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41話 色分けをしよう

 永禄2年(1559年)1月 出雲 杵築大社



「まずは、敵と味方と傍観者に色分けるわよ。国造衆と多胡爺の家は当たり前として、あと私に付きそうな連中は誰だか分かる?」



 私はいま出雲周辺の地図を広げているのです。この地図に墨と朱色と藍色で凸マークを書き込んで、敵味方中立を表示させるのであります。視覚的にすれば理解しやすいですしね。



「左様ですな、国造衆以外の社家である秋上や朝山も姫様に付くでしょうな」



 まあ、神職の家は杵築大社の巫女である私と敵対はしにくいでしょうしね。でも、



「日御碕は敵になるか傍観を決め込むでしょうね」


「日御碕は杵築大社と仲が悪うございますからの。傍観して貰えれば御の字かと存じます」


「鰐淵寺の僧兵はどうかしら?」



 私としては、これからの事もあるので、鰐淵寺は味方になるよりも敵対してくれた方が、ついでに潰せるから都合が良いのだけれどね。おまけに、アイツらは毛利が出雲に侵攻して来たら率先して協力していた歴史があったはずでしたしね。

 まあ、それも前世でのことなんだけどさ。それに、鰐淵寺は杵築大社の神宮寺でもあるから、私の側に立つか最低でも中立なんだろうね。


 でも、僧兵は国内統治の妨げになるんだよなぁ。私のコントロールが効かない僧兵を保有する寺は、いつかは潰したい相手でもあるのです。生臭坊主でも中には気の良い連中も多いので、多少は心も痛みますがね。

 まあ、神兵を率いている私が言えた義理ではありませんでしたね。神兵って響きは、まさしく神の兵って感じがして格好良いですよね! うん、このアイデアは行けるかも知れませんね。


 でも、その前に兄の義久に勝たないことには、捕らぬ狸のなんとやらの話になるのか。



「味方か中立でしょうな」


「国人衆はどうかしら?」


「三刀屋と三沢は敵になりそうですな」


「あー、黒石と鉄が欲しいってわけね。父上が三刀屋と三沢から没収した領地を、兄の義久が返す約束でもして味方に引き込んだということか」



 黒石とは石炭のことです。三刀屋の直ぐ北側の高窪で石炭が産出するのです。この高窪の地は私が父上から分捕った、私の数少ない領地でもあります。あとの領地は菱根村と遥堪村だけであります。ですから、兄の義久も簡単に空手形を切ったのでしょうね。

 私鋳銭と鉄砲の製造に石炭は欠かせない材料になっているのです。製鉄用にも少々の石炭を薪とブレンドさせて使ってますし、冬の暖房に使う為にも出回り始めているのです。暖房は一酸化炭素中毒が少し怖かったですけれども。

 つまり、石炭は私の懐を潤してくれている貴重な財源なのであります。


 三刀屋は石炭に目が眩んで、三沢は砂鉄に目が眩みましたか…… まあ、元々が二人の領地だったので、自分たちのモノだという意識が強いのでしょうね。人は与えられた恩よりも、奪われた恨みを引きずる生き物らしいですしね。

 だがしかし、高窪の石炭は私が見つけたのだから、私のモノだ! 三刀屋には返さん!



「左様ですな」


「赤穴殿は?」


「赤穴殿は姫様のおかげで領地も広がり、丁城も任されておりますので姫様の与党ですぞ」



 情けは人の為ならず、巡り巡って自分の為ということでしたか。恩を売っておくのも悪くないということですよね!



「赤穴殿が味方なら心強いわね。湯殿もこちら側だよね?」


「某の婿殿でもございますから、恐らくは大丈夫でしょう」



 多胡爺の娘が、湯永綱に嫁いでいるのです。春姉の叔母に当たりますね。それで、一昨年に生まれた息子の十郎が史実では恐らく、亀井茲矩となった人物だと思いますけど、この世界では亀井を名乗ることになるのかは微妙ですよね。

 私が歴史を大きく変えてしまいましたものですので。それにしても、長男なのに十郎って…… まあ、長男なのに次郎三郎とか次男なのに三郎四郎とか、この時代には色々と変な幼名がありはしますけどね。



「あとの出雲国衆と重臣や直臣の動向は分かるかしら?」


「亀井殿と津森殿は姫様の手腕を買っていますので、お味方になってくれるものかと。中井殿と佐世殿は微妙ですな」


「牛尾、宇山、立原、川副とかは?」


「鰐走城の牛尾久清殿とは、某が昵懇の間柄ですので説得すれば乗ってくるはずですが、牛尾宗家の牛尾幸清、久信親子は分かりませぬ。宇山、立原、川副の三氏は義久様の廃嫡に反対しましたので敵ですな」



 ぬわーんですと!? 月山富田城の籠城戦では私財を投げ売ってまでして、兵糧を買い込んで尼子に最後まで尽くしたのに、最後は讒言によって義久に殺される忠臣の宇山久兼と、多分だけれども尼子の名軍師のはずである立原久綱が敵ですと!?



「本田殿も兄の守り役だから敵だよね」


「それが、本田殿は義久様を諌めようとしてお手討ちになり申した」



 なにやってんだ、あの馬鹿兄貴は! 自分の守り役をお手討ちにするだなんて、本当に錯乱したんじゃないのか? キチガイに刃物とは良く言ったものですよね。本田殿は敵であったとしても、その後の出雲には必要な人材だったのに!

 もしかして、今回の件には毛利は直接の関係はなくて、馬鹿が勝手に暴走しただけなのかも知れませんね…… まあ、私が毛利元就の名前にビビって、必要以上の評価をしてしまっている可能性も否定できませんしね。疑心暗鬼は敵の思うつぼなのにね。


 毛利元就が孔明で私が仲達? 私は頑張っても李典か于禁クラスが精々でしょうかね? うん、地味な武将ですね。阿斗ちゃんでは、断じてない!



「……惜しい人を亡くしたわね」


「左様でございますな」


「それで、出雲以外はどんな感じかな?」



 そう、問題は出雲だけではないのです。石見、伯耆、備中、美作の家臣と国人勢力が、私か兄のどちらに付くかも問題なのですから。



「石見は本城殿に横道殿や温泉殿も姫様で大丈夫だと思われます。小笠原殿も最低でも好意的な中立は保ってくれるでしょうが、問題は、」


「石見以外の伯耆や美作の連中ってことね」


「御意。美作と備中は川副や宇山の色が強すぎますので、下手をしたら全て敵に回るやも知れませぬ」



 国人領主である、三浦、江見、新見、庄とかはもちろん、尼子譜代で美作と備中に領地を持っている大西、森脇、神西とかもか…… そういえば、津森殿の領地も美作だけど私に付いて大丈夫なんでしょうかね?



「伯耆はどうなの?」


「伯耆旗頭の牛尾久信殿次第かと存じます」



 この尼子の御家騒動のどさくさに紛れて、南条が尼子から独立しようと画策して羽衣石城を取り戻そうと動く可能性が高い気がしますね。史実でも南条は国人領主から小さいながらも、したたかに大名に脱皮しましたからね。


 しかし、こうして見ると見事なまでに形勢は私にとって不利な状況ですね…… 現状で尼子十旗の中で、私に味方をするのが確実なのが赤穴殿の一旗だけとは、なんとかを通り越して笑えてすらきますね。

 まあ、明確に私の敵と認識できる尼子十旗も、三刀屋、三沢、大西、神西の四旗だけみたいですが。大西は息子が義久の近習を勤めているから敵確定だけど、神西は? いや、それよりも他の未確定の十旗の中で味方に取り込めそうな者は誰だ?



「多胡爺。尼子十旗のうち、赤穴殿以外で味方にできそうなのは、牛尾、熊野、米原かしら? 松田は無理そうだよね」


「熊野は熊野本宮の系譜の家ですので、敵になることは無さそうですが微妙ですな。それよりも、米原殿は御屋形様に引き上げてもらった者ですので、義久様には隔意を持ったと思われますな」



 そういえば、米原殿は父上の寵臣の一人だったはずでしたね。寵臣なんていうと、アーッ!のイメージしか湧かないのですけど、それはそれとして、



「おーけー、米原殿を味方に引きずり込むよ!」


「おーけー? なんですかその言葉は?」


「良しとか、いいよって意味だよ!」



 アーッ!を想像してしまって、思わず、おーけーなんて言葉がポロっと出てしまったではないか。べつに、アーッ!が良しって意味ではありませんよ? ここ重要ですからね!



「は、はぁ…… それと、松田殿は姫様の義理の伯父にも当たりますから、敵対まではしないはずでは?」


「兄にとっても義理の伯父なんだけどね。甥姪の争いなのだから、どっちつかずで傍観してくれるとありがたいわね」



 本当は希望的観測を基にした戦力評価、色分けは拙いのですがね。でも、ここまでの評価も多分に漏れず、既に希望的観測が含まれているのがなんともはや……


 これまでに色分けした結果はといいますと、味方が、国造衆、多胡、出雲社家、赤穴、亀井、津森、湯、石見勢とかで、敵は、三刀屋、三沢、宇山、立原、川副、大西、森脇、備中勢、美作勢とかですかね。

 中立の可能性があるのが、中井、佐世、松田、牛尾、馬来、熊野、平野、古志とかでしょうか?


 ふむ……


 よしっ! 決めた!



「父上の弔い合戦に参じない者は不忠者であり、これすなわち恩を仇で返す敵とみなす! こう書いた檄文を送りましょうかね」


「それは良い案ですな」



 不忠者とか恩を仇で返すヤツとか言われてまで、厚顔無恥でいられる人間は少ないはずですので、この檄文は多少の効果は期待できそうですよね。まあ、それでも厚顔無恥でいられる人間の方が遥かにしたたかで、乱世では生き残れるのかも知れませんが。



「ただし、傍観しそうな連中には、敵にならなければ危害は加えないから傍観したければ、それで良しとも伝えてちょうだい」


「よろしいので? 敵を攻めてる最中に後ろから刺されるやも知れませんぞ?」


「だからといって、中立勢力を全て敵に回すことの方が愚の骨頂だよ。敵は絞らなければ何度となく戦をする破目になるわよ」


「それもそうでございますな」



 まあ、後ろから襲い掛かって来るならば憂いなく叩き潰せるから、手間が省ける気がしないでもないのですがね。






「さあ! 先ずは泥棒猫の三刀屋を血祭りに上げるわよ!」


「御意!」



 私の財布に手を突っ込むなんて暴挙を見過ごす訳にはいきませんからね!



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