2日目『朝①』
「いやぁー、ホントに美味しい!なにこれ、何の肉?こんな美味しいもの食べたの初めてだよ!パンも茶色くないし、ジャリジャリしないし、甘い!」
食べ滓を飛ばしつつ、話ながら食べまくるこの・・・青年。彼は昨日、木刀を前に倒れたその青年だった。
目の前で倒れた人に対してだけ職業柄か体が反応してしまい、すぐさま車から飛び出てしまった俺。
俺をおびき寄せるこの男の狡猾な罠だったら、即お陀仏だった案件だと、寝袋の中で猛省した。次からはもう少し慎重になろうっと。
急いで倒れた彼を診察し、所見から脱水からの気絶の可能性が高いと思いった俺は、彼の頬をビンタし無理やり覚醒させて水を与えた。
ここが病院なら間違いなく点滴補液して経過観察するところだが、そんなものはここにはない。
・・・いや、一応あるんだけど。俺の職業も話してあるプロジェクトリーダーのジョンが何を思ったかそういうと医療機材もオプションとかでたらふく積めてくれていた。違法では?と、頭を過るが、気がつかなかったことにしたい。そして、最大限のピンチの時以外、出来れば使いたくはなかった。
今更ながら、ジョン、お前は一体何者なんだ?と問い詰めたくなる。
まあ、そんなグレーゾーンっぽい貴重な医療器具なんか使わず対応できることには越したことない。
で、ビンタをくらって俺に起こされ、無理矢理水分を取らされた彼は、
「水・・・・うまいなぁ。。。」
と、言い残し、気絶するように入眠。
まあ、水分をとったから、よしとするか。彼の体を担いで車の中に運んで、そっと寝かせた。別に熱があるわけでもないし、水分をとった彼の脈拍は、正常値まで落ち着いてきていた。
彼を寝かせたあと、起こさないようにそっと朝御飯の下拵えをふじめた。
ボールに小麦粉を入れ、そこに天然酵母、塩、水を入れてこねるて、上から乾燥しないよう濡れたタオルをかけておく。
野菜庫から玉葱を1個取り出し、みじん切り。鍋にコンソメ顆粒と水、みじん切りした玉葱を入れておく。
そして、冷凍庫から鶏モモ肉を出しておく。
ここまで準備したあと、俺は爆睡している彼の隣で睡眠をとった。
朝、5時。
外に出ると冷たい空気が俺を包む。吐く息はまだ白く、空はまだうっすらと明るい程度で、例の緑の月が輝いていた。
ソーラーランタンをつけ灯りを確保した後、車外壁についているボタンを押す。すると、車上部からカーサイドタープ(もちろんジョンのオプションでボタン1つで出現収納可能)が自動で飛び出す。端はペグ打ちが必要だけども。
長さ約7メーター、幅約2メーターほどであるバスコンの一回り小さいくらいの広さ分のタープなので、車がある場所以外の3方向も風避けペグ打ちしても十二分に広い。
車側部にある荷物庫から、焚き火台、炭と薪、火起こし兼火消し壺等、通常のキャンプで使う諸々の物品と、折り畳み式のテーブルと椅子を2脚だす。
キャンプ装備を揃えるとき、『俺しかいないからチェアーは1脚でいい!』と言ったが、キャンプグッズ専門のスタッフ(プロジェクトチームの一員)のボブが『ノンノン!美しくない!』と、言う意味不明な理由で2脚ゴリ押ししてきて、仕方なく2脚持っていくことにした。まあ、収納場所を既に2脚収納で作成したってのもあっただろうけど。
焚き火台は、昨晩使っていたものよりもふた回り大きいものを出す。これもボブのこだわり。『ただ美味しいコーヒーを飲むための焚き火と、バーベキューのような美味しいな焚き火、キャンプファイヤーのような豪快な焚き火、それぞれ良さがあるだろう?』さっぱりなにいってんのかわかんなかったが、とりあえずシーンに合わせて焚き火台を変えろということなのは理解できた。ま、コンパクト収納可能なものばかりだし、ある程度収納スペースもあるから。これ以上、ボブと無駄な争いをしたくない俺はイエスマンになった。
昨晩の炭の入った火消し壺を開け、その中に乾燥した小枝を入れて、マッチを、すって中に放り込む。これは火起こしと火消しがどちらも可能なのだ。こうしておくと、あとは勝手に火がつく。一応、固形燃料やファイヤースターター、ガスバーナーもあるが、その中でも俺はマッチを愛用している。にんか、マッチをつけたときの、この匂いが好きなんだよ。
火起こしをしている間に、やや大きめの焚き火台を広げ、薪を空気の流れを意識しながら組んでいく。そこに火起こし器の中身を入れ、更に炎を大きくする。
ダッチオーブンにクッキングシートを敷き、その上に昨日から発酵させているパン種を丸く整形して敷き詰める蓋をする。鶏モモ肉には塩コショウをふっておく。
焚き火台の火が馴染んで来た頃に、上から網を置き、その上にダッチオーブンとスープ鍋、水の入ったケトルを置く。
ケトルの湯が沸くまでの間、俺は周囲の様子を見るために、タープから出る。
日の出を迎え明るくなった俺の目の前に広がる光景は、『???』と、言葉にならなかった。
小高い岡から見えたのは民家やある程度整地された森ではなく、鬱蒼としげる暗い森。それがどこまでも続いていた。
道路があったはずのその場所は、わずかな木々と俺の膝下ほどの高さまで伸びる草原。
俺の車があるこの場所だけは、昨日と変わらず土と小石が混じる開けた場所。それ以外はまるで初めて見る風景だった。
アメリカ放浪キャンプ生活35日目を迎えるが、今だかつてこんな風景を目にしたことはなく、どこにいても人の気配というか文明の匂いは感じられていたのだが。ここには目視確認する限り、俺の車以外は人の手が入ったような形跡すらないように思えた。
コポコポコポコポッ
湯の沸いた音。
タープへ戻り、ケトルを焚き火台からはずす。
インスタントコーヒー粉の入ったコップに湯を注ぎ、混ぜておく。
ケトルが置いてあった場所にフライパンを置き、下味を着けた鶏モモ肉を焼く。低温でじっくりと焼かれていく肉から、鶏の脂がじわじわと滲み出てくる。
火入れを調整しつつ、鶏肉に火が通ったあと、その脂をスープ鍋に注ぐ。パンもしっかりと膨らみ、香ばしい酵母の匂いが食欲をそそる。
ここがどこだかわからないが、腹は関係なく減るものだ。
よし、これで朝食は完成。
皿にそれぞれを盛り付け、食器を並べる。
2杯目のコーヒーを作ったあと、彼を起こし、朝御飯へと誘ったのだ。
無双キャンピングカーは想像するだけでも面白い。




