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第44話 巨神崩壊



 空が、不気味な黄金色に染まっていた。

 夕焼けではない。それは、何万年もの間、地の底で眠っていた神への怒りが呼び覚まされた輝きだった。


「主、来ます。西の地平線より、高密度の魔力反応。物理法則を無視した、超長距離の重力砲です」


 セレーナの声が、俺の脳内に直接響く。俺は屋敷の屋上から、その光の線を眺めていた。来たか、マモン。古代兵器を発見して連れて来たのなら返り討ちにしてやろう。


「リアム様、巨神の準備は万端ですわ。エレナたちも、既に魔力燃料としての接続を終えています。あんな遠くからの攻撃、巨神の盾で跳ね返して、マモンの顔面を焼いてやりましょう!」


 アリシアが余裕の笑みを浮かべて俺の隣に立つ。

 それはいいのだが、俺の真理の速読は、見たこともない警告のノイズを激しく鳴らしていた。

 なんだろうか、この警告は?


「いや、アリシア。少し様子が違うな。あれはただの魔力砲じゃない。危険な出力だぞ」


「え? 危険ですか? どういうことですの?」


「マモンの強欲が予想以上に略奪を進めたということだ。来るぞ!」


 ズドォォォォォォォォン!!

 世界が震えた。地平線から放たれた黄金の光柱が、王都の中央に立つアバター・リアムへと真っ直ぐに突き刺さった。


「王女たち、最大展開だ! 障壁で防げ!」


 俺の声に応じて、巨神の周囲に虹色の盾が何重にも重なる。

 エレナ、クラリス、フィオナ。三人の王女たちの魔力が火花を散らし、巨神の装甲が黄金の光を弾き返そうとする。

 予定なら防御できたはずなのに、


「なっ!? 防壁が、溶けていく!? 私たちの魔力が、逆に奪われているんですの!?」


 巨神の内部から、エレナの悲鳴のような通信が入る。


「主、いけません! あれは古代兵器で神殺しの鉄槌の真の姿。対象の存在理由を略奪し、自分の力に変える機能を持っています!」


 セレーナが叫ぶのと同時だった。

 無敵を誇った巨神の右腕が、黄金の光に飲み込まれ、粒子となって崩壊していく。


「バカな! 俺の巨神が、負けるだと!?」


 衝撃が走る。黄金の光が巨神の核であるコアを貫き、王都を揺るがす大爆発が起きた。

 俺たちの象徴であった巨神は、その上半身を粉々に砕かれ、膝を突くようにして沈黙した。


「リアム様!! 巨神が、アバターが死んだ!!」


「ちっ、王女たちは無事か!」


「は、はい。緊急脱出で、全員館へ転送しました。ですが、巨神は完全に沈黙。修復には、膨大な時間と資源が必要です」


 セレーナの報告に、俺は衝撃を受けた。マモンめ。黄昏の遺跡から、俺の虚無を無効化し倒すための特効薬を見つけ出したか。


「はははは! 見たか、リアム・ド・グラナード! 略奪こそがこの世の真理だ!」


 王都の空に、マモンの巨大な幻影が浮かび上がる。


「巨神という盾を失ったお前に、何ができる? さあ、次は王都ごと、お前の命を私のコレクションに加えさせてもらおう! 絶望に震えながら待っているがいい!」


 マモンの幻影が消え、王都には重苦しい静けさと、半壊した巨神の無残な姿だけが残された。

 館の広間へ戻ると、そこにはボロボロになった王女たちが膝をついていた。


「申し訳ありません、リアム様。私が、もっと魔力を出せていれば」


 フィオナが涙を流しながら床を叩く。


「いいえ、私の祈りが足りなかったのです。あのような邪悪な光に、リアム様の宝物を壊させるなんて」


 クラリスも、その聖なる顔を絶望で歪ませている。


「お前ら、顔を上げろ。巨神は死んだ。だが、俺はまだ生きている」


 俺はゆっくりと腰の剣を引き抜いた。

 重厚な鋼の輝き。巨神に頼りすぎていたのは、俺自身も同じだったかもしれない。


「リアム様、まさか、生身で戦うおつもりですか? あんな、理不尽な力を持つマモンと」


 アリシアが心配そうに俺の服の袖を掴む。


「アリシア、忘れたのか。俺は、この世界のすべてを把握できるのだ。巨神が壊れたなら、次は俺自身の腕で、あの守銭奴を切り刻むまでだ」


「ですが、主。マモンの略奪結界は、近づく者の魔力を根こそぎ奪います。剣の間合いに入る前に、干からびてしまいます」


 セレーナの指摘は正しい。マモンは臆病で強欲だ。近づくことすら許さない防御を敷いているのはゲーム原作でもそうだった。

 だから多くのゲームプレイヤーには厄介だった。

 だからこそ、原作の知識が必要なんだ。俺は記憶の海に潜る。マモンの略奪の能力。原作では勇者カイルが、ある特殊な剣技でその結界の隙間を突いたはずだったな。魔力を使わず、純粋な摩擦と熱エネルギーだけで結界を焼く技だったか。だったらカイルは使えるか。


「カイル、そこへ来てくれ」


 隅っこでパンの耳を握りしめて震えていたカイルを、俺は呼び寄せた。


「ひっ! な、なんだよリアム。君の無敵の人形が壊されたからって、僕にあたらないでくれよ」


「お前の聖剣の流派にあるはずだ。魔力を一切まとわず、音速を超える抜刀によって生じる真空の刃。あれの極意を教えてくれ」


「え? 天墜のこと? 無理だよ、あれは神の加護がないと、腕がバラバラになっちゃうんだ」


「俺ならできる。いいから、その筋肉の動かし方を見せろ。真理の速読で、一瞬でコピーしてやる」


 数時間後。俺は館の裏庭で、一人剣を構えていた。


「リアム様、本当に大丈夫なのですか? その、魔力を使わないなんて」


 エレナがおずおずとタオルを持って見守っている。


「エレナ。お前たちは、巨神の修復に全力を出せ。マモンから奪い返した魔力を、少しずつ核のコアに戻すんだ。マモンが油断している今こそ、俺が直接奴の喉を噛み切りに行く」


「閣下。私も、影からお供します」


 セレーナが準備を整える。


「いや。セレーナ、お前はアリシアと一緒に、王都に送り込まれてくるマモンの略奪兵を掃除しろ。俺のいない間、この街を守れるのはお前たちだけだ」


「承知しました。必ずや勝利を」


「ああ。マモンに教えてやる。略奪できるのは、形ある物だけだ。俺が持つ未来の知識と不屈の意思まで奪えると思うなよ」


 俺は一陣の風となり、王都を飛び出した。

 目指すは、西の果て。マモンがほくそ笑んでいる黄昏の遺跡だ。

 巨神を失った絶望の夜になった。

 悲しいが、俺の胸の中では、これまで以上に熱い悪役としての闘志が燃え上がっていた。

 待っていろ、マモン。お前のコレクションすべてを、俺が略奪し返してやる。

 俺の剣が紫黒色の火花を散らした。

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