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68話 コンフェッシオ

クリスマス…… なんですかそれ?

 西暦20XX年 日本 某所 某中学校



「明日から冬休みだけど、みんな明日は何の日か知ってるよな?」


「メリー、苦しみます!」


「メリー、苦しめます!」


「まあ、日本ではそうともいうな」


「実際には、イブの今日苦しむ人の方が多そうだけどな」


「明日には日本中で、玉姫死ねの呪詛が聞こえると思いまーす」


「玉姫死ねのオンパレードだろうね」


「昨年は私も言ったよ……」


「中学生に彼氏はまだ早かったってことだよ」


「阿鼻叫喚の地獄絵図が見られるのですね。楽しみだなぁ」


「おまえ、歪んでるぞ」


「玉姫ありがとうと感謝の声も聞こえるけどな」


「それは、モテないヤツらの僻みの声じゃね?」


「いえてるー」


「あんだと!?」


「おまえら落ち着け、明日はクリスマスでもあるけど、恋人に正直な思い告白をする日でもありますよね。正式には、ディエス・コンフェシオネムですね」


「略してディスコン!」


「日本発祥なのに、なんでラテン語なんだろ?」


「それは玉姫に聞いてみないと」


「相手の嫌なところやダメなところを正直に言い合う日だなんて、玉姫も罪な記念日を作ったよなー」


「明日を境にカップルの半分近くは別れるって言われてるもんね」


「そうだね。でも、これを乗り越えて晴れて夫婦になったカップルは、ディエス・コンフェシオネムをしないで夫婦になったカップルに比べて、離婚率が極端に低いのも事実なんですよ」


「へー、そうなんだ。そっか、だから私の親は離婚しちゃったんだ。なんか納得したわ」


「どんまい」


「どんな些細なことでも言い合えるから、心の擦れ違いが起きにくいんだね」


「想いは言葉にしないと伝わらないって母親が言ってたな」


「私は言葉にしないでも相手と通じ合えると思うのは幻想で甘えだって教えられたよ」


「そういうことだね。ですので、玉姫は破局の神であると共に縁結びの神様でもあるのです」


「知ってるよ。玉姫神社でディスコンして夫婦になったカップルは生涯離婚しないって、まことしやかに噂されてるよ」


「へー、玉ちゃん、ちゃんと御利益あったんだ」


「おまっ、それはさすがに玉姫に失礼だろ」


「せんせー! 先生はディスコン経験したことあるんですかー?」


「ありますね」


「相手は先生に何を告白したんですかー?」


「い、言わなくちゃダメか?」


「「「「言ーえ! 言ーえ! サッサと言ーえ!」」」」






「……下手くそ」






「あちゃー」


「おー、じーざす……」


「ど、どんまい……」


「うん、どんまい」


「ないわー」


「せんせー! ナニが下手くそなんですかー?」


「ちょっおまっ!」


「うわー」


「アイツ、可愛い顔してえげつないよな」


「アレは天然だろ?」


「ないわー」


「先生は何を相手に告白したのー?」


「うん、気になるよね」


「もちろん先生は言い返してやったよ」


「なんて相手に言い返したんですかー?」






「緩いって……」






「うわー」


「先生もヒドいですね」


「幻滅しました」


「ないわー」


「しかし、玉ちゃんもとんでもない日を作ったよなぁ」











 同日 同時刻 日本 某所



「えっくしゅん! 黒胡椒かな? カーネルさんは、ちょっとスパイスが効きすぎですね。 でも、ふふっ、今年もディスコン生中継を見ながら食べるカーネルおじさんの骨付きモモ肉は美味しいなぁ。他人の不幸で飯が美味い!」











 永禄3年(1560年)4月 出雲 月山富田城



「おひいさま、今度はなにを試しているのですか?」


「エゴノキやムクジロの代わりになるモノを作ってるのよ」


「ムクジロではなくて、寺に植えるのはムクロジですね」


「なぬ!?」



 無垢な白でムクジロじゃなかったのか? どうも私は自分の都合の良い言いやすいように、言葉を誤変換してしまう悪い癖がありますね。これは、前世から引き継いでる悪癖でして、脳味噌の情報伝達に齟齬があるのだと思われます。

 転生して身体が作り変えられているのに、脳味噌が前世と同じというのは変だとは思うのですけれども、記憶を引き継いでいるのですから、デメリットであっても悪癖の一つや二つは甘受しなければ罰が当たりますよね。



「エゴノキやムクロジの代わりといいますと、洗うときに使うモノですよね?」



 おふこーす! いぐざくとりー!



「そうだよ! 固めて使いやすくするんだよ。持ち運びにも便利だしね」


「でもこれって、どう見ても油ですよ? 本当に固まるんですかね?」


「でも、久久能智神ククノチ少名毘古那スクナヒコナに聞いたらエゴノキみたいに泡立つって言ってたよ」



 久久能智神は木の神様のことです。エゴノキやムクロジは木だからね。それで、少名毘古那は色々な神様を兼任していて博識として有名なのです。酒に医薬に穀物や石の神をしています。変わったところでは、おまじないの神でもあります。

 そう、いま私が作ろうとしているのは、石鹸です。やってみたい転生知識チートの上位にランクインしている、あの、石鹸であります! 吉田郡山でチートジジイと会話した時に、忘れていたのを思い出したのです。

 まあ、思い出させてくれたのは源五郎兄ぃでしたがね。そう考えると、源五郎兄ぃはナイスアシストでしたよね。動機は些か不純でしたけれども。和歌ちゃんが三年も嫁に来ないという嘆きでしたしね。


 それで、出雲に戻ってきたので、石鹸作りの試作を開始したわけです。石鹸は殺菌消毒の効果があるので、少名毘古那が神をしている医薬に分類してもいいよね。実際に21世紀では、薬用石鹸なんてあったんだしさ。



「なるほど、お告げでしたか」


「うん、だから試しに作っているんだよ」


「お告げでは詳しくは教えて下さらなかったのですか?」


「久久能智神も少名毘古那からの又聞きだから、詳しくは知らなかったみたい」



 まあ、私が前世で石鹸なんて代物を作ったことがないだけなんですけどね。手作り石鹸の作り方なんて、大雑把にしか分かりません。油と灰。以上! あとは実戦あるのみです!

 でも、ナトリウムやカリウムとかの名前は色々な工業製品の成分で見聞きしますので、石鹸にも含まれている可能性が高いのであります。


 ナトリウムと言ったら塩! カリウムは知らん!


 それで、石鹸の試作のために、使い古した土鍋を犠牲にして実験しているわけです。さすがに、この鍋で雑炊は食べたくはありませんので、石鹸作り専用にしましょうかね。

 失敗が怖いのと、失敗した場合に出る廃棄物。つまり、得体の知れない石鹸の残滓の処分に困るので、最初は小さめの土鍋からのスタートであります。



「だから、色々と試してみないと分からないんだよ」


「それで、土鍋が六つも必要だったのですね」


「そういうことだね」



 ひと言に灰とはいっても、なんの灰を使ったら良いのかイマイチ分かりませんので、ここは単純な思考で行きたいと思います。元々、エゴノギとムクロジは泡立つのだから、その灰を使えば良いんじゃね? そう考えまして、エゴノギとムクロジの灰を

試しに使ってます。あと、海藻ですね。海藻にはナトリウムとカリウムが含まれているはずですしね。その、三種類の灰に油が二種類。油は馬油と荏胡麻油です。べつに、馬油や荏胡麻油じゃなくて牛の油や紫蘇油や菜種油でも良かったのですけれどね。

 簡単に手に入ったのが前者だったということです。まあ、動物性油脂と植物性油脂の二種類と考えてもらえらば良いでしょう。あー、荏胡麻と紫蘇は似たようなモノでしたね。


 それで、三種類の灰に二種類の油で土鍋が六つということです。灰といっても、使っているのは灰から取った灰汁ですよ? そういえば、濁り酒に灰を入れたら濁りの成分を灰が吸収して、清酒もどきが出来るはずでしたよね。確か赤酒とかいったかな?

 清酒の作り方なんぞは知りませんので、それは鹿之介君の息子か孫にでもお願いしましょうかね? 鹿之介の息子か孫はリアルチート経済人だったはずですので。ええ、元ニートだった私なんかお呼びではありませんとも。


 それと、海藻か海藻の灰を煮詰めるとヨウ素が取れるはずでしたっけ? エタノールで割ったらヨードチンキもどきも作れそうですよね。


 そう考えると、うはー、夢がひろがりんぐ!



「みんな、油が跳ねないように気を付けてかき回してね」


「「「「はっ!」」」」



 ちなみに、私は見ているだけです。指示は出していますけどね。まあ、当然といえば当然ですよね。なんといっても私は尼子の当主なのですから、危ない仕事は配下の者にさせるべきなのであります。私のスペア存在しないのですから。


 天上天下唯我独尊! ちょっと違った、唯一無二の存在!


 なんか格好良い響きですね。しかし、本当は組織としては、これではダメなんですけどね。代替品が使えない組織は脆弱すぎるのです。でも、組織にとって代えの利かない人間など存在しない。という言葉も存在したような気もしますがね。

 私というインチキな存在で、尼子は毛利と同盟を結ぶことが出来て一応ひと息は吐けました。でも、もし私がなにかの拍子に死んでしまったら、この後の尼子はどうなってしまうのでしょうか? その不安もあって、源五郎兄ぃと和歌姫を婚約させたのです。


 は~、大名稼業も楽ではありませんね。バカ殿様でも家が回るのは、平和になった江戸時代の話なんでしょうね。この世界で江戸時代が来るのかどうかは分かりませんけれども。

 といいますか、なんで石鹸を作ってる最中にまで、ネガティブな思考をしなければならんのだ。ムクロジの代用品である石鹸を作っているから、代用品つながりでおかしな考えが浮かんでしまったのかも知れません。


 まあ、今日は朝からボーっとしている感じがして、身体が重だるく感じるのも原因だとは思いますけど、お腹も変な感じですしね。土鍋をヘラでグルグルとかき混ぜてるのを六つ同時に見て、おかしくなってしまったとでも思っておきましょうか。


 私らしくありませんでしたね。集中しなければ!



「うん、とろみが強くなってきたね」


「おひいさま、この後はどうするのです?」


「うーん、火を落として一晩寝かせてみようか」



 土鍋を一晩冷まして余熱をとったら固まってると良いのですが。石鹸もどきは出来てそうではありますけど、はてさて結果はどうなるでしょうかね?



「明日になって固まってると良いですね」


「まあ、こればっかりは明日にならないと分かんな……いよっと、うわっ!?」


「おひいさま! どうされました!?」


「なんか垂れてきたっ!」


「垂れてきた?」



 これって、もしかして?



「うん、血だ」


「まあ! おひいさま、おめでとうございます!」


「あ、ありがとう?」



 なんで、私は疑問系で返してるのでしょうね?



「なんだなんだ?」


「どうしたどうした?」


「こら! 男連中はあっち向いとく!」


「「「「へーい!」」」」



 しかし、こうやって初潮がきてみると、やっぱり今世の私は女なのだと改めて思い知らされますよね。多少、自覚は薄いのですがね。それよりも、生理用品を用意しなくちゃ! ナプキンかタンポンを! って、そんなモノはこの時代にはなかった。

 春姉は確か布を当てていたよな? でも、やはりそれだけだと不十分な気がするから、自分で作らないとならないのか。


 コットンは綿。つまり、綿。同じだ…… そうじゃなくて、木綿、綿花が必要ということです。出雲は雲州木綿の産地として有名だけれど、まだこの時代の出雲では極々少数しか栽培されてません。

 木綿の産地は河内や和泉などの畿内なのであります。あとは、チラホラと三河で始まってるのかな? こんな少数栽培では、生理用品向けに綿を使うのは難しいではないですか!


 なんてこったい!


 うん、すまなんだ。私は羽毛布団でヌクヌクしていたので、いままで綿の重要性に気がつかなかったのであります。やることが他に多すぎて、綿の重要度は低いと後回しにしていたともいいますけれども。

 自分が同じ目に遭わないと気がつかないだなんて、私もダメダメですよね。しかし、これからは違います。大急ぎで木綿の生産量を増やしましょう。木綿は布団にも服にも使える優れものなのですから。



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