42話 三刀屋城攻略戦
永禄2年(1559年)1月 出雲 飯石郡 三刀屋城 近郊
「撃てぇーーーっ!!」
ダダーーーンッ!!
お元気ですか?
三刀屋城を攻撃中の玉です。高窪の地、屋内村で乱暴狼藉していた少数の三刀屋の兵をサクッと排除して、三刀屋城を取り囲んでいる最中なのであります。こっちは、乱暴狼藉の禁止を通達して、それを理解させるのに苦労しているというのに!
本当ならば、攻城戦は時間も掛かるし犠牲も野戦よりも増えるので面倒で嫌なのですが、三刀屋の軍勢が揃う前に速攻を仕掛けたので、三刀屋久扶は僅かな手勢で三刀屋城に籠城するしか手は残されていなかったのです。
籠城している兵は150人にも満たないでしょうから、落城は時間の問題と思われます。城攻め三倍の法則を当て嵌めますと、今回は8倍から10倍は戦力の差がありますから、余裕のよっちゃんなのであります! 私が寝ていても勝てますよね。
まあ、実際に私は非力な小娘ですから戦では役に立ちませんしね。でも、一応は私が大将ですし神輿も必要なので、こうして戦場に出張っているわけでして。
今回、私に付き従って戦に参加しているのは、国造衆と多胡爺の軍勢の約1200名のみであります。普通の場合では兵の招集には時間が掛かるのです。その点、国造衆の鉄砲隊は専属で組織化されていますので、招集に直ぐに応じられたという訳なのです。
なので、直ぐに集まった鉄砲隊300挺450人と杵築周辺で飲んだくれていた連中の尻を蹴飛ばして、三刀屋に速攻を仕掛けたのです。残りの鉄砲隊は、宍道方面からの敵に備えて半分城で待機させる予定でいます。
戦力の分散や戦力の逐次投入は愚の骨頂ともいいますけど、私に味方する軍勢が揃うのを待ってから戦を仕掛けたのでは、貴重な時間を浪費してしまいますしね。今回の戦は時間との勝負にもなりますので。
相手の軍勢が揃うのを待って戦を始める義理はないですしね。楽して戦に勝てるのならば、それに越したことはありませんから。
「黄泉比良坂、五穀豊穣、家内安全、商売繁盛、子宝安産、厄除開運、無病息災…… おひいさま、この戦場に相応しくない幟の数はなんなのですか?」
「格好良いでしょ!」
「そ、そうですね……」
むー、春姉は格好良いと思ってないみたいですね。でも、この幟、旗印にもちゃんとした意味はあるのです!
「この幟を見てしまったのならば、この幟を掲げている相手を攻撃するのを躊躇う敵も出てくると思わない?」
「なるほど。確かに罰が当たりそうな気がして、攻撃の手が緩むかも知れませんね」
「そうでしょ! そうでしょ!」
敵も、わざわざご利益がありそうな幟を掲げている相手を殺そうとするのは躊躇うはずなのですから。誰しも自ら進んで不義理をしたいとは思いませんよね? つまりこれは、玉ちゃん流のプロパガンダ。高等な心理戦なのであります!
きっと、ゲッベルスも私には脱帽するしかないでしょうね!
「でも、おひいさま。一つよろしいでしょうか?」
「んー、なにかな?」
「字を読める人の方が圧倒的に少ないのでは?」
なん…だ…と? 忘れてた…… この時代では文字を読める人間の方が少数派だったんだ! つまり、文字が読めない→意味が分からないから、攻撃の手が緩まないということなのか?
こんちくしょうめ! せっかく、一晩考えて答えを出した私の渾身のアイデアが、文盲もとい識字率の所為でおじゃんにされるとは! これは、可及的速やかに教育の普及を実施しなくてはなりませんね!
人を人たらしめる為にも、教育は必要不可欠なのであります! さすれば、会話というコミュニケーションが活用できて、短絡的な人間も減って戦も少なくなるはずですしね。うん、我ながら名案な気がしますね!
話が逸れた。いまは、それどこれじゃなくて、
「で、でも、指揮官は大抵の人が文字が読めるから、命令を躊躇するんじゃないかな?」
「本当ですかね……?」
「杵築大社の御札も貼ってあるんだし、恐らくは大丈夫だよ!」
これぞ、杵築大社の神兵計画なのであります! これで、敵も恐れをなして逃げ惑うこと請け合いですよね! 多分、恐らく、きっと、だったらいいなぁ……
「姫様、三刀屋城内に突入しますと我々の犠牲も増えますが、如何いたしましょうや?」
「敵は三刀屋だけではないのだから、時間も犠牲も掛けれないもんね。んー、大筒を5~6発撃ち込んでから、矢文を放つというのはどうかな?」
この方法は戦国の世では生温いやり方なのかも知れませんが、敵も味方も失われる命は少ないに越したことはありませんしね。みんな出雲の民なのですから。偽善っぽい感じもしますがね……
それに、まだ戦は他でもやらなければならないのですから、継戦能力の喪失を極力は避けなければいけません。
「なるほど、大筒で脅して敵の戦意を挫いて降伏を促すのですな。それで、三刀屋久扶の処遇は如何いたしますか?」
「切腹と言いたいところだけども、多胡爺はどう思う?」
「城兵に三刀屋の首を届けさせるのも、一つの手ではありまするな」
なるほど、自分の手をなるべく汚さずに済むのなら、それに越したことはないもんね。恨まれるのは裏切った城兵という訳ですしね。うむ、汚い手だけれども有効みたいですね。多胡爺の案を試してみますか!
人はこうやって、心に柵を作って平穏を保たなければやっていけないのかも知れません……
「うん。城兵に三刀屋久扶の首を持ってきたなら助命すると書いて、矢文を送ってみましょうか」
「それがよろしいかと存じます」
ドーン! ドドーンッ!
「大筒、撃ち方やめ!」
いやー、大筒って城攻めに便利だわー。遠く離れた安全圏からアウトレンジで撃てるんですもん。まあ、玉である花火を作るのが手間ですので、現段階ではそんなに無茶撃ちできないのが難点といえば難点なのですが。
ですが、大筒花火が量産化出来れば戦の形態はガラリと変わりそうですね。
「姫様、これからの戦は鉄砲と大筒で変わりまするな」
「そうだね。玉薬を数多く揃えれる大名が、のし上がってくる時代になると思うよ」
「源平の時代からの戦のやり方が通用しなくなりますな。それが少し寂しく思えるのも、某が歳をとったということですかの」
あちゃー、多胡爺がノスタルジーに黄昏ちゃいましたよ。まあ、気持ちは分からないでもないですけどね。人は誰でも、自分が輝いていた時代を懐かしむと思いますしね……
「矢文を放て!」
ヒュッ
「おひいさま、上手く行きますかね?」
「うーん、こればかりはなんとも言えないかな」
実際、『殿の首を差し出せだと? ふざけんなごらぁ!』とまあ、こんな感じで最後の一兵まで徹底抗戦される可能性もあるのですから。
「あ、おひいさま! 槍に白い布で包んだ…… 首ですよね?」
「白い布が赤く滲んでいるから、間違いなく首だろうね……」
うーん…… 私が、そうなるように仕向けたとはいっても、なんかモヤっとしてしまいますね。結局のところ、私は戦が嫌いだから馴染めないということなのかも知れませんね。まあ、早く馴染んでしまった方が心のバランスには良いのかも知れないけど。
でも、それはそれで私という人間が変わるようで怖いんですけどね。べつに私は、確固としたポリシーとかアイデンティティを持ち合わせてなどいませんけどさ。主義は頭を固くし視野を狭めるのですから。ノホホンが一番だと思いますね。
「三刀屋久扶の首にございます。ご検分下さい」
「ご苦労!」
うん、生首って目の前で見ると想像以上にグロいわ…… 無念そうな顔をしているね。夢に出てこないか心配になりますよね。でも、父上も無念だったのでしょうし、この騒動で三刀屋は私の敵になったのですから、三刀屋久扶には同情しません。
「多胡爺、三刀屋久扶で間違いない?」
「間違いなく、三刀屋久扶でございまする」
「ん、分かった。三刀屋城の城兵の命は保障します。武将、足軽兵卒で戦働きをしたい者は、私の軍勢に加わってもいいわよ」
「ははっ!」
「ただし、我が軍では基本的に乱暴狼藉は禁止ですので、覚えておいてちょうだい」
まあ、そのうち例外は出てくるはずですけどね。なんでもかんでも、杓子定規にすればいいモノでもないしね。厳格に適用して戦に負けたなら意味ないですもんね。そういうことか…… 恐らく朝倉宗滴が言いたかったことは、こういうことだったのかな?
「と、申されますと?」
「三刀屋の少数の兵が屋内村で暴れたけど、私の兵は三刀屋の村を荒らしてないでしょ? 貴方の家も無事なはずだよ」
「それは姫様のご配慮に感謝いたします」
「敵味方になったとしても、同じ出雲の民だし尼子の民なんです。戦が終われば、こうして貴方も味方になるのに、その人の家を燃やしてどうするの? つまり、そういうことです」
「ははーっ! 姫様の仰せごもっともと存じ奉ります」
うむうむ、よきかなよきかな。私は、また一人の迷える子羊を愛の伝道者に導いてしまったようですね。まあ、冗談はさておき、こんなクソッタレな世の中ですが、時には寛容さも必要ということです。
行き過ぎた寛容さは不健全だとは思いますけどね。それは偽善を通り越して害悪だと思いますね。
っと、そうじゃなくて、
「そんなに畏まらなくてもいいわよ。貴方、名前は?」
「諏訪部上野介忠扶と申します」
諏訪部って、確か三刀屋の元の名字じゃなかったっけ? ということは……?
「もしかして、三刀屋久扶の……」
「はっ! 某は弟になりまする」
なんってこったい! ここでも兄弟が骨肉相食む破目になっていたのか! 恐るべしかな戦国の世……
誰か、げんのしょうこ下さい……




