29:田中さんは忙しい
敵の現在の拠点。
「まさか、ダグラサ殿が倒されるとは……。
それほどの者に攻められれば我らは対抗できなかったかもしれない。
しかし、あの方のおかげで時間を稼ぐごとができる。
敵は、祠がもぬけの空だとわかれば、こちらの追撃に移っていただろう。
だが、白戦士の脅威を知った以上、簡単には動けずしばらくは砦に釘付けされることになるはずだ。
なんとかじゃまをされずに橋を渡ることができそうだ」
報告を受けた司令官はやるせない表情で呟いた。
「確かに敵にめだった動きは無いようです。
一名が出て行ったという報告はありますが、おそらく神殿への伝令だと思われます。
そのうえで神殿に動きがないかしばらく様子を見させます。
追跡した者の報告がありましたらお知らせいたします」
参謀が応じる。
「たった一人が砦を出た程度の動きならば報告不要だ。
入ったというのであれば別だがな。
斥候たちに移動したのがわかる様に記しを残すのを忘れるな。
それから、橋を渡っていた部隊へ伝令を先発させろ。合流するぞ」
「御意」
地球のとある公的機関の所長室。
所長のデスクの前に立つ田中さんが居た。軍服かな?着てる。当然目の前には所長さんが居ます。あと他には誰もいないです。
「小学生の頃の記憶であるというのもありますが、該当の川も整備されて形がまったく変わっておりますので、場所については特に確認していません。
まぁ彼の溺れた位置は当時の記録からおおよそ特定できていますので、そこから川の下流にあるはずです。
ただ常時あるわけでは無い様ですのでどうやって特定するか……。
いや、それよりも気にするべきは地球にも敵星に繋がる門があるということです」
田中さん、だいたいの報告は済んでいるのかいきなり要点について意見する。
「その件については科学班で対応するべく既に指示を出した。
投降した彼には協力していただくことになるが……。
しかし、こうなると門はもっとあると考えた方がよさそうだな。出現タイミング等もバラバラだろう。
捕虜にした黒い戦士も遺伝子が地球人と完全に一致した事から推測はされていたが、古代に地球から流れたか、はたまた逆か……」
逆って、彼らが地球人の祖先の可能性がある?
「爬虫類人が居るということから前者の可能性が高いと思いますが、人口比の少ないという爬虫類人がさらに他の星の門から訪れたという可能性もありますからね。単に人間の方が増えやすいのかもですが……って彼の協力って、あ、いえなんでもないです」
「地球人同士であれば今後の対応にも考慮する必要はある。
我々ではやることが多すぎるが、どのみち人類規模の話になるなら他国にも協力を要請する時が来たのかもな」
「それって……あぁ、それも今は置いておきましょうね。
所長、わざわざ自分に言わなくて良いことは言わないでくださいよ、もう」
「ちゃんと置いておけ、頭の片隅にな。
その上でだ、君は現行任務に専念しなさい。 とにかく極めて重要度の高くなった巫女様をなんとしても守るのだ。
それから彼女のご両親には正式に承諾いただいた。だが、本人には言わなくていい。
他の巫女候補も見つからない以上、高橋さんにお願いするしか無いのだから。
あともう一つ、門を消せるという少女、聖騎士殿についてもだぞ。行けっ」
そっか、私以外も探してくれてるんだ。条件があえばいいはずだもんね。複数人ならいろいろやりやすいかも。
「ハッ」
田中さんは背筋を伸ばし敬礼して返事をすると、回れ右をして扉へ向かい、かけてから振り返った。
聖騎士を守るって?とか、ふみちゃんは?とか聞くのはあえて止めて聞く。
「なんて言うか、そろそろ宇宙人では無くて異世界人でよいのでは無いですか?
星の配置から、我々と同じ宇宙の可能性はほぼ無いのですよね?」
このタイミングでわざわざ言うのがそれぇ?
「つまらん事を気にしてないで早く行け、どちらの言葉が”使いやすい”かくらい分かるだろう」
ですよね~。 だけど偉い方、異世界人でももう通じますよきっと。いや、そういう意味じゃ無いのか。
「はいはい、とっとと行きますよ。
ただ、そちらも調査を急いでくださいね。マジで時間無いですから」
田中さんは今度こそその場を離れた。
同日、午後。
ヤマモトさんが行方不明になったという川。
彼の行方不明事件の事実については既に確認のとれた情報であり川も事故の場所も特定されている。
その川でツナギ姿の数人が両側の岸に分かれて何やら作業をしていた。
両側からロープを張っていてそのロープには一メートル間隔に小さな機械、釣り用のリールみたいなのが付いている。
さらにそれぞれのリールから出ている糸には浮きらしき物が付いていて、今一斉に流れ出した。
作業員のうち数名はそれを見送ると近くにテントを張り、近くに止めてある車からいろいろな機材を運び込みはじめた。
しばらく作業をした後、一人がスマホを取り出してどこかへ掛けると数人を連れて停めてあったSUVに乗込みどこかへ行ってしまった。
翌日、学校。
「ねぇ、ふみちゃんさぁ。 ヤマモト、タカヤくんって知ってる?」
ふみちゃんに聞いてみた。
「知ってるというか、覚えてるよ。
でも、なんで今更?」
「ええと、この前の黒戦士さんね、その人だったのよ」
「え? なんで? だって彼、わたしの記憶ではもう……ってもしかして異世界転生?」
「いや、本人なんだけど……転生っていうか転移が近い?」
「あの時名乗ればよかったのにね」
「彼なりに確認が必要だったみたい。
ええとね…………みたいな。でも秘密だよ、絶対だよ」
で、わたしが知ってる経緯をちゃんと説明した。
「なるほど~。 それで今はどうしてるの? わたしも話をしてみたくなったよ。
まさか、拷問とかされてないよね?」
「そんなことしないでしょ。しないよね。 たぶん検査とかいろいろじゃないかな?」
「まぁそりゃそうか。わたしが話して何かなるわけでも無いから何時でもいいけどね」
「早くお家に帰れるといいけど……」
「そうだねぇ」
「何の話をしてるんです?」
田中さんが割って入ってきた。
「うわっ。
あ、ええとヤマモトさんの事、ですけど……」
ちょっとびっくりした。 まぁ、この人には隠すことも無いしいちおう答える。
「じゃぁ僕を混ぜても問題無いですよね」
「いやぁ、どうでしょう……」
「知ってることを教えなさい」
ふみちゃんは興味津々なのね。
「ははは、何も無いですね。ごめんなさい」
無いんだ、というかふみちゃんにも言えないのかぁ。わたし言っちゃったよ~。
「じゃ、あっち行って」
ふみちゃんはしっしっと手ぶりをしながら田中さんを追い払う。
「そうですね。
ヤマモトさんが門をくぐったらしいという話は知ってますよね。
だから、そこを探しています。さらに他にも門が無いかと探してるんですよ。一か所では無い可能性が出てきちゃったので」
田中さんは、気にせずに話を続けた。
「ほうほう。
で?」
ふみちゃんが釣れた。じゃなくて訝し気?
「ええと。
いろいろありますよ。伝承やおとぎ話、パワースポット、都市伝説などなどで関係ありそうなのは無いかそういうのを調べてるんですよ。
だからこの学校の七不思議とか地域の伝承とか知ってたら教えて欲しいなって」
「それって本気の話ですか~?」
ふみちゃんは疑いの目で聞く。
「ちょっとだけ、かなりちょっとですけど」
「何が言いたいんだあんたは」
「ふみさんは鋭いなぁ。
実は僕、調査から外されちゃったので、悔しいから何かしたいなぁと」
「知らんわ」
「でも、あなたの意見はけっこう期待してるんですよ、俺は」
「ナンパかい? それなら良いけど」
ふみちゃん何言ってるのぉ?
「いや、なんでそうなるんですか? っていうか良いのですか」
「おいしいごはんに連れて行ってよ、今度こそ」
「ふむ、そうですね、上に掛け合っておきましょう。でも、フミ様に出てきてもらいますよ。そうじゃないと予算付かないですから」
田中さん、ぜったい自腹は切らないつもりなのね。
「途中からでもいいのよね? あと、努力したけど出てこなかったはだめ?」
「なるほど、彼女が納得してくれるなら構いませんよ」
「めっちゃお腹すかせて行くから大丈夫。
あと、心霊スポットデートなら行ってもいいぜ」
「ええと、なんの話だっけ?」
話のとりとめがなくなった気がするのでちゃちゃ。
「ではそういうことで、またね」
田中さんは、去って行った。
「はい、また~」
ふみちゃんは嬉しそうに手を振って見送った。
「結果的にナンパされたことに……」
いったい何が目的だったのだろう。
「はは、楽しみだなぁ」
「まぁ、そうね」
でも、結局田中さんは何がしたかったのだろう。不思議なことが知りたいのはそうなのかもだけど。
「実際、探すの手伝わせてくれないかなぁ。っていうかやればいいのか。
向こうに行って無い時間ならいいと思わない?」
「それって、わたしもってこと?」
「もちろん」
「ああ、まぁ、そうね。
怖いところじゃないなら……」
「まずは、目星を付けるとこからだけどね」
「そこは任せるよ」
「ぎょい~」
昼すぎ、神殿近くの森。神殿までは一キロメートルほどだろうか。
敵の斥候は辺りを見回している。
周囲には木々が茂っているだけだ。
風が吹いて止まった。空気が張り詰めた。
「もしかして俺を追って来たのか?」
斥候には声だけが聞こえている。
「どこだっ?」
斥候の声に焦りが乗る。
視線は左右に振りながらも懐から丸い玉を取り出して地面に投げる。
煙が周囲に広がる。
「こっちだ」
斥候が振り向くより早くその首は斬られ、振り向いたのは体だけだった。
風が煙を晴らす。
「風が大気が全て教えてくれる。
俺を尾行など不可能だ」
颯矢さんは斥候の躯の横に立ち、結果を確認する様に呟いた。首を落としたのは風の技、追跡を察知したのも呼びかけた声も風を利用した技であった。
そして、神殿方向に走りはじめた。
田中さんは、わたしたちのところから離れた後、少し離れた場所で女子生徒二人と話をしていた。
今まで見たことない人たち、田中さんと同じお仕事の人なのでしょう。
「あれが巫女様と雷様だ」
ふみちゃん、雷様と呼ばれてるのね。本人はもっとカッコよいのを希望しそうだけど。
「どっちも可愛いわね」
金髪ギャル風にしてるのは変装の一種でしょうか。
「どちらも弱そう。でも可愛らしい」
黒髪パッツンロング、とても似合うけどやっぱりわざとらしいかも。
「学校でのガードは二人に任せるからね。
俺は、しばらく向こうに留まって闇の聖騎士様をガードせにゃならん。
上の命令だからしかたないけど、俺がなんの役に立つのやら」
「噂の超美少女のことね。
向こうに行ったやつ、みんな言ってる。
写真も動画も禁止だから直接いかないと見られないという」
「いいなぁわたしも見たいなぁ」
「僕は、殺されかけましたけどね。
でも、今は色々あって大丈夫そうなので、まぁ少しでも距離を詰めておくためと思ってがんばるよ」
「あと、この件他言無用でお願いします。ロリコンって噂が立たない様にしないと……」
「その方が面白いのに」
「面白いからとりあえず噂は流しておこうっと。
ロリコンとか言われる前にみんなにボコボコにされるんじゃない?」
「そっちもあるか~って、他言無用って噂も含んでですからね」
「ぎょ~いっ」
金髪ギャル風さんは敬礼ポーズでさらにウィンク付きだ。
「わかりました」
黒髪パッツンロングさんは、普通に答えた。
「では、明日からお願いしますね」
田中さんは、駆け足でその場を去って行った。




