再びの邂逅
卒業式の後には卒業パーティーがある。
パーティーでは綺麗に着飾ってダンスを踊ったりする為、婚約者や恋人がいる人達は卒業式よりも、その後のパーティーの方が大切のようだ。
私はパーティーは気楽に参加して、すぐに帰ろうかと思っていたのだが、クレアもシャーロットからも、他にもクラスメイトからも一緒に楽しみましょう!と、強く言われ、私は皆と最後の思い出作りに参加する事に決めたのだ。
「ああ。綺麗だよ。ディー」
「本当、何処のお姫様かしら」
「お姉様、綺麗です、僕が学生だったらお姉様のエスコートが出来たのに」
「ええ。本当に、姉様は凄く綺麗」
「ふふ、皆有難う」
卒業式は午前中に終わる。その後一度皆帰り、身なりを整えて、夜のパーティーに参加するのだ。
両親からはとても高価な素敵なドレスが贈られた。私は今迄で一番美しく飾り付けら、家族が褒めちぎってくれ、髪も綺麗に結われ、化粧もされ、間違いなく人生で一番綺麗になっていた。
「楽しんでおいで」
家族に見送られ、私は卒業パーティーの会場に向かった。
パーティー会場の前のロビーに着くと、チラリチラリと視線が向けられているのは感じた。一人でパーティー会場に入る人間は少ないが私だけではない。そう、少ないが他にもいる。全員が都合よくパートナーを見つける事が出来る訳ではないのだ。
「御機嫌よう!ダグラス令嬢!」
「とても美しいですわ!」
クラスメイトに会うと、皆が話し掛けてくれ、私はバスレア令嬢から彼女の婚約者を紹介されたり、他のクラスメイト達と卒業後に再び会う約束をしたりと、パーティーが始まる前からもう既に楽しんでいた。
これから、パートナーがいる人達は手を添え二人でパーティに入場していく。私は入場の邪魔をしない様に隅に移動し、パートナーがいない他の人達と一緒に最後の方に入場するように並び直した。
「ディオーネ。ああ、よかった、間に合ったわ」と、急ぎ足でクレアが隣にやってきた。
「有難うクレア。遅かったのね。心配したわ。あら、貴女の婚約者は?」
「向こうに。ちょっと待って貰っているの。シャーロットと一緒に来たのだけど、馬車がちょっと事故にあったの。シャーロットの家の馬車だったから、学園に報告してるのよ、もうすぐ来るわ。あ、来たわね」
そう言うと、手を小さく降って、シャーロットが小走りにやってきた。
「ごめんなさい!遅くなったわね」
「ええ。ディオーネを一人にしちゃったわ。でも、入場前でよかったわ」
「それより、二人共事故って何?大丈夫なの?」
「それは大丈夫なの。犬が飛び出してきて。お互い怪我はないの。ただ、車輪が少しおかしくなって。学園前でそんな事があったから報告が必要だったのよ。それより、ディオーネ。今日も綺麗ね。貴女の淡い髪色に綺麗なクリーム色のドレスが映えるわね」
「私も、そう思うわ」
「もう、心配するわ。二人に会えてよかった。クレアもシャーロットも綺麗よ」
「「有難う」」
クレアとシャーロットが笑い合い、私も一緒に笑った。
私はシャーロットを見て、彼女のパートナーを探した。
「シャーロット、クレア、貴女達のパートナーは何処?」
「クレアのパートナーと一緒にいるわ。ほら、あそこよ。いい?ディオーネ。私達も一緒にディオーネと入場するわよ」
「ディオーネを一人で入場はさせないわよ。私達の中心にいて頂戴。私達が側にいるわ。学園最後の思い出を一緒に作りましょう?」
「クレア……シャーロット……」
二人は私が寂しくないようにと、婚約者にお願いをしてここにいるんだろう。
「有難う。でも、二人はちゃんとパートナーと入場して。私に合わせる必要はないわ。貴女達の婚約者にも申し訳ないもの。私は大丈夫だから。一人でも綺麗に優雅に入場するわ」
「ええ?そんな。そうでしょうけど」
「そうよ。きっと綺麗だけど、でも、一緒に入場しましょう?」
「私達は貴女と一緒に入場したいのよ。勿論、私達の婚約者もすぐそばにいて貰うわ。それならいいでしょう?」
「二人共…」
二人がそう言ってくれ、私は嬉しくて、二人の手を取ったが、でも、やはり、二人にはそれぞれの婚約者と入場して欲しいと断ろうとした。
「有難う、でも、やっぱり二人は二人の婚約者と入場して頂戴」
そう言った時に私を呼ぶ声が聞こえた。
「ディオーネ……」
小さいけれどはっきりと。
ゆっくりと振り向くと、そこには久しぶりに見るルーカスが立っていた。
「……」
何故ここにいるの?
クレアとシャーロットがルーカスと私の間に入ろうとしたが、私は二人の腕に手を置いて、「大丈夫よ」と言うと、一歩前に出てルーカスの前に立った。
「あ、ああ、久しぶり」
「お久しぶりです。ゴードン侯爵令息」
「あ、うん」
「今日は?」
どうしてここにいるのかと短く聞くと、ルーカスは奥の扉から出て来た一団に目を向けた。
「大学から教授と共に卒業パーティーに参加する事になったんだ。卒業おめでとう、ダグラス侯爵令嬢」
「有難うございます」
小さく礼をして感謝を示すと、何か、言おうかとルーカスはそのまま黙ってしまった。
私の気持ちは不思議と薙いでいた。ルーカスと今後会う事はあるだろうと思っていたが、実際あっても、意外と平気な事に驚いた。
「ダ、ダグラス侯爵令嬢、も、もし、君があの、私と」
ルーカスが私に何か言いかけ、手を私の方へ伸ばそうとした時、また私を呼ぶ声がした。