の瞳は精密機械のように冷静に眼下の出来事を記録していた。


彼女は路地で正義を貫くセレナを見つめ、それから先ほどリアンが立ち止まっていた場所へと視線を移した。リアンはすでに立ち去っていたが、赤髪の少女はその場に残された微弱で異常な魔力波動を鋭く察知した。


彼女は鼻梁にかかるメガネの位置を指先で直すと、携帯していた小さなノートを取り出し、その上に素早くクエスチョンマークを描き込んだ。


何一つ言葉が交わされることはなかったが、運命の歯車は王都の市場において、すでに静かに最初の交差を完了させていた。


夜の帳が降りる。


王都の高級街にある宿のスイートルームには、薄暗い魔法のブラケットライトが一灯だけ灯されていた。


リアンは机の前に腰掛けていた。市場で買ったリンゴの袋に手を伸ばすことすら忘れ、極限の執筆トランス状態に入った彼女の持つクロウフェザーペンが、シナリオの上を猛烈な速さで走っている。


彼女はシナリオの『配役表』の欄に、厳かにいくつかの文字を書き殴った。


【主役確定――王国の騎士姫。】


【備考:容姿・気品ともに最上級。不条理を断ち切る瞬間の眼差しが最も輝く。この純粋な特質は、第三幕の絶体絶命の危機に配置し、彼女の限界を引き出すトリガーとして最適である。】


【彼女はこの劇幕を貫く中核の魂となる。彼女のために、最も過酷で、最も華麗なる試練をオーダーメイドで誂えなければならない。】


そこまで書き終えると、リアンは満足げにシナリオを閉じた。


彼女は立ち上がり、部屋のテラスへと続く大きな窓の前へと歩み寄った。窓の外には王都の華やかな夜景が広がり、人々の営みの灯火が地上に降りた天の川のように瞬いている。


夜空には、白く澄んだ満月が高々と掲げられ、冷たい銀の光を投げかけていた。


リアンは窓を開けてバルコニーへと出た。夜風が吹き抜け、彼女の白銀の長髪をなびかせる。月光を浴びたその髪は、見る者の胸を締め付けるほどに美しい光沢を放っていた。彼女は自らの手によって震えることになるであろう都市を見下ろした。その暗赤色の瞳には、王都全体の輪郭がくっきりと映り込んでいる。


彼女は再びシナリオを開き、新しいページへと捲った。


バイオレットのインクを用いて、その一番上の行に大きくこう書き記す。


【第一幕――序曲・月蝕の夜の予告。】


「最後の安らかな夜を愉しむがいいわ、王都の民、そして眩き騎士姫よ」


リアンは夜空に向けて静かに宣告した。その声は深夜の亡霊のように虚ろで、それでいて致命的であった。


「明日の夜、常闇の幕が正式に開かれたその時……」


「貴様らは見届けることになるわ。何が本物の『月蝕』であるかをね」


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