おろしかけマンドレイク
食事中、魔王と二人で仲良くマンドレイクをすりおろしている時に、それは起きた。
真っ白で果ての見えない、見たことがある空間。
羽の生えた二人の美女。
やべぇ。女神の呼び出しじゃねぇか。
片方が怒りの表情で立ち上がる。
「ふんっ!」
「ギョェァアアア!!」
俺は咄嗟にすりおろし中だったマンドレイクを投げる。
「なっ! なんだこいつ!」
女神が怯んだその隙に、懐から魔王殺しを取り出し、一気に飲み干した。
無事、無敵状態になれた俺は、戦力を確認するために周囲を見渡す。
魔王と目が合う。
魔王しかいないが、一番いて欲しい強者がいたのは心強い。
俺は安心して、魔王を見ながら頷く。
すると、何を思ったのか、
「ふんっ!」
「ギョェァアアア!!」
魔王もおろしかけマンドレイクを投げた。
マンドレイクまみれになった帝国の女神。
聖国の女神は笑いを堪えている様子だ。
「ああっ!! クソがっ! ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す」
「「ギョェァアアアァァ……」」
おろしかけマンドレイクが息の根を止められた。非常にお怒りの様子だ。
怒りの表情を浮かべる美女というのは想像以上に怖い。俺は雰囲気に飲み込まれないためにも、堂々と振る舞うことに決める。
「ふっ、誰かと思えば、格下神共か」
「「ああっ!?」」
やべぇ。笑いを堪えてたほうまで怒りの表情に変えてしまった。
「今回は格下神の使徒達はいないようですなぁ。 豚の勇者では満足できませんでしたから、もっとマシな者を斬ってやろうと思ったのですが……」
おそらくだが、無意識のうちに女神達を煽っている魔王。
「何故、使徒がついてきてるのかしら? 今回は神だけで集まるはずだったのだけど」
そう言って、俺を睨め付ける聖国の女神。
そんなこと言われてもな……俺が魔王の行動を理解しているはずがないだろ。
「死ねやぁぁあ!! 剣神!!」
聖国の女神との会話を遮って、何処からか取り出した大剣を片手で握り、斬りかかってくる帝国の女神。
俺は目を瞑った。
魔王殺しの効果が神相手にも通じますように……
「なっ!? 何が起きた?」
目を開く。
俺の真横に突き刺さっている大剣、動揺している女神。
魔王殺し最高かよ。
「ふっ、貴様にはまだ拙者に挑む資格はないようだ」
「当然ですなぁ。 おい、そこの……格下B! 格上の神である師匠の使徒である我が、格下神の術に干渉出来ぬわけだないだろう」
聖国の女神を格下Bと名付けた魔王がよくわからない事を言っている。
非常にぷるぷるしている二人の女神。
どうしよ、めっちゃ怒ってる。
「……おい、道場完成前に乗り込むってのは反則じゃねぇのかぁ? こっちはわざわざ異世界から召喚した勇者と財宝を粗方持っていかれてる。 どう落とし前つけんだ? ああ!?」
強盗殺人だからな……女神の怒りもわかる。
だが、俺は絶対に認めない。
「知らぬ」
「は?」
「え?魔王は知ってる? 強盗殺人の件について」
「知りませんなぁ。 別の剣神と魔王と古龍の仕業では?」
「ああ、多分それだ。 女神よ、気の毒にな……拙者では相談に乗ることぐらいしか出来ぬが、話して楽になることもある。 話してみよ」
「…………」
重すぎる罪を認めたく無い一心で吐いた嘘が、格下Aの表情を無にさせた。
怒りを通り越したのだろうか……
重い雰囲気を少しでも和らげるためか、パンっと手を叩いた格下B。
「やった、やってないの押し問答に意味なんてないわ」
そうだ、そうだ!俺は絶対に認めないしな!
「どちらが嘘をついているのかは知らないけど、それを証明出来ないなら、先の話をしましょう」
「…ふむ」
「少しは話がわかるではないか。 褒めて遣わすぞ、格下Bよ」
魔王よ。何故、俺たちに有利な展開に持っていってくれようとしている格下Bを煽るんだ。
魔王の言葉を聞いた格下Bは、顔が真っ赤になったが、歯を食いしばり、なんとか怒りを抑えつけているように見える。
「まずはルールの確認だけど、敗北条件は神である私達3人の死亡か、支配する国の降伏でいいわね?」
「ああ……」
「…ふむ」
そうだったのか。ちゃんと開始前に説明しろよ。
「剣神、あなたの場合は国の代わりに道場なわけなのだけど……完成していないって言うのは、流石に屁理屈が過ぎるのではないかしら?」
「ああ、そうだ! おかしいだろ! そんなの、無敵じゃねぇか!!」
そもそも、国vs道場の構図がおかしいだろうが!完成ぐらい待てや!完成しそうになったら、追加工事を発注するがな!
「そこで、剣神には敗北条件をきっちり設定してほしいの。 すでに始まっている神々の遊戯に敗北条件が神自身の死亡しかないなんて……フェアではないでしょう?」
「そうだそうだ!!」
真面目な表情で、俺に提案している格下Bと、それに同調する格下A。
そもそも、なんで俺は争いに巻き込まれているんだよ……
二人で仲良く争ってればいいじゃないか。
「ああ……魔王。 後は頼む」
「御意」
良い案が浮かばなかった俺は、全て魔王に任せることにした。
「確かに、今の状況では師匠に挑む資格すらない貴様らに勝ち目はない」
「……続けろ」
「本来ならば、挑む資格を得る為に自分を高める努力をするべきだが……貴様らのような、己の力を過信している雑魚に、そのような気概はないだろう」
今日の魔王は凄く煽るなぁ。
任せたのは間違いだったかもしれない。
「殺す殺す殺す殺す……」
「神を相手に下等生物が何様のつもりかしら!」
女神二人は非常にお怒りの様子だが、魔王は涼しい顔をしている。
「ならば、我の命を敗北条件に加えてやろう。 これで敗北条件は、師匠の命か我の命の二つ。 文句はあるまいな?」
魔王は何の躊躇もなく、命を賭けると言い放った。
すごいな……何処からその自信は生まれてくるんだ。
「師匠、これでよろしいですかな?」
「構わぬ」
魔王が構わないのであれば問題ない。
他の、まだ人間してる弟子達を狙われても困るしね。
「そぅ…… ならそれで構わないわ。 では、解散しましょう。 あなたの顔を見ていると吐き気がするのよ」
「ああ、そうだな。 吐き気がする。 解散だ、解散」
その言葉を最後に、俺たちは元いた場所に戻った。
「ぬぅ……」
「どうしたの?」
少し沈んだ様子の魔王。
やはり、魔王でも命を賭けるというのは、プレッシャーを感じるのかもしれない。
「早々と打ち切りよって…… あの時が止まった空間での素振りは良い鍛錬になるというのに……」
そ、そうか……
本当に魔王はぶれないな。




