夢じゃない
酷い夢を見た。
謎の水を飲んで、無敵状態になり、魔王とトカゲを引き連れて、城に強盗に入る夢。
妙にリアルな夢ではあったが、夢であると確信が持てる理由があった。
流石に、巨乳で幼女なエルフや豚の勇者なんて現実に存在するはずがないだろう。
頭が痛い……
水を飲みたくなった俺はベッドから起きあがろうとしたが、失敗に終わる。
両腕に重みを感じる。
おそらく、片方はシードちゃんだと思うが、もう片方は誰だ?
俺はそっと確認した。
「……おぅ……」
巨乳幼女エルフがそこにいた。
ということは、
豚の勇者をスパンッと真っ二つにしたのも、帝国城の金目の物を根こそぎ奪ったのも現実なのだろうか。
……頭が痛い。
寝よう。多分これは、悪い夢なんだ。
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「師匠、おはようございます」
「おはよ……」
二度寝から目覚めても、悪い夢から覚めることはなかった。
俺はシードちゃんと巨乳幼女エルフ……シアを引き連れ、魔王の私室まで来た。
「魔王、あの水を分けてくれないか?」
「水……ですか?」
「うん。 強盗の前に飲んだやつ」
「ああ、魔王殺しですな! もちろん樽で用意していますぞ」
あれが魔王殺しだったのか。
魔界の酒はすごいな。無敵状態になれるなんて。
女神に真正面から喧嘩を売った今の俺には必需品だし、樽で貰えるのは嬉しい。
常に飲んでないと安心できない。
ポーション瓶にでも詰め替えて、常に持ち歩く事にしよう。
「今、用意しますかな?」
「うん」
俺が答えると、魔王は黒いモヤから樽を取り出した。
「どうぞ」
「ありがと」
受け取った俺は、樽を抱きしめる。
シードちゃんとシアがきょとんとしているが気にしない。
「主ぃ。 オイラにも飲ませてくれよぉ」
「やだ」
絶対にやるもんか!俺の命そのものと言っても過言じゃないんだぞ!
「オイラ、城攻めで頑張っただろぉ? なぁ、頼むよ、主ぃ」
「うるせえ、ぶち殺すぞウンコ野郎」
「いきなり酷いぞ!?」
傷ついた様子でトカゲは何処かへ行ってしまう。
悪いことをした。だが、俺も命がかかっているのだ。許してくれ、トカゲ。
「ごめん、ポーション瓶って無いかな?」
「用意させましょうか?」
「頼める?」
「もちろんですぞ! すぐに用意させましょう」
「ありがと。 じゃあ部屋で待ってる」
詰め替え作業だ。
幼女二人にも手伝ってもらうとしよう。
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すぐに用意されたポーション瓶に、魔王殺しを入れる作業を三人で行う。
「ちょ! 何してるんだ!?」
シアが鉢植えに刺さった苗木に魔王殺しを与えている。何故、木に酒を与えた…
俺の耳元に顔を近づけるシア。
「美味しいって言ってる」
そう言って、にっこり微笑む。
可愛い……まぁ、良いか。まだまだあるし。
「私もあげたい」
シアの水やりならぬ、酒やりを見ていたシードちゃんが、詰め替え済みのポーション瓶を片手に近づいてくる。
俺が止める間も無く、酒やりを始めてしまった。
「美味しいって言ってる?」
「うん!」
「可愛いね」
シアはその言葉を聞いて、無言ではあるが表情が緩んでいる。
にこにこ笑いあっている幼女達。
尊いな……俺も酒やりしてみるか。
「ほぉれ。 飲めぇ、美味いぞぉ」
酒やりをしていると、シアが顔を近づけてきた。
「いらないって」
「…………」
最近の木は、人を選ぶようだ。
木に拒絶された俺は詰め替え作業に戻る。
しばらく、集中して詰め替え作業をしていると、部屋にノックの音が響いた。
「どうぞ」
俺が許可するとドアが開いた。
「剣神様。 この度は誠にありがとうございました!」
一緒に帝国に侵入したエルフ達がそこにいた。
忘れてたな……自力で帰ってきたのか。
「この御恩、生涯忘れません! 我らエルフの忠誠は永遠です!」
「…ふむ」
重いなぁ。流されてついて行き、酔っ払っていただけの俺には重すぎる感謝だ。
「つきましては、どうこの御恩に報いるべきかと皆で考えたのですが、剣神様の剣になることで、御恩に報いるべきだとの結論に達しました」
何言ってるんだ、こいつ。
「我らは弓も魔法も捨てます! 今日この時より、剣の道に生きる所存」
どうしてそうなった……
何故、自分たちの得意分野を捨てるんだよ。
意味がわからないが、エルフ達の決意は硬そうだ。
もう、どうにでもなれ。
「剣の道は、修羅の道ぞ。 お主らはついて来れるか?」
「はっ! この命に変えましても」
「ふっ、良い目をしている。 覚悟は十分なようだな…… では、入門試練を受けてもらおう」
「はっ!」
「明日、魔王の元へ向かえ。 拙者から魔王に試練内容を伝えておこう」
「承知しました」
「今日はよく眠れ。 部屋は魔王に言って用意して貰うと良い」
「はっ! ありがとうございます!」
エルフ達の処遇は魔王にぶん投げよう。
何故か、我が使徒になっている魔王の事だ。俺が頼めば嫌とは言わないだろう。




