99話 安子神社
永禄4年(1561年)5月 出雲 神門郡 常楽寺村 安子神社
「ふーん、ここが安子神社ねぇ」
お元気ですか?
チートジジイのお見舞いと運河建設の話し等を済ませて、無事に吉田郡山から帰ってきた玉です。
今日は春姉の安産を祈願するために、安子神社にやってきました。安子神社ではなくて、安子神社と読みます。もっとも、前世の私は親と親戚に、安子神社と教えられたのですが、それは地元の方言だったのでしょうか?
この安子神社は、子宝安産でそこそこ有名な神社らしいのです。主神の一柱が、安産の神様でもある木花咲耶姫なのです。他の主神は少名毘古那と大国主命ですね。主神が三柱とは、なかなかに贅沢な気がしないでもない。
そして、この安子神社は、前世の私とも所縁がある神社なのです。私のご先祖様が常楽寺村の出身だったみたいで、安子神社と関係が深かったらしいのであります。本殿のなんちゃらを寄進したとか云々言ってましたね。
しかし、私自身が安子神社に来るのは、前世でも今世でも初めてのことであります。前世では、出雲に足を踏み入れたことすらなかったですしね。不心得者で申し訳なく、ちょっぴり反省しています。
妊婦さんが戌の日に、岩田帯を締める風習は江戸時代に始まったらしいのですが、この時代でも似たような風習は既にありましたので、春姉のために拵えた帯に、安子神社の神主さんに安産の祈念をしてもらうのです。
戌の日とは、妊娠五ヶ月目の吉日です。多分。詳しくは知らん。妊娠期間は十月十日と言われていますが、十ヶ月と十日ではありませんよ? 妊娠期間中の一ヶ月は四週間を一ヶ月と呼ぶのです。
ですから、十月十日とは、41週と3日ということですね。当たり前ですが前世で妊娠したことがありませんので、妊娠1週目が何時なのかまでは、さすがに分かりませんけど、今年、永禄4年は閏3月がありましたので、5月中には必ず戌の日を迎える計算になります。
それで、春姉自身は身重ですから遠出をするのは憚れますので、富田でお留守番をしております。ですから、こうして私が代わりに安子神社に足を運んだ次第なのであります。
『おー、やっと来たな。この不信心者め』
「え? 誰?」
突如として私の目の前に、幼女の姿をした可愛らしいチビ巫女ちゃんが現れた。一瞬ですが、私が杵築大社に巫女見習いで出された当時を思い出してしまいましたよ。私も昔は、目の前に居るチビ巫女ちゃんみたいだったのでしょうね。
それはそうと、なんだろ? 神社の鳥居をくぐったら、いきなり空間が遮断されて、べつの空間になったような気がしますね。これが所謂、神域ってヤツなのかな? 杵築大社でも感じたことなかったから確信は持てないけどさ。
『失礼なヤツじゃのぉ。我はチビ巫女ではなくて、木花咲耶姫じゃ』
「のじゃロリきたーっ!」
といいますか、私が不信心者って言われているのだから、私に神罰でも下るのか? うわー、こんなことなら、ちゃんと普段からもっとお祈りしておけば良かったよ……
『誰が、のじゃロリじゃ! 誰が!』
「いえ、貴女が」
"じゃ"って言ってますやん。のじゃロリは、ファンタジーの世界では、人化した竜やお狐様とかが幼女と化して『のじゃー』は、鉄板ネタですよね。
『我は木花咲耶姫じゃと言うておろう』
「マジ? マジで神様の木花咲耶姫ですか?」
『我が嘘を吐く必要もなかろう。お主の頭に直接話し掛けているのじゃからのぉ』
まあ、この世界も半分、和風ファンタジーみたいなモノか。なんせ、私が未来から逆行して転生しているくらいだから、べつに神様と会話が出来ても不思議ではないということかも知れませんね。
なんせ過去には、私自身が神に憑依されたのか神を降ろしてしまったのか知りませんけど、そんな摩訶不思議な体験をしているのですから。アレは、毛利元就の奥さんの霊だったみたいな気もしましたが。
それはそうと、私の頭に直接話し掛けている? いや、普通に喋っているような気がするのですけど。まあなんにせよ、気にしたら負けのような気がしますから、これはスルーしたほうが良さそうですね。
「あー、まさか本当に、私が神様と会話するとは思ってもいませんでしたので……」
『ふむ。それもそうであったか。それと、誰もお主に神罰を下すなどせんから安心せい』
ほっ、助かったのかな? 不信心者と言われたから、私が神の名を騙って色々とやっているのがバレてしまったのかと思ったけど、どうやらセーフだったみたいですね。
『不信心者とは、お主がなかなか此処に来なかったことじゃ』
「そ、それは、私にも色々と都合がありまして……」
言い訳していいわけ? うん。いいんだよー。け、けして、ご先祖様所縁の安子神社のことをド忘れしていた訳ではないのですよ。春姉が妊娠して、『戌の日には岩田帯だよなぁ』とか、
『そういえば、安産祈願で有名で前世の私にも縁がある神社が出雲にあったよな?』とかで、安子神社のことを思い出したなんてことはないのです。ないったらない! 安子神社は、私の心の故郷であります!
うん? まてよ……?
「もしかして、私の心の中も読めてます?」
『無論じゃ。お主は、神の名を騙って色々とやらかしておるようじゃな』
バレてーら。
「そ、それは、神の名を騙ったほうが色々と都合が良かったものですから、つい……」
『まあよい。人々の役に立つ事に使っているようじゃから、それは許す。お主のおかげで信仰心もうなぎのぼりじゃから、こうしてお主とも意思の疎通が出来るようになったのじゃからの』
「は、はぁ。そう言って頂けるのは怪我の功名なのかな?」
私が神のお告げと言って行った様々な施策で、出雲を中心に尼子領が豊かになって、それが神様への信仰心に繋がったということでしたか。
『うむ。ここ最近は仏の各宗派に人々の信仰心を奪われておったので、神々も苦々しく思っておったのじゃ。そこに、お主が現れたのじゃよ』
「そういうことでしたか」
まあ、現れたといいますか、私の場合は転生逆行の類いなんですがね。でも、木花咲耶姫も喜んでいるみたいだし、結果オーライってことなのかな。そうでないと、私の存在価値、アイデンティティーが崩壊しそうで怖いですしね。
『逆行とな? ……ふむふむ、ほうほう、なるほど。日の本の未来はこうなるのかぇ』
「な、なんなんです?」
『お主の記憶を覗かせてもらったが、確かに未来からの転生逆行じゃな。神でも解らない不思議な事があるものじゃのぉ。我が知る限り、こんな事は初めてなのじゃ』
「ちょっ、私の記憶を勝手に覗くだなんて、プライバシーの侵害ですよ!」
『なに、気にするでない』
アンタが気にしなくても、私が気にするんだよぉぉぉ!
『しかし、前世のお主は、かなり自堕落で下種な人間だったのじゃな。ご先祖が泣くぞよ』
「あうあう……」
あんな妄想やこんな下種な内容とかまで神様に知られてしまっただなんて、もう、お嫁に行けない身体にされてしまった気分だよ……
今夜は久々に、お布団でゴロゴロしながら、あうあうの刑が確定みたいですね。春姉に慰めて貰おうにも、肝心の春姉は富田じゃん!
どこかに抱き枕ってありませんかね?
SF少しファンタジーな歴史小説になってしまったけど、転生自体ファンタジーだから別にいいよね!(言い訳)




