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37話 歴史の授業と春姉と天下


 西暦20XX年 日本 某所 某中学校



「……であるからして、玉姫と侍女であった多胡春。この人は、立春尼とか吹上殿の名前の方が有名ですね。その吹上殿と玉姫の二人三脚での国盗り物語の最初の一ページが、本当の意味で始まったのは永禄元年の9月に石見銀山付近で行われた毛利との合戦。

通称、忍原崩れと言われる合戦が最初であった可能性が、極めて高いのであります」


「なんだかこの頃の毛利と尼子ってしょっちゅう戦してない?」


「それだけ石見銀山が重要視されていたんだろ?」


「せんせー! なんで極めて高いって分かるんですかー?」


「吹上殿の日記である、東風日記に書かれているのです。別名では、玉姫観察日記とも呼ばれている日記です。この東風日記の名前は歴史好きな子は知っているとは思いますけど、戦国時代の歴史を紐解くのには欠かせない第一級の歴史資料でもあります。

この日記は数十冊現存していて多胡家記念館に保存されており、そして国宝にも指定されています」


「日記が国宝だなんて凄いね! 私も日記書こうかなー?」


「おまえの日記なんて、自分が大人になってから見返してみて、恥ずかしくて死にそうになるのが落ちだろーが」


「言えてる! 言えてる!」


「あんだと!? マットに簀巻きにすっぞごらぁ!」


「でも、国宝に指定されるだけの価値が、その玉姫観察日記にはあったということだよね」


「その通りだね。この東風日記は、代々多胡家に保存されていたのを歴史学者が調べて世に出たのですが、その再発見された50年以上前には、それまでの歴史を裏付けるモノがある一方で、定説とされていた歴史がひっくり返されるモノも多数あったようです。

ですので、定説が否定された当時の歴史学会は上を下への大騒ぎになったようですね」


「俺、その写し見たことあるよ! ○月×日、出雲杵築大社、晴れ。今日の玉ちゃん。こんな感じで出だしが始まる日記だったよ」


「なにそれ? 現代の小学生低学年の夏休みの日記と同じじゃないのよ」


「いえてるー!」


「たしかに、別名の玉姫観察日記とは言い得て妙だね」


「タマちゃんなんて、猫の観察日記みたい」


「ちょーウケるんですけどー!」


「いえてるー!」



 キーンコーンカーンコーン



「はーい! 今日はここまでー! お前ら明日から連休だからといって、遊んでばかりじゃなくて宿題もちゃんとやれよー!」


「「「「「はーい!」」」」」


「うへー、宿題いやー!」











 永禄元年(1558年)9月下旬 石見 邇摩郡 忍原村



「おひいさま、天下を目指しませんか?」


「ぶほっ!」



 いま春姉は、なんて言った? 天下と言ったよな? 私の予想を遥かに超えて、一足飛びに天下まで行っちゃいましたか……



「ててて、天下ぁーーーっ!?」


「はい。天下です」



 このイカレポンチめ! 天下などと眠たいことを言ってると女郎屋に売り飛ばすぞ!


 まあ、売り飛ばすのは嘘なんですけどね! 春姉が居ないと私が困りますしね!



「天下など、ただの巫女である私の手には余る代物だよ!」


「おひいさまは、事あるごとに日の本六十余州天下統一、日の本六十余州天下統一って念仏のように仰っていたではありませんか」



 そんなにも私は、日の本六十余州、天下統一って連呼していたかな? 春姉がそう言っているのならば、私には自覚はありませんが言っていたのかも知れませんね。あー、でも、寝床でゴロゴロしながらブツブツと言ってたかも知れないわ……



「でも、春姉は天下なんて簡単に言うけど、私は尼子の頭領でもなんでもないんだよ? 当主は父上で、その次は兄上なんだから。私はお呼びではないですよ」


「おひいさま、大一大万大吉ですよ!」



 コイツ知ったばかりの単語を言いたいだけなんと違うのか? まあ、確かに良い言葉ではあるけどさ。



「はいはい、大一大万大吉。大一大万大吉」


「むー、心がこもってませんよ」



 心を込めてませんから当たり前ですよ。



「日の本六十余州すべからく同じ言葉を話し、同じ朝廷の天子様を敬い、武家は朝廷の下賜する官位に群がる。これ即ち日の本六十余州は同じ国である!」



 同じ言葉といっても、『だべうんだべずーずーんだんだけろ』の奥州と、『よかたいよかばいじゃっどんごわすごわはんど』の九州では、筆談は必須だと思いますがね。教養のある人間ならば一応の会話は可能だとは思いますけど。

 あ-、でも、前世では熊本出身の人が無理に標準語を喋ろうとしたら、東北弁に聞こえた気もするから、意外と案ずるより産むが易しで通じるのかも知れませんね。一応は同じ日本語で同じ日本人だもんね。


 天下を統一した秀吉と家康も、地方の大名との会話で齟齬をきたしたなんて記録はなかったはずだしね。ある程度以上の意思疎通はできたのでしょうね。それに、武家なんて元を辿れば大部分が源平藤原とかに行き着いてしまいますしね。捏造も多いけどさ。



「その気宇壮大な言葉は誰が言った言葉なの?」


「なに言ってるんですか? おひいさまに決まってるじゃありませんか!」



 な、なんだってーーーっ!! いつそんな大言壮語を吐いたんだ? 吐いたんだろうね……



「私でしたか……」


「はい! おひいさまの言葉には、まだ続きがありますよ。聞きたいですか?」


「結構です」


「分かりました。では、」



 そっちの結構じゃねぇよ! いらない方の結構だよ! なにその消防署の方から来ましたみたいな消火器の押し売りのような感じは? 日本語って難しいですよね。私と春姉でこのざまなら、奥州と九州での会話は無理かもね……



「……同じ日の本の民同士で戦を続けるのは愚の骨頂である! この同胞同士の戦を内戦と呼ぼう。田畑は荒れ民は飢え嘆き悲しみ死んでいくのだ。とても悲しいことだ…… そして、九州では硝石の為に民が奴隷として南蛮に売り飛ばされていると聞く!

これが正道であるというのか? 否! 断じて否である! この内戦をしている余裕は既に日の本には無いのだ! しからば、日の本の天下は神に選ばれた、この尼子玉によって統一されねばならぬのである! ……以上です。おひいさま格好良かったですよ!」



 なんですか、その学生運動に被れたダメ学生みたいな情熱は? そうか、これが春姉に指摘された自己陶酔して吐いた言葉なのか。布団に包まって不貞寝したい心境ですね。あぁ、でも、今夜は思い出して相当に寝つきが悪そうな夜になりそうですね……

 なんだか色々と危険な香りが綯い交ぜになった危ない独演会の台詞でしたね。なにこの思春期特有の病気をアクセル全開にして暴走したのは? 本当に私が言った台詞なのか? 言ったんだろうね……


 うがー!



「確かに私が言った言葉みたいなんだけどさ。言うは易く行うは難しの典型で、多分、一番難易度が高いのが天下を統一することだと思うよ」



 言うだけなら簡単なんですよね。無責任に言うだけならタダなんだからさ。



「今日の戦で使った種子島があるじゃないですか! あれだけ短い時間でバタバタと敵を倒せたのですから、これからの戦でもきっと大丈夫ですよ! おひいさまなら天下を狙えますってば!」



 あちゃー、鉄砲の威力を間近で見てしまって、春姉にヘンなスイッチが入っちゃったみたいですね。そりゃ確かに鉄砲は強力な武器ではあるけど、どちらかというと鉄砲は攻撃よりも拠点防衛に威力を発揮する気がするんだよなぁ。

 天下を目指すということは、すなわち敵国を侵略して屈服させなければ天下は取れないということですから、鉄砲の良さが半減してしまう気がするのだけどね。野戦よりも籠城戦での守備側の鉄砲が最強だと思いますので。今日、実際に証明されましたしね。


 でも、そんなことよりも、



「さっきも言ったけど、尼子の当主は父上だよ。父上を差し置いて私が出しゃばれば、また謹慎を喰らうのが落ちでしょうが」


「そのことならば、某にお任せ下さい」


「お爺様!」



 相変わらず、多胡爺の気配を消しての無音接近は半端ないですね。このオッサン忍びの技も使えるんじゃないですかね? 多胡家はバクチ打ちの家系ではなくて、忍びの家系が正解なんじゃないの?



「多胡爺、辺りの見回りは済んだの? というか、どこから聞いていたの?」


「孫娘が姫様に、天下を目指しませんかと焚き付けたところからですな」



 最初から全部ではありませんか! 近くに居たことすら感じさせないだなんて、多胡爺は忍びで確定ですね!


 10年以上は放浪していたみたいだしね!



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