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21話 玉姫と小早川隆景1


 永禄元年(1558年)閏6月 石見 邑智郡 川本村



「おほほほほ、徳寿殿はお世辞がお上手になられた様子で」


「えっ!? なぜ某の幼名を?」



 ちょっ!? 私は喋ってないぞ? いや、喋ってるけど、私の意志で喋ってないという訳でして! 誰かに身体を乗っ取られてる!? こんな時に神降ろしにならなくてもいいのに!

 これは、アレか? 普段の私が信仰心の足らない、いい加減な巫女だから制御できずに神様が勝手に暴走しているとかなのか? 老け顔の婆さんって言ったのは謝るから!


 鎮まれ! 鎮まれ私のセブンセンシズよ!


 たかあまはらにかむづまります~ すめらがむつかむろぎかむろみのみこともちてやほよろづのかみたちを~ かむつどへにつどへたまひ~






 ふう、なんとか納まったみたいね。もう勝手に喋んないでよね!



『ごめんなさいね。久し振りに大きくなった息子を見たら嬉しくてね。これからは見守るだけにしとくわ。たぶん』



 最後の、多分が気になるけど、取り敢えずは良しとしますか。



「はて? 毛利は安芸一番の国人領主でしたので、昔から尼子が探りを入れているのも当然の事かと。毛利も尼子の内情を探ってはいるでしょ?」


「うーむ、某の幼名程度は知っていて当然でしたか」



 よし! これで上手いこと誤魔化せたね!


 ここから、私のターンでジャブを連打して行くよー! 覚悟しろよ小早川隆景! 金吾中納言にしてやんよ!



「昔より 欲を飲み込む 佐摩なれば むくいを待てや もりの右馬みぎうま


「それはもしかして、刺賀長信殿の辞世の句ですかな?」


「ええ、そうね。誰かの口車に乗せられて山吹城に登ったはいいけど、降りる梯子を外されて転がされてしまった憐れな男の歌よ」



 まあ、嘘なんですけどね。辞世の句は私がパロったのですから。具体的に言うと、尾張知多のどこかで自害した次男なのに三男にされた可哀想な人物から借用させてもらいました。



「それはそれは、ずいぶんと酷い事をする人も居たものですね。おいたわしや」


「おほほほほ、末法の世なれば騙される方が悪いのかも知れませんね。お気の毒だとは思いますが」


「左様ですな」



 どの口が言いますかね? 刺賀長信が聞いてたら、おまえが言うなって怒るぞ。まあ、これぐらい厚顔無恥でないと戦国大名なんて勤まらないのかも知れませんけれども。世知辛い時代ですよねー。



「それと、似たような歌で、こんな歌も聞いたことがありますね」


「ほう、お聞かせ頂けますかな?」


「田植え舟 うつ伏せに寝て うへたるも 誰も真似せず とんびがわらふ」


「うむむ……」


「姫様、それは姫様の失敗の歌ですぞ?」



 間違えた!



「多胡爺が黙っていれば、小早川殿には分かんなかったでしょ!」


「申し訳ございませぬ。某、どうしても指摘をせずにはおれませなんだ」



 まだ、さっきの神降ろしの混乱からは、ちゃんと立ち直ってなかったみたいですね。といいますか、多胡爺が黙っていてくれたなら、小早川隆景は「うむむ……」なんて唸っているんだし、勝手に深読みしてくれたのに!



「ごほんっ、失礼しました。小早川殿に於かれましては、いまの歌は忘れて下さいな」


「は、はぁ……」



 恥ずかしすぎて、今夜はしばらく寝れそうにもないでしょうね。思い出し精神攻撃を受けて寝床をゴロゴロとのたうちまわって、あうあうあーと叫んでいる姿が目に浮かびます。

 豆腐メンタルの私にとっては辛い夜になりそうですね……



「では、仕切り直して…… 古来より 揚羽あがう叶わぬ 壇ノ浦 むくいを受けよ 毛利陸奥右馬もうりむつうま


「うーむ…… 揚羽、贖う、贖い叶わぬ壇ノ浦ですか……?」



 揚羽を『贖う』と直ぐに連想できるのですから、さすがは小早川隆景だね。



あるじ揚羽あげう 壇ノ浦でもいいわね。ちゃんと松次郎殿に伝えりゃ!」


「はひっ!」



 おろ? 人間って正座しながら、飛び上がることが可能なんですね。一つ賢くなれました。って、そうじゃなくて、どうもさっきも神降ろし以降、私の記憶が混乱気味になってますね。



「なるほどのぉ。揚羽が平家の揚羽蝶ですか。平家は許してもらえなくて滅びましたからの。その平家を討った源氏も頼朝公の系譜は直ぐに滅びましたな」



 小早川殿の正座ジャンプという超常現象を目の前にして、多胡爺が冷静に歌を分析しているのがシュールなんですけど。



「大江も報いを受けているわね」


「姫様、毛利だけではなく、某の多胡の家も大江の傍流なのですが……」


「そうなの? それは知らなかったわ」



 そういえば、多胡の家紋は一文字三つ星を二つ併せたモノだったか。まあ、取り敢えず多胡爺はスルーしときましょうかね。いまは毛利との交渉の場なのですから。



「それよりも、小早川殿」


「はひっ!」



 またかよ。



「落ち着いて下さい。使者の小早川殿が醜態を見せれば、毛利が侮れらますよ?」


「し、失礼つかまつった」


「それで、毛利は何がしたいのかしら? ああ、この和議の話ではなくてね。和議は戦前の現状回復ならば受けますから」



 今回は見逃してやんよ! といいますか、お願いですからさっさと安芸に帰って下さいませ。



「それはありがたきことで」


「なにがしたいとは、周防や長門を侵略して主家を滅ぼした話ね」



 さーて、ジワジワねっちょりツンツン行きますよ。



「それは……」


「百歩譲って、陶を討ったことは謀反人を討ったと言い訳はできるでしょう。ですが! 大内まで滅ぼしたこと、それのどこに大義があるや否やお聞かせ願いたい」


「それは、大内家の家臣の要請により、大友の傀儡から大内を取り戻す為でござる」


「詭弁にしては弱いわね。でもまあ、それぐらいしか名目が立たないのでしょうけれども」


「詭弁とは失礼な!」



 小早川隆景も、まだまだ青いですね。まあ、数えで26歳ぐらいだから、まだ経験不足かな? しばらくずっと玉ちゃんのターンなのであります!



「黙りゃ! いいですか徳寿殿、毛利は大内の被官の立場です。その立場を忘れて主家を滅ぼし、代わりの傀儡すらも立てずにいて、大内を取り戻すなどと片腹痛いわ!」


「ぐっ……」


「大内を滅ぼし、その次は尼子を滅ぼしますか?」


「滅相もないことで」


「主家殺しの毛利には、かつて主家であった尼子を滅ぼすことなど、躊躇いもしない造作もないことなのでしょうね。いまさら取り繕う必要がない家は、気楽そうで良いわね」



 そうなのです。毛利の突き進んでいる道は茨の道なのですから。六道で言うのなら、修羅道辺りになるのかな?



「こちらが下手に出ているのを良いことに、口がすぎまするぞ!」


「あら? 全部が本当のことじゃないのよ。それにね、徳寿殿」


「な、なんでしょうか?」


「人間ってね、本当のことを言われる、図星を差されると怒る生き物なのよ。的を射ていない言葉には、どんな暴言であっても怒りは沸かないものなの。『たわけたことを』そう、馬鹿にして終わりでしょ?」



 心理カウンセラーの資格保持者なめたらいかんぜよ!


 まあ、私は持ってませんがね。



こんな感じに纏めてみました。誤魔化したともいう……

一応、玉さんはフェードアウトしました。

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