96話 足のツボ
※この物語はTS小説です。
永禄4年(1561年)4月 安芸 吉田郡山城
「それで、義父上様のお身体の具合は大丈夫なのですか?」
「うむ、可もなく不可もなくといったところかのぉ」
「差し障りなければ、義父上様が倒れた原因をお聞きしても?」
「歳も歳じゃし、季節の変わり目で体調を崩しただけだと思うがのぉ」
ふむ…… まあ、この時代では見た目の変化がなければ病状を特定するのは難しいでしょうし、体調が悪いで片付けてしまうのかも知れませんね。
「父上、もう間もなく京から曲直瀬道三殿がやって来ますので、ちゃんと診て貰えますぞ」
曲直瀬道三かぁ。この時代の日の本で三本の指に入る医聖でしたっけ? でも、私的には、ボンバーマンに性技指南書である黄素妙論を渡した、スケベジジイのイメージしかないのですがね。
性技指南書なんて言ってはいますけど、エロ本みたいなモノのはずですしね。あー、そう考えると昨年の上洛時に、ボンバーマンに黄素妙論を写させてもらっとけば良かったですね。
この時代は、娯楽が非常に少ないのですから、たとえ文字だけで書いてある性技指南書であったとしても、恰好の自慰のネタには成ったはずなのであります。
しくった……
それはさておき、
「お節介かも知れませんが、もし宜しかったら私が義父上様を診ましょうか?」
「玉殿がですか!?」
まあ、私みたいな小娘が医者の真似をするだなんて言い出したら、隆もっちゃんが驚くのも無理はありませんよね。私が毛利隆元の立場だったら、私でもビビる。
「簡単な症状しか分かりませんけれども、私も医術の心得は少々ございますので」
「姫は医術の心得を知っておるのか?」
「少名毘古那に教えてもらったのですよ」
嘘ですけど、嘘も方便とか言いますしね。これは許される範囲の嘘ではないでしょうか?
「なるほどのぉ、杵築大社の巫女の神力じゃったか…… そういえば、姫は消毒液なるモノも作っておったな」
「アレも少名毘古那のお告げの賜物ですよ」
「九州で戦っておる兵も、あの消毒液には助けられておるので感謝しますぞ」
「お役に立ったのならば幸いです」
消毒液が普及し始めてから、尼子と毛利では破傷風で命を落とす将兵の人数が極端に減ったのです。さすがに敵や仮想敵国に渡るのを防がなくてはなりませんので、消毒液は尼子家で厳重に管理しているのですがね。
敵が消毒液を使用して命が助かって、その敵が戦線復帰して味方の将兵を殺すだなんて、本末転倒な事態は望んではいませんので。私も、そこまではお人好しではありません。敵の命よりも味方の命のほうが千倍も万倍も重いのですから。
あと、生産量の問題もありますしね。現状では、尼子と毛利に回す分だけで消毒液の生産は精一杯なのであります。基本的には、余剰な穀物でしか酒は造れないのですよ。飲兵衛は除きますけど。
「それでは、玉殿。父上を診て貰えますかな?」
「触診するのは私ではなくて、たろさだけどね」
「なんと、太郎左が診るですと!?」
おろ? やはり驚かれてしまいましたか。
「はい。たろさが触診して、義父上様の反応を診て私が診断します」
「こう言っては太郎左には悪いが、その、太郎左で大丈夫なのですかな……?」
まあ、医術に関して、ド素人と思われるたろさが触診すると言えば、隆もっちゃんが心配するのも当たり前の話でしたか。たろさが毛利から尼子に移籍してから、僅か二年程度で医術を修められる訳がありませんしね。
それに、たろさの本業は医者ではなくて、武士なのですから。
「私の腕力では、悪い箇所を特定出来ないのよ。たろさには、ちゃんと叩き込んであるから大丈夫だよ」
「隆元兄様、某は玉姫に仕込まれましたので安心して下さい」
たろさも、その表現の仕方は如何なものかと思いますよ? 隆もっちゃんが誤解するかも知れないじゃないですかー。
「そ、そうか…… しかし、身体を診るのに腕力が必要なのですか?」
「うん、私の触診は足の裏で測るからね」
この時代では、人が足に履くモノは草鞋が主流なのですから、足の裏は象の皮膚みたいに硬いのです。未来みたいに革やゴムで出来た靴なんて存在しない時代なのですから。まあ、革で出来た靴もどきもあるにはあるのですがね。
それに、道とかもアスファルトやコンクリートで舗装されているわけじゃありませんので、自然と足の裏が硬くなるのは必然でしょう。この時代の移動手段は大半が徒歩なのですから、歩く距離も半端ないですしね。
21世紀の現代人には、想像もつかないような距離をいとも簡単にホイホイと歩くのですから。前世で引き籠もりだった私が、この時代に転移して来た場合だったら、三日で野垂れ死んでいた可能性が高かったですしね。本当に転生で良かったと心から思えます。
「足の裏? 足の裏を触っただけで病状が解るのですか?」
「うん。足の裏は象みたいに硬いから、女の私の力では効き難いのよ」
「象? 象とは天竺におると言われている獣のことじゃな?」
「そうだよ。鼻が長くて耳も大きく、身体の重さは千貫目二千貫目もあるとかないとか言われている、その象だよ。なんでも、地上に生息する生き物で一番大きな獣だとか」
といいますか、象って獣に分類されるのですかね? 獣って毛皮に覆われているイメージがありますよね。象は硬い皮膚に覆われているだけの気がするのですが。まあ、どうでもいい話でしたか。
「姫は物知りじゃのぉ」
「杵築大社の書物で見た記憶があり、突拍子もなかったので良く覚えておりました」
「それで象の足か、実物は見たことはないが言い得て妙じゃのぉ」
毛利元就が象を見たことがあったら、私がビビりまんがな。あれ? でも、そういえば、もう少ししたら南蛮人が日の本に象を連れて来たような気もしましたね。私の記憶違いの気もしますけど、確か史実でも信長か秀吉が象を見てなかったっけ?
「確かに、父上の足の裏の皮は分厚いですな」
「まあ、モノは試しと見てもらったほうが早いわね。たろさ、お願い」
小娘の私の力では、たいして圧力を加えられないのだから、ここは一つ男手の出番であります。治療する相手が毛利元就なのですから、たろさに教えておいて、ちょうど良かったと思える瞬間ですよね。
いくら私が、毛利元就の義理の娘で同盟相手とはいえ、私がチートジジイの身体を痛めつけるのは憚られますよね。ジジイに何かあったならば、私が隆もっちゃんに後ろから斬られかねません。
「分かり申した。父上、少々痛いかも知れませぬが我慢して下され」
「痛いのには慣れておるから心配は無用じゃ」
ふふふっ、そう言っていられるのも今のうちだけかも知れませんよ? アレは相当に痛いはずなのですから。
「では、失礼いたします」
「うむ、頼んだ」
「痛デッ! いでででぇっ! 痛デッ!」
あー、やっぱりねー。
「太郎左! 貴様、父上に何をしたっ!」
「大膳大夫殿、落ち着いて下さい。これは足のツボを刺激しているのですよ」
「足のツボ?」
そう、たろさがチートジジイに施しているのは、前世の私がタイで学んできたタイ式足裏マッサージなのであります。大元は台湾式足裏マッサージを源流としているのですが、タイでは木の棒を使って指圧するのです。ですので、木圧になるのでしょうかね?
タイなのに台湾とはこれ如何に? そう思わなくもなかったのですけど、華僑ネットワークみたいなので台湾からタイに広がったみたいですね。
たかが、足裏マッサージと馬鹿にする事なかれ。足裏マッサージはちゃんと健康に効果があると証明されているのであります。前世で何度となく施術してもらった私が言うのですから間違いありません。まあ、あまりの痛さに悲鳴ばかり上げていましたが……
でも、それほどまでに、私の身体が悪かった証拠でもあるのですがね。ですが、施術してもらった翌日は寝起きもスッキリ快調で、そこそこ調子も良くなるのです。
あー、でも、中堅以下のホテルに入ってるタイ式マッサージの店は、あまり期待出来ませんがね。彼女たちの本業はチョメチョメですので。べつの意味でスッキリしそうなのは内緒であります。
ちなみに、タイ式や台湾式といっても台湾人が発明したのではありません。台湾で布教活動をしていたイギリスかドイツの宣教師が、河原の石の上を歩くと足裏が刺激されるのからヒントを得て発明したらしいですよ?
しかし、この部位で、この痛みということは……
「たろさ、外側の同じ場所を上から下へ擦ってみて」
「分かり申した。父上、恐らくは、また同じように痛むはずですけど、我慢して下され」
「う、うむ、お手柔らかに頼む……」
「痛デッ! いでででぇっ! 痛デッ!」
あー、やっぱりビンゴでしたか。
たろさがマッサージした箇所は、足首にあるクルブシの踵よりのやや下の部分で、アキレス腱の手前にあたる場所なのです。この箇所の内側を擦って痛みが生じるのであれば、前立腺に異常がある可能性があります。女性でしたら子宮になります。
そして、外側の場合ですと、金玉、睾丸になります。女性でしたら卵巣ですね。内側の土踏まずからアキレス腱の方向へと斜め上に擦って痛む場合は、尿道かまたはナニ本体。ウインナーやソーセージとか呼ばれている物体であります。
ポークビッツ? 知らんなぁ。
あえて女性名で言うのであれば、お饅頭に該当します。
もっとも、異常とはいっても、病気で悪くなって痛みが生じている場合もありますけど、それよりも、擦った箇所に該当する臓器や部位に疲れが溜まっている可能性の方が高いのが、足裏マッサージで痛みが生じる主な原因になります。
毛利元就は、擦られた三箇所ともかなり痛がっていますので、これから導き出される答えはほぼ一つしかあり得ません。
つまり、チートジジイが悲鳴を上げている理由はといいますと……
「義父上様、やりすぎです」
「やりすぎ……?」
「いや、玉殿。やりすぎなのは太郎左ではないのか?」
「いいえ、やりすぎなのは義父上様で間違いありません。義父上様は、ソレに心当たりがございますよね?」
心当たりがないとは言わせませんよ?
「ま、毎日という訳ではなかったぞ! 二日に一回程度じゃ!」
プチっ
「あらあら、まあまあ……」
「まさか、その歳で父上は、某よりも盛っておいでであったとは……」
「某なんて、ずっとお預け食らっているのに……」
お盛んなことで、本当に、ひじょうに、ひじょーに、羨ましい限りですこと。あと、たろさは黙ってようか。口では抜いてあげてるんだから、もう少し待ってなさいってば。
「うふ、うふふふふっ……」
「ひ、姫よ、如何したのじゃ?」
「た、玉…殿…?」
「如何したもクソも、その歳で二日に一回は、十二分にやりすぎだっちゅーの! ボゲェェェ!!」
「玉姫、落ち着いて下さい!」
たろさも止めるなっ! このジジイは、戦国乱世の梟雄と恐れられたチートジジイなんかじゃなくて、ただの、色ボケジジイだったとはっ!
毛利元就には、がっかりだよ…… 幻滅しました。
でも、男性でしたら毛利元就の行動も理解が出来るのではないでしょうか? ちょっぴり羨ましくもありますよね? 私も前世では男でしたので、一応の理解は出来ちゃいますしね。
英雄色を好むとは、正にその通りだったとは!
しかし、これでも毛利元就のほうが、三英傑と言われている、信長、秀吉、家康なんかよりも、側室の人数も子供の人数も控えめらしいのが、なんともはや…… 精力旺盛でないと、天下は取れないということでしょうかね?
精力旺盛→活力がある→領土欲も権勢欲も旺盛ってな具合なのかも知れません。
あ、秀吉は側室の数だけでしたね。多分だけれど秀吉は種無しか、有っても種がもの凄く薄かったんだろうなぁ。
ドンマイ……




