30
「佐藤くん…」
ソファに座ったままの私。
佐藤くんは床に跪く。
「俺と結婚して下さい。」
佐藤くんの目は、真っ直ぐこちらを向いていた。
サラリとした手が私の左手にのせられた。
今、私はどんな顔をしているのだろう。
佐藤くんは、はっきりと言った。
疑問形ではない、はっきりとした意思表示。
不覚にも、私は佐藤くんの顔に見惚れてしまった。
白い肌のキレイな人。
この人が私のものになる…。
もう、ひとりでいなくてもいいんだ。
「はい。」
泣くかと思った。
でも、すごくうれしかった。
うれし過ぎて、ひとことしか言えなかった。
きっと今、わたしはすごく笑顔だ。
こんなに口角を上げたことなんて、なかった。
佐藤くんの手が私の左手を取る。
薬指にはめられて行く指輪。
するすると指をすべり、はめられた。
ぴったりと薬指におさまり、小さな石が大きさ以上に輝いて見えた。
「…サイズ。何で知ってるの?」
「最初から決めていたんだ。」
最初から??
「のんちゃんとずっと一緒にいようって。だから指輪のサイズなんて、ずっと前に確認済みだよ。本当はクリスマスにプロポーズする予定だったんだけどね。」
「私、全然気付かなかった…。」
ずっと、私は何を見てきたんだろう。
卑屈になって、目も耳も半分塞いでいたのかもしれない。
傷つかないように、期待しないように。
「でも、それエンゲージリングだから。」
「うん。」
「今度は2人で選びに行こうね。」
「ん??」
佐藤くんは自分の左手を指差した。
「俺、約束だけじゃ満足しないから。エンゲージは約束でしょ。ちゃんと結婚指輪欲しいじゃん。」
笑顔の佐藤くん。
誰よりも優しい…。
「ありがとう!」
佐藤くんに抱きついた。
もうこの手は離さない。
「のんちゃん。俺たちもう、ひとりじゃないんだよ!3人になるんだよ!ありがとう。のんちゃん。俺、ずっと大切にするから…。」
背中に回された手、こんなに強く抱きしめられたのは初めてだ。
妊娠がわかってから、すごく不安だった。
否定されたら…。
そう思うと相談すらできなかった。
最悪の事ばかり考えて、ひとりで何もかも決めて…。
『佐藤くんはそんな人じゃない。』
そんな思いに目をつぶって。
大切な事は、もっと簡単で。
もう、疑うのはやめよう。
過ぎた日に縛られるのはやめよう。
「佐藤くん。キスしていい?私、今なんだかとっても幸せなの。」
「もちろん。」
佐藤くんは優しい。
優しくて・・・甘い。
完結しました。
「ひとりっ子の話を書こう」と、勢いだけで書き上げた初めての小説です。
そのうち見直していこうと思ってます。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
感想を頂けたらすごくうれしいです。
次はまた違う話を書きますので、よかったら読んでください。