3
「生前は伸ばしていたんですよ? 髪も、爪も.......」
苦笑い。今は切り落とされた髪。あの夜に見た長髪は、崇島さんの生前の姿なのかも知れない。髪を切ることも忘れ、ただただ悲しみに明け暮れた、彼の前世。彼の過去を全く知らないが、でもそれだけ追い込まれていた事は気配で分かった。
「でも過去に囚われて恨みを積んでも、やはり幸せにはなれません。.......例え六道に戻れなくとも.......。だから切り落としたんです」
あぁ、初めて会った時の浮いたざんばら髪は彼自身が過去から遠ざかる為の物だったのか.......。
それから困ったような微笑みを浮かべて、疎らな毛先を指さした。
「女性だって、失恋をしたら髪を切るでしょう? それと同じです。それに私は人間じゃない。怖かったでしょう?」
「さっきも言いましたけど、私は崇島さんが神様でも天狗でも好きですよ。優しいですから」
『髪を切る』なんて言葉は冗談交じりに言ったのかも知れない。でも、あの艶やかな黒を切り落とすのは余りにも勿体なくて、私も彼の毛先に触れる。すると初めて感情を知った機械のように、彼の頬を銀の粒が伝う。
「な.......泣かないで下さいよ.......」
「すみません。何分、疎まれた生だったので」
それから暫くずっと一緒に寄り添い続けた。この僅かな時間だけで、彼の苦しみ、悲しみが癒える訳ではない。でも今だけは一緒にこの時を共感したい。彼の思いを私も一緒に受け止めたい。
「崇島さん、また隣で暮らして下さい。それとも神様だから厳しいですかね?」
「貴方が望むなら幾らでも」
どうか、この時が、少しでも長く続きますように。
優しい人を救うのも、落とすのも、全部人の行動次第なんですよね。
史実ではかなり悲しい人生のお人なので、この小説の中では幸せになって欲しいな。と。
まぁ相手様がどう思ってるか分からないので、身勝手な自己満足に代わりはないのですけど。




