診療中 ユニット2 Case3 ~ 受付の番人「藤堂」~
キラキラ眩しい笑顔でご挨拶♪
綺麗系お姉様の見た目で第一印象もバッチリ!
記憶力もピカイチ!
一度お会いした患者さんのお顔とお名前は絶対に忘れない!
患者さんが玄関から受付へと向かって来られる間に、その患者さんのお名前をお呼びしながら
「あぁ~○○さん♪お待ちしておりましたぁ♪」
とお声掛けしつつ、スッと立ち上がりお出迎え。
完璧で誰からも愛されるキャラを演じている。
『受付はクリニックのお顔ですわ♪』
そんな言葉が似合いそうなこの女性は
受付嬢「藤堂」!
藤堂は受付主任。
藤堂の好印象により、クリニックに来院された方のほとんどが気遣いある受付対応やスタッフの事を褒めて下さる。
それもそうだ。
仕事がかなりデキる上に、アイドルにいそうな目鼻立ちをしている。
平均身長よりもやや低く、上目遣いになりがちな藤堂は、おじ様方の注目の的であった。
また、物腰の低さからも女性患者さんにも慕われていた。
お会計が終わった後に楽しそうに世間話をしてから帰る患者さんも少なくなかった。
…だが、この女の素顔を知ったらゾッとするだろう。
優しい笑顔の下で悪意に満ちた笑いを浮かべ、先程まで楽しそうに会話をしていた患者さんの悪口を平気で言う。
それを他のスタッフと楽しんでいようなどとは誰に想像ができようか。
もしも藤堂を口腔内の細菌で例えるなら
「ミュータンス連鎖球菌」
だろうか?
後述するが、教祖様小池たちのような嫌気性菌に対して、その悪の温床を提供していたので私は勝手にそう分類していた。
ネチネチ、ネバネバとグルカン(粘着性の多糖体)さながらの悪口を吐き、ベタベタ、ダラダラと小池に擦り寄る。
この菌はある意味で凄いと思う。
ダイヤモンドバーでないと削れないような高石灰化物であるエナメル質をも溶かしてしまうのだから、清掃せずに放置すればするほど環境が悪化し、質が悪いのは当然だ。
親から子など身近な者から感染し、意図的に予防あるいは宿主がむし歯の治療を受けその細菌数を減らさなければ感染は永遠に終わらない。
藤堂はそんな厄介な人間だ。
新種の「ミュータンス藤堂」爆誕!w
【ミュータンス連鎖球菌について知ろう♪のコーナー】
Streptococcus mutans
(ストレプトコッカス・ミュータンス)
むし歯(齲蝕)の原因菌の一つ。
他にも数種類あり。
プラーク(歯垢)を形成する
通性嫌気性菌。
ショ糖をエサにして、粘着性のグルカンを多量に作る。
これが俗に言うプラーク(歯垢)。
簡単に言えば、むし歯菌の排泄物。
うんこ☆デス♪w
歯のエナメル質のようにツルツルして綺麗な表面にも細菌を付着させやすくするが、このような能力はこの菌特有のものだ。
歯周病原細菌の多くは偏性嫌気性菌である為、そのプラークが酸素の届かない環境を作り出していく。
それが歯周病原細菌の増殖の足掛かりとなる。
プラークが形成され時間が経つと、偏性嫌気性グラム陰性桿菌などの酸素がほとんどない状態を好んで棲みつく菌が一気に増える☆
(通性嫌気性菌)
酸素存在下でも生育できる菌。
(偏性嫌気性菌)
大気レベルの濃度の酸素に暴露することによって死滅してしまう菌。歯周病原細菌に多いタイプ。
藤堂は教祖様小池と一番付き合いが長い。
休日も小池・藤堂・上木の3人でお出掛けするほど仲が良い。
藤堂はオープニングスタッフとして採用されてからずっと勤務しており、一番の古株だ。
噂レベルだが、オープニングスタッフとして藤堂の他に2名の歯科衛生士が採用されたのだが、酷くいじめられて辞めていったらしい。
クリニックのHPに写真も残っていたが、明らかに藤堂よりも年下で、穏やかで優しそうな雰囲気の方々だった。
その2名が退職した時期的にも、ちょうど小池が就職して1年くらい経った頃であった為、その噂は強ち間違いではないのかもしれない。
藤堂が受付を仕切っているのだが、もう1人いるパートの受付の方はとても大人しく、基本的には藤堂の言いなりだった。
このクリニックにおいて、歯科衛生士の業務は担当制なのだが、当然予約の状況によってはフリーになる時間もある。
そういった場合は、担当指定のない処置やドクターのアシスタントとして業務をこなす。
このタイミングで藤堂は悪さをする。
当然パートの受付もグルになる。
藤堂は患者ごとの処置内容・担当のタイミングを把握し、当日のカルテを選別している。
そして可能な限り予約も操作しているのだ。
例えば、小池と私のどちらもフリーなタイミングがあったとする。
その時に、処置内容として簡単な抜糸や消毒の患者さんが来院された場合、そのカルテは必ず小池の元に持って行く。
逆に仮歯作製など時間が掛かり、ある程度大変な作業内容のカルテは、秒で私の所へ持って行く。
私がかなり酷いいじめを受けていた頃、あからさまに予約自体を仕組まれていた事があった。
午前中立て続けにずっと仮歯作製の処置ばかり行かされ、逆に小池は子供のTBIなど簡単な処置or暇な時間を与えられていたこともあった。
自分の担当患者さんが少なかった頃、私は毎日仮歯作製地獄だった。
いじめが始まった最初の頃は本当に余裕がなく、ただただ必死に与えられた時間内に業務をこなしていた。
少し慣れて余裕が出てくると、私にだけ大変な処置内容のカルテが立て続けに渡されていたことに気付いた。
トイレに行かせてもらえる時間もなく、他のスタッフも見て見ぬふりをし、それがいじめの一部だと気付くのにそれほど時間は掛からなかった。
担当患者さんがまだ少なかったせいでもあったが、主任になってからはそれがエスカレートしていった記憶がある。
唯一救いだったのは、それに笠原さんが気付いてくれて、
「私が片付けておくので、今のうちにトイレ行って下さい!」
「患者さんお通ししておくので、お茶飲んだりしてきて下さい!」
と、手が空いたタイミングで助けてくれたことだ。
涙が出るほど嬉しかった。
そのおかげで、先生にもどやされず、ギリ膀胱炎にもならずに済んだ。
笠原さんがいなかったら、心が完全に折れていたと思う。
患者さんの予約が少ない日や来院人数が少ない時間帯もあるが、基本的には何かしらの業務や雑務がある。
私で言えば、在庫管理や物品棚の整理整頓、普段できない場所の清掃を行う事などだ。
勿論、主任として指示を出す事はあるが、基本的には院長からの指示をそのまま伝達し、必要な作業を行ってもらう。
そんな時、藤堂は小池に憩いの場を提供する。
「Cafe オアシス☆カルテ棚」だ!(笑)
このカルテ棚は受付裏へとコの字のように繋がっており、その奥にはコピー機やFAXなども置いてある。
だが、この場所にはほとんどと言っていいほど受付以外は立ち入らないし近寄らない。
暗黙の了解とでも言うべきか…。
近寄らないというよりは「近寄れない」のだ。
診療中は時間もないのが現状だが、歯科衛生士が入ることがあるとすれば、治療計画の見直しやカンファレンスを行う際にカルテが必要になり取りに行く程度だ。
そんな必要性がある時でさえ、歯科衛生士は近寄ることにかなりの抵抗がある。
なぜならカルテ棚の奥で、暇さえあれば小池と藤堂あるいは上木がおしゃべりをしているからだ。
彼女たちがその場所を使用中なのに気付かず、侵入し邪魔をしようものなら、一気に冷たい視線が刺さるし強い圧がかかる。
おしゃべりの内容的に聞かれたくないのだろう。
シンプルに悪口ばかりだからだ。
内容はスタッフや患者さんの悪口。
噂話。
時には恋バナ…。
仕事中にやりたい放題、サボりたい放題。
スタッフをディスる材料を収穫したら、情報交換・情報共有をして、診療中に陰でクスクス笑って楽しむ。
前髪が短い・髪型が微妙とか、髪色が合わないとか、今日の私服がダサかったとか、メイクが古いとか、街で見掛けた同僚の彼氏が不細工だったとか、そんなどうしようもないことで盛り上がる。
高校時代もカースト上位に君臨していたのだろうが、自分たちよりも下であることを見つけるのが大好きで、何事にもマウントを取りたいのだろう。
このカルテ棚の場所はコピー機のある奥付近まで進むと、院長や他のスタッフ、そして待合室にいる患者さんからも死角となる。
その為、仕事をサボるには格好の場所なのだ。
院長も受付へ行く事は滅多になく、万が一近寄って来た場合、パートの受付が知らせるシステムになっている。
また、石川主任がいた頃、主任もそれに気付いており、定期的に
「小池さん受付にいるかしら?お願いしたいことがあるのだけれど?」
と、なるべく業務につかせる工夫をされていた。
それでも、石川主任は担当患者さんや担当処置がかなり多く、受付に頻繁に行くことはできず、小池たちが注意されることも稀であった。
その為、彼女たちは暇さえあればサボりたい放題であった。
もしかしたら、院長はその事を知っていて黙認していたのかもしれない。
お決まりの
「俺は知らないから!」
を言っていそうだと思った(笑)
日々誰にも邪魔をされないオアシスを小池に提供する藤堂は、本当に小池に可愛がられていたと思う。
藤堂については、実は前の職場の後輩が色々と知っていた。
新しい職場の事を話した際に、HPの写真で藤堂を見つけたらしく、中学・高校と同じ学校だったと教えてくれた。
その頃からいじめ・悪口・陰口が大好きで、関わりたくない人物だったという。
前の職場の後輩からは
「秋山さ~ん、気を付けて下さいね!」
「藤堂さんって、本当に根に持つタイプなんで、目を付けられると厄介ですよぉ~!(焦)」
「私の学年で藤堂さんにいじめられて不登校になった子知ってるんで、気を付けて下さいね~。」
と心配されていたが、その忠告が現実のものとなってしまった。
石川主任の担当患者さんは残ったスタッフに平等に、あるいは相性や個々の能力を加味して石川主任自身が割り振っていかれたのだが、ある時患者さんから苦情が来た。
小池が引き継ぎ、クリーニングを行い、次回ももう一度クリーニングとなった時、後日受付に苦情の電話を掛けて来たのだ。
後にその患者さんからどういった内容の訴えであったのかは伺うことができたのだが、その内容は
「歯石取りが物凄く痛い!」
「水も溜まって苦しいし、こんなに下手な人は初めてだ!」
「何となく態度も悪かったし、担当を変えてくれ!」
とのことだった。
その電話を取ったのは藤堂だったのだが、小池の面子を守る為にカルテに敢えてその旨の記入を一切せず、なぜか私に担当チェンジされていたのだ。
そしてその方のご予約を知ったのは予約日当日で、それも直前だった。
その上、カルテには何の記載もなかった。
処置内容的に患者さんのクリーニングにつくだけであれば、私は何の問題もなかった為、普通に引き受けた。
診療室へその患者さんをお通しすると開口一番、患者さんがこんなことを訴えてきた。
「この間やってもらった小池さんとか言う人、ありゃ新人さんかい?」
「何だか冷たい感じがしたし、痛くて痛くて…。」
「あんなに痛いクリーニングは初めてでさ!」
「でも、今日は違う人みたいで良かったよ。」
と。
少しお話を伺うとカルテには全く記載がなかったが、電話で受付の人に担当をチェンジして欲しい旨を伝え、今日を迎えたのだというではないか。
その時、漸く私が担当することになった理由がわかった。
通常通りのクリーニングが終わると患者さんから喜ばれた。
「いやー、石川さんと同じで、こんなに気持ち良くクリーニングしてもらえるなんて思ってなかったよ!」
「すごく良かった!」
「あんまり大きな声で言えないけど、うちの家族も小池さんのクリーニング苦手だって言っててさー。」
「これからは家族全員、秋山さんでお願いするよ!」
そう言っていただいた。
たまたま笠原さんが目撃していたのだが、受付での会計時にも藤堂に向かって
「いい担当さんに変えてくれてありがとうな!」
と、とても嬉しそうに言っていたらしい(笑)
ざまぁ~♪
クリニックのルールとして、実際に担当チェンジに至った場合、手書きのカルテにその経緯や詳細を必ず記載する約束になっていた。
このルールは開院当初に院長が決めたものだった。
患者さんの満足度を上げる為の工夫と、その失敗や反省を活かして次に繋げ、再び同じクレームなどを防ぐ為の目的で続けられていたものだった。
もう一つ理由があるとすれば、評判は売上に直結するので、守銭奴の院長ならナーバスになる案件だからであろう。
私もクリニックの経営上、大切な事ではあると思っており、前の職場でも同じような事を記入する共有ノートがあった。
私はクリニックのマニュアル通りそのルールに従い、カルテに
「前回の小池さんのクリーニングが痛かったとのことです。その為、受付の判断でDH秋山にチェンジしました。」
「ご本人様はこのまま秋山が担当でOKとのことでしたので、次回リコール時も秋山が担当します。」
と、なるべくシンプルに記入して、院長と受付がチェックする棚へカルテを提出した。
その患者さんは午後に来院されたのだが、終業間際になりその患者さんのカルテを持った藤堂が物凄い勢いで私に近付いて来た。
私はユニットを清掃中だったのだが、わざと足音を立てて近付いてくる藤堂に早い段階で気付いていた。
何だろう?とそちらを向いた瞬間、目が合い
「秋山さん!ちょっと!」
と声を荒らげながら向かって来た。
藤堂の顔を見て一瞬驚いたのだが、鬼のような形相をしていた。
私は理由がよく分からずに
「その患者さんにまたトラブルがありましたか?また何かお電話が来ましたか?」
と質問すると、近くに院長がいたからなのか
「カルテ棚まで来てもらっていいですか?」
と言われた。
仕方なくついて行くと
「秋山さん!何でこんなこと書く必要があるんですか?!」
「これを小池さんが見たらどう思うとか考える頭ないんですか?!」
と、かなりの勢いと強い口調で言って来た。
藤堂に見せられたカルテの部分には担当チェンジの理由が書かれており、書き方自体もクリニックにあるマニュアル通りに簡潔に書いたつもりだった。
だが、藤堂としては教祖様小池を責めるような、小池に非があるような書き方が気に食わなかったのだろう。
私は毅然とした態度で
「このクリニックのルールに従ってマニュアル通りに書きました。」
「もしも疑問に思われるようであれば、院長もこのカルテに目を通しておられるはずなので、今院長に確認しましょう。」
と言い切ると、急に慌てた様子になった。
このクリニックにおいて報告を怠るなど隠蔽とみなされた場合は大罪なのだが、いくらお気に入りのスタッフであっても、院長が決めた絶対的ルールに逆らうことは禁忌であった。
その為、藤堂は
「これからはあまりこういう書き方しないで下さい!」
「…てか、ちゃんと考えろよ!」
とヤンキーのような口調になりつつ、そこで会話は終了した。
受付から診療室へと戻り、ユニットの清掃の続きをしようとしていると、ふと視線を感じた。
そちらへ向くと小池がじっと私を睨みつけていた。
私は思った。
「そんなに睨むのであれば、研鑽を積みなよ!このど下手クソが!」
「しょっちゅう裏の器具洗浄スペースとかカルテ棚でサボっているから、痛いクリーニングしかできないんだろーが!」
「それに私は知っている。あなたにとって担当したくない患者さんには冷たい態度取ってるよね?バレバレだよ?」
「あなたのようにプロ意識の低い人間は軽蔑するし、いじめられようとも絶対に負けない!屈しない!」
という気持ちを込めて睨み返した後、静かに清掃に戻った。
その後も、石川主任の担当していた患者さんを小池が担当する度にチェンジの嵐が続いた。
チェンジの希望がない患者さんは痛みを感じにくかったり、小池の容姿に鼻の下を伸ばすようなおじ様に限られていた。
あるいは、イケメンだったり小池に好意的で気の合う女性など、自分にとって有益な患者さんには丁寧に施術している様子だった。
明らかにわざとだと思うのだが、小池が担当したくない患者さんには冷たい態度を取り、チェンジされるように仕向けているようにも感じた。
おかげさまで、私は石川主任の担当患者さんでいっぱいになった。
石川主任と長いお付き合いの方々ばかりで緊張する場面も多かったが、何とかその期待に応えようと思い、とてもやり甲斐を感じた。
この頃も日々の業務でやり甲斐は感じていたものの、やはり小池たちの目を気にして笠原さん以外のスタッフは滅多には話し掛けてくれなかった。
孤独な日々が続いた。
主任としての業務もツラかった。
それでも私は休むことなく毎日出勤した。
小池たちに攻撃され精神と身体をも蝕まれ、徐々に自分を壊しながらも患者さんや自分の為に頑張った。
どうしても負けたくなかった。
「私ならデキる!」
「大変なカルテ、バッチこぉぉぉーーーい!!!」
そう自分を鼓舞した。
この受付嬢にも実際のモデルがおります。
2人いて、合体させたキャラにしてあります。
A子:8割 B子:2割
なので、藤堂のキャラはほぼほぼA子なのと、この2人はかなり似ていて最凶のペアでしたw
本当に厄介な方々でした。




