71話 桶狭間の裏側で
今話は半分以上蛇足ですw
「今川義元が討ち死にのぉ」
「多胡爺、戦だからそういうこともあるでしょ」
まあ、私は史実を知っていたのだから、今川義元が討ち死にしたと聞かされても、あー、やっぱりか。ぐらいの感覚で、多胡爺ほどの驚きはなかったんだけどね。
でも、相手を殺すつもりで尾張に攻め寄せているのに、自分が殺されないと思うのはお門違いだとも思いますしね。もし、そういった考えを持つに至ったのならば、それは、傲慢、慢心、怠惰、堕情とかの心でしょうかね?
あちゃー、直ぐに天狗になってしまう私はかなりヤバいですね。
「左様でござりましたな。いや、東海一の弓取りが討ち死にと思いましての」
「栄枯盛衰は世の習いだよ」
「この世は盛者必衰でしたな」
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。私たち尼子も、驕る者は久しからずに気を付けないとね」
沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらはす。ベベンッベンベンッ
思わず琵琶を弾きたくなってしまったではないですか。まあ、下手クソなんですがね。
「我々も気を引き締めまする」
「頼むよ。私は壇ノ浦に身投げなんてしたくはないからね」
「しかし、姫様は尾張からの知らせの一言だけで、よく戦のことだとお分かりになられましたな」
壇ノ浦に身投げはスルーかよ。まあいいけどさ。ぐすん……
「まあ、なんとなくね。遠国からの知らせなんて戦か大名当主の死ぐらいしか、至急の知らせなんてないでしょ」
「言われてみれば、確かにそのとおりですの」
うむ、後付け理論だけど、理論武装は完璧ですね。奥義、玉ちゃん誤魔化しの術! ではありませんので、あしからず。
「おひいさま、尾張の織田と駿河の今川では、今川のほうが兵を多く動員できますよね?」
「そうだね。今川は甲相駿での三国同盟があるから、後顧の憂いなく兵を集めれただろうし、三万近くは動員したんじゃないかな?」
まあ、実際の戦闘要員は二万以下だとは思いますけど。それでも、織田は美濃にも気を配らなくてはならないはずですので、対今川に動員できた兵力は五、六千が精々だと思います。二万VS五千。うん、普通は今川の勝ちですよね。
この頃の信長の尾張支配は、まだ盤石ではなかったはずですし、美濃国境近くの領主は日和って兵を出さなかったのかも知れないですしね。信長は自分が思っていたよりも、兵を集められなかったのかも知れませんね。
そう考えると、信長って桶狭間でよくもまあ勝てたよなぁ。
「織田が流布している言によりますれば、二千の織田が四万の今川を討ち破ったと風説しておりまする」
さすがに四万は盛りすぎじゃね? まあ、自軍の兵力を少なく申告して敵の兵力は過大に盛るのは、戦に勝った自軍を強く見せる常套手段ではあるのですがね。プロパガンダ、ハッタリの類いですよね。
いつの時代でも、大本営発表は正確無比。まったくもって正しいのであります。台湾沖で空母十隻撃沈と大本営が発表すれば、空母十隻撃沈なのです。そこに疑念を差し挟む余地はありません。
情報の統制万歳! 思想の統制万歳!
もし、あなたが疑念を抱いてソレを口にしたのならば、待っているのは尼子領最北の地でもある、竹島への片道切符でしかありませんよ?
アシカの毛皮は防寒具として有用ですので、竹島での仕事が途切れることはありません。あなたも海獣とふれあえるアットホームな職場の体験に来てはみませんか? 海獣との素敵な出会いがあなたを待ってます!
閑話休題。
「弥之三郎、戦の詳細は分かっているのか?」
「はっ、去る皐月の十九日に三河との国境にほど近い尾張知多郡の桶狭間という土地で、雨の中を織田が少数の兵で今川の本陣を奇襲した模様であります」
なるほど、桶狭間の戦いは史実とほぼ同じ経過を辿ったみたいですね。それにしても、鉢屋衆の情報伝達速度は相変わらず速いですね。尾張から出雲まで十日も掛かってないのですから。
ちなみに、鉢屋衆の頭領は代々にわたって弥之三郎を襲名しています。代々とはいっても、この頭領でまだ三代目みたいですけど。襲名ってなんだか、ヤクザか歌舞伎役者みたいですよね。
あー、でもそういえば、歌舞伎の基になった"ややこ踊り"も出雲阿国が源流でしたっけ? 鉢屋衆は忍びでもあるけど芸人でもあるのです。といいますか、旅芸人が本職なんですよね。
旅芸人をしながら、各地の情報を集める間諜の役目を兼任しているといったほうが正解かな。ですので、伊賀や甲賀とか風魔といったメジャーな忍びに比べれば、個人の戦闘能力は一枚落ちます。
鉢屋衆は情報収集に特化している忍びともいいます。まあ、元々は芸人ですしね。
つまり、歌舞伎のルーツは鉢屋衆だったのです!
「雨中に少数の兵で本陣を奇襲のぉ」
「言うは易く行うは難しってヤツだね」
「左様にござりますな」
私が信長なら、美濃方面の守備を疎かにしてでも兵をかき集めてから、乾坤一擲の大勝負として今川にぶつけるはずです。美濃の斎藤は今川戦が終わったあとで考えれば良いのですから。
この桶狭間の戦いは、未来で軍の図上演習において、参謀将校が頭を掻き毟って悲鳴を上げる事案になりそうですね。どうやっても今川には勝てん、と。
「桶狭間で今川の本陣を奇襲って、おひいさまが織田殿に言ったとおりになりましたね!」
「なんじゃと!? 春よ、それはどういうことじゃ?」
「お爺様、おひいさまのお告げみたいなものです」
「姫様…… あとで詳しく聞かせて頂きますぞ?」
「あ、あはははは……」
は~……
しかし、これで、家康の独立から清洲同盟までは、事は史実どおりに運びそうなのは分かりました。問題は信長が美濃を取ってから、足利義昭を神輿に上洛するということだ。そう考えると、大義名分となる義昭を先に消しちゃうのも一つの手ではありますよね。
うーん、どうすんべ? 義昭消しちゃう? いまなら尼子の仕業だとバレずに闇討ち出来ますしね。殺っちゃう?
私から言わせれば、日の本をまともに統治すら出来ていない足利将軍家は室町幕府は、もう既に終わったコンテンツなんですよ。室町幕府の存続は害悪ですらあると思います。ですので、義昭さんには新しい時代の礎になってもらいたいのは事実なんですよね。
でも、義昭を消したとしても、阿波の平島公方が残っているのか。信長が義昭を神輿にして大軍を率いて上洛しなければ、三好やボンバーマンが京と畿内に居座ったままになるのかぁ。阿波公方は三好の神輿ですしね。
三好長慶と息子の義興が死んだ後だったら、三好は権威の確立に失敗して三好三人衆と松永&義継に分裂して弱体化するはずなんだよね。私にとっては、そのほうが都合が良いのも事実なんだよなぁ。
三好の畿内支配は複雑怪奇なのであります。足利将軍家を傀儡にした管領の細川家を、さらに傀儡にしたのが三好家なのですから。その三好家を、そのまたさらに傀儡にしてそうなのが、みんなも戦国一大好きな(玉姫リサーチ)、
我らのボンバーマンこと、松永久秀さんなのでした。
さすがは弾正さんですよね! パネェっす! そこにシビれる! 憧れる!
松永久秀ほど、後世の歴史家を悩まして評価を二分させている戦国武将も他にいない気がしますね。色々と楽しげな逸話が多すぎるのですよ、この御仁は。一度会ってゆっくりとお茶を飲みながら、話し合ってみたいジジイですよね。
まあ、もう既に文は四、五回やり取りしてはいるのですがね。
そうじゃなくて、いま考えることは他にあるのだった。
うむむ、うーん、
プランA 義昭&信長を上洛させる。私は信長に従属→出雲一国安堵?
プランB 義昭&信長を上洛させる。私は独立独歩→のち信長と大戦?
プランC 義昭さん生存で三好に肩入れ。→信長と大戦待ったなし!
プランD 義昭さん死亡で三好に肩入れ。→一応の安定は確保できるのかな?
プランE 義昭さんも平島公方もサヨウナラ。→足利の血は滅びるのだ!
プランF 義昭さんも平島公方も死亡で尼子が上洛。→私が天下人? 私がお歯黒おじゃる丸の相手をするの? ハハハ、ナイスジョーク…… ヤダなぁ……
うーん…… 本当に、どうすんべ?
考えても埒が明きませんね。まあ、なるようにしかならないよね! けして考えることを放棄したのではないですよ? 保留したのです。 まあ、時間的猶予もあと七、八年ありますしね。 ……あるよね?




