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主任を辞めたいと言っただけなのに!?  作者: 神崎 美咲


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21/22

診療中 ちょっと薔薇を摘みに… ~ そして暗闇の中へ ~

私は人生で初めて意識を失いかけた。

目の前が真っ白になり、体の制御も失いかけた。

トイレの個室はそれほど広くなく、前のめりになりながらも反射的に正面の壁に手をつく事ができた。

私はそのまま垂直方向に力が抜け、その場にしゃがみこんでしまった。

それと同時に、今度は目の前が真っ暗になった。

目を開けていたとは思うのだが、景色が全く映らなかった。

意識も朦朧としていた。

「なんで?」

と思いながらも、暗闇の中から抜け出す方法が見つからなかった。

そして、ストンッとどこかへ落ちていきそうになった。

その感覚は、すごく体が軽くなったような、楽になれたような感じがして、安心感さえあった。

だが、私はその瞬間に気力を振り絞り、

「ダメだ!しっかりしろ!」

と自分を鼓舞した。

本能的にその選択はダメだ!と、そう判断したのだろう。

すると、意識が徐々に鮮明になっていき、両手をギュッと握り締めて歯を食い縛っていることに気付いた。

周囲が壁であったので、体はそこに寄り掛かった状態であった。


どのくらいの時間であったかは分からないが、私は壁に寄り掛かったまま、ぼーっと視界に入る壁と扉を眺めていた。

定かではないが、本能的に動くべきではないと身体に制御されていたのかもしれない。

そして、その静かな空間の中で、体の中心に感じる違和感に私は漸く気付いたのだ。

明らかに心臓の鼓動がおかしかった。

3回に1回は脈拍が跳んでいたのだ。

リズムもおかしく、不規則であった。

「、、ドドドッキン…ドッキン、ドッキン、、、、、、ドッキン、、、ドド…ドッキン、」

こんな感じに、文字通りの不整脈が起こっていた。


そんな状況下においても、私は冷静に考えてしまっていた。

救急車を呼ぶべきだとは思ったが、呼んだら後で院長に何を言われるかわからなかったからだ。

以前、私が耳にしたのは、

「治療中に急変したとか思われたくないから、救急車を呼ぶような事が起こらないように気を付けろ!」

「噂が広がってウチの看板に傷が付くような事がないように、お前らも細心の注意を払え!」

という言葉だったのだ。

万が一にも私ごときの体調不良で救急車を呼ぶような事があってはならないと思った。

そうなると、この状況を周囲に知られてはマズイと思った。

ここぞという時に、私はキメて来た人間であったと思う。

本番にも強かったと思う。

だからこそ、ここで踏ん張って頑張らなければ「本来の私ではない!」と思ってしまった。

失敗してはいけないんだ!と思ってしまった。


私は意を決して、近くの飾り棚の部分に掴まりながらゆっくりと立ち上がった。

実は後に奥歯が破折するのだが、この時も含め、相当に食い縛っていたのだと思う。

立ち上がると壁に手をつきながら、足を前に踏み出せるのか確認した。

フラつくものの、立っていられるしゆっくり歩けば大丈夫そうだと思った。

ただ、息苦しさはMAXだった。

動いただけでも息が切れた。



そうして、トイレから出ると診療室へと戻った。

かなり長く感じていたが、時計を見ると14分程度の時間経過であった。

私は取り敢えず近くのイスに座った。

すると、笠原さんが駆け寄って来た。

「秋山さん!」

「顔色が悪そうに見えますけど…大丈夫ですか??」

「あっ!この後の秋山さんの担当患者さん、お仕事が終わらないそうで、先程キャンセルが入りました。」

「それと、先生の処置が長引いているので、恐らく呼び出しはないと思います。」

「いつもの如く歯が抜けなくて、梃子摺(てこず)ってますよ~。相当時間が掛かっているんでwww」

「(小声で)小池とか上木も自分の担当処置中なんで、なるべく休んでいて下さいね!」

「パソコンで何かやってて下さい♪」

と、笠原さんが気遣ってくれた。


私はパソコンの前で20分くらい腰掛けていた。

その間も強い不整脈を感じていた。

3回に1回は脈拍が跳ぶし、リズムも狂っていた。

そのあまりの苦しさに、こっそりと緊急時用の酸素を吸ってみた。

かなり楽になった。

酸素の有難みを改めて感じた瞬間だった。

私には施設内の保守点検を任されていた部分もあったので、幸いにも酸素ボンベを触っていても怒られる事はなかった。

また、酸素ボンベにも使用期限があるので、残量があったとしてもいつかは交換される。

故に一瞬使用したくらいでは終わらないし、点検の為に少量酸素を出す事もあったので、守銭奴の院長にもバレない。

滅多に使用される事はないので、3分程度酸素を補充してから診療室の方へと戻った。


終業間際は、後片付けや清掃・消毒等を手の空いているスタッフが行わなければならなかった。

その為、ゆっくりではあるが出来ることを手伝いに行った。

他のスタッフも私の事を気に掛けてくれていたらしく、

「あとは私がやるんで、秋山さんは座っててもらえれば大丈夫ですよ?」

と言ってくれた。

もしかしたら、笠原さんがこっそりとみんなに声掛けをしてくれたのかもしれないと思った。

涙が出そうになった。

院長も抜歯に梃子摺ったせいで疲れたのか、終業間際には院長室から出て来なかった。

これはチャンスだと思い、こっそりと移動した。

そして再び酸素を吸った(笑)



酸素を補充したのが良かったのか、帰宅する頃には普通に歩けるようになっていた。

だが、依然として不整脈は続いていた。

運転は出来そうだったのでそのまま帰宅した。



帰宅後も食欲はなく、すぐにソファーに横になった。

診療を終えた後は、飛沫などで身体が汚染されているのですぐにお風呂に入るのだが、その日はすぐとはいかず本当に無理だった。

横になりながらスマホを触りつつ、翌日は休みだったので循環器科を受診しようと検索してみた。

車で20分くらいの距離にある割と大きな病院が見つかり、随時新患受付中と書かれていた。

念の為、電話をして確認してみたところ、

「明日お越しいただいても大丈夫ですよ。」

「ただ、連日混みあっておりまして、ご予約の患者さんであっても1~2時間待ちの場合もございます。」

「緊急の患者さんを優先的に診させていただいておりまして、皆様にはご理解をいただいております。」

「直接いらしていただき、初診ですと2時間前後お待ちいただく場合もございますが、明日ご来院いただく事は可能でございますよ。」

「それでは、お待ちしておりますね。」

と、丁寧な説明をしていただいた。

私はそこへの受診を決めた。


ただ、体調不良時に慣れない場所への運転に自信がなかったので、母に送迎をお願いする事にした。

母に電話をし事情説明をすると、快く引き受けてくれた。

ラッキーな事に母のパートがお休みの日だった。

その当時は実家からも近い場所に住んでいたので本当に助かった。

母からは、

「大丈夫?院長とか小池とかにまだ何かされてるの?」

「無理ならあんな所もう辞めなよ?自分の身体の方が大事なんだからね?」

と、私を心配してくれた。

そして、明日の朝一番に迎えに来てくれる事になった。



1時間くらい横になり、お風呂に入った。

頭を乾かすのも歯磨きをするのも、全部座っていないと無理だった。

お弁当箱は洗わないといけなかったので、何とかそれだけは洗った。

寝室へ行きベッドに入ると、意外にもすぐに眠りに落ちた。

病院で診てもらえると少し安心したのかもしれない。

だが、その日は気が張っていただけで、翌日に地獄を見るとは知る由もなかった…。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

みなさんに感謝申し上げます。

続きは気長にお待ちいただけると、とっても嬉しいです。

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