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その24



     24



 壁の燭台の温かみのある光で照らされている部屋のほぼ中央で、四人の少女がテーブルを囲んで軽い食事を摂っていた。


「なんだか落ち着かないわね。こんな格好でお客として食事なんかしてちゃ悪いよう気がするわ」


「わたしはそんなに気にならないな。慣れればどうってことはないぜ。たぶん、いちばん変てこなのは幽香だ」


「うるさいわね、仕方が無いでしょう。お風呂から出たらこれしかなかったんですもの」


「…………」


 デザインは細かいところで違いがあるが、どれも白と藍色を基調にしたメイド服だ。サイズから考えるに、おそらくは咲夜さんの服なのだろう。四人の中ではわりと小柄な魔理沙にはすこし大きいようで、袖口から手が半分ほどしか出ていない。


 こうしていると、休憩時間におしゃべりをしている若いメイドさんたちにしか見えないが、言うと一斉に反撃が来そうなのでやめておこう。


 なぜか私自身も似たようなメイド服を着せられる羽目になった。だが、私の場合はどうして用意されていたのか謎だ。


 扉がノックされる音がして、魔理沙が「はいよ」と返事をすると、メイド妖精たちとともにパチュリーとアリスが入ってきた。


「食事中、失礼」「お邪魔しますね」


 二人は部屋の中の一同を見ると一瞬ぎょっとしたような顔をしたが、その後の反応は分かれた。アリスは明らかに笑いをこらえるような表情になり、パチュリーはほんのりと頬を染めたあと、うつむいた。


「……お前ら、言いたいことがあるならはっきり言えよ」


 魔理沙はぶっきらぼうな口調で言う。


「いや……なんていうか、いろいろな意味ですごい組み合わせだなと思っただけよ」


 アリスはそう言ったあと、口元を手でおおい、体を震わせる。


 パチュリーは霊夢のそばに歩み寄ってきた。


「……チビの具合を診てみたいのだけれど、かまわない?」


「ああ、ありがとう。お願いするわ」


 霊夢は膝の上から私を抱き上げ、パチュリーに手渡す。


 部屋の隅から小さなテーブルが引き出されて、私はその上に横たえられた。


 アリスが側にやってきて、私の上着とブラウスを脱がせ、体を診はじめる。パチュリーはその様子をしばらく見ていたが、やがて「あとはまかせる」と言ってメイド四人衆のほうへ戻っていった。


「だいぶ無茶をしたみたいね」


『まあ、必要に迫られたんでね』


「そう。いまさらとやかく言わないけど。でも……」


『なんだ?』


 アリスは声を低める。


「霊夢はなんだか機嫌が良さそうね。いいことでもあったのかしら?」


『そうか? あれだけのゴタゴタがあった後だから、ほっとしているとは思うが』


「まあ、いいけど」


 くすりと笑う。


「この間神社に行った時よりも、穏やかな感じがするのよね」


 いつものように指先を私の身体に当て、なぞるように動かしてゆく。


「霊力の伝導路には異常はないみたい。ただ、限界まで霊力を出したせいで、力の強いものを惹きつけやすくなっているわ」


『どういうことだ?』


「空になっているものは、満ちているものを惹きつけやすいのよ。その逆も然り」


『じゃあ、例えば空になっているもの同士はどうなんだ』


「そうね……惹きつけ合うことはないでしょうけど、いつのまにか輪が重なりあうように、ひとつになるかもしれない。空になっているという意味では同じモノだから」


『…………』


「何にしても、しばらくは大人しくしていたほうが身のためよ」


『そうだな』


 と、いきなり部屋の扉が開かれる音がした。


「待たせたわね、みんな!」


 例によって甲高い声だった。


「ここにきた以上は、たっぷりと話をしてもらうわよ!」



     ☆★



 レミィのためにテーブルに椅子が新たに追加され、これまでに起きたことについて、それぞれが覚えていることをつなぎあわせるようにして話をした。


 妹紅が悪霊祓いなどの呪術の使い手としても修練を積んでいるというのは初耳だったが、千年を超える歳月を生きている以上、想像もつかないような数多の経験があるのだろう。


 私は最後に死神がやってきたことに関しては伏せておくことにした。おそらく、彼女の立場としてはなるべくこういった『事故』に関わったことは内密にしたいだろうと思ったからだ。幽香さんへの伝言は、また機会があったときに伝えればいい。


「経緯はだいたい分かったけれど……肝腎のチビが何者かっていうことは謎のままなのね」


 レミィは紅茶をすすりながら首を傾げる。


 すると、幽香さんがにやりとして言う。


「何者『だった』かは謎だけれど、この幻想郷でいま何者たり得るか、ぐらいは分かりかけてきたんじゃない?」


「まあ簡単に言うと、チビは条件さえ整えばその器……人形そのものを『架け橋』にして結界を超えられるということみたいだな」


 椅子の背に寄りかかったすこしだらしない姿勢で魔理沙が言う。


「でも、それは霊たちの意思が作用したから、ってことでしょう?」


 アリスが問うと、魔理沙は体を起こし、真面目な顔つきで答えた。


「雑霊の集まりだろうがなんだろうが、意思が結界に作用したっていうんなら、あとはその作用をどう強めるかって問題でしかない。魔法に例えるなら、より強力な効果を生むための術式を加えればいいってことだ」


「なるほどね……いずれにしても、チビにとっては使える手段が増えるということになりそうね」


 レミィはうなずき、私に顔を向ける。


「どうなの、その点についてご本人の感想は」


『……まだ何も分からない。少なくとも、いまそんな力が使えたとして、使う必要があるとは思えないな。それよりレミィ、実はひとつ提案があるんだが』


「あら、なに? 面白そうな話なら乗ってあげるわよ」


 吸血鬼の少女は鋭い牙を口元からのぞかせて笑みを浮かべる。


「日を改めて、幽香さんとスペルカード戦で勝負をしたいと思っているんだ」


「えっ?」


 当の幽香さんが意外そうな顔で私を見る。


「そのときに、ちょっと場所を貸して欲しい。場所といっても、上空ということになるだろうが」


「ふうん? いいわよ。その代わり、その下でパーティーをやらせてもらうけど、かまわないかしら?」


「それは好きにしてくれ。幽香さん、どうだろう?」


「ええと……」


 メイド姿の幽香さんは少し焦ったように眼を泳がせる。


「その場合、何を賭けることになるの?」


「そうだな。私が勝ったら、一日だけ、幽香さんにその格好で神社でお給仕をしてもらうというのはどうだろう」


 すると、霊夢が笑い出す。


「いいわね、それ。きっとみんな怖いもの見たさに集まってくるわ」


「それはいったいどういう意味よ」


 幽香さんはすこし眉をしかめたが、まあいいわ、と苦笑を浮かべる。


「どうせわたしが勝つもの。じゃあチビさん、わたしが勝ったら、一日中、霊夢とあなたにわたしの家でメイドとして仕えてもらうわ」


「チビに指南をしたものとしてひとこと言わせてもらえば、油断はしないほうがいいと思うがな」


 妹紅がぽつりと言う。


「まあ、身をもって知ることになるだろう」


「霊夢まで巻き込むのは不公平じゃないのか」


 と魔理沙。


「あら、それぐらいの見返りがないとやる気が出ないわよ」


 幽香さんはにこやかに言う。


「かまわないわよ。それぐらいは付き合うわ。メイドの作法なんて全然知らないけどね」


 霊夢はあっさりとした調子だった。


「それじゃ、決まりのようね」


 レミィはすこぶる上機嫌だった。


「咲夜、パーティーの招待状の準備をしてちょうだいね」


「かしこまりました」


 後ろに控えていた咲夜さんはいつもと変わらない静かな口調で返事をする。


「自信のほどはどうなんだ、チビ?」


 魔理沙の問いに、私はいちおう見得を切ってみせた。


『勝つつもりのない勝負なんて、しないよ』



その25につづく

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