海がほしいです!
俺は飲んだくれ受付嬢クリスさんにトカゲのウンコの査定をお願いしに受付にきた。
だが、クリスさんが「これは私には判断できそうもありません」と言い、別の人間を呼びにいってしまった。
俺は不安だった。このウンコ、金にならなかったらどうしようと……
すでに新人達はウンコ拾いに向かったのだ。
帰ってきた新人達にそれはただのウンコですなんて言えない。
だが、俺の不安は杞憂に終わった。
「金貨で五百枚でどうでしょうか?」
「え?」
クリスさんが連れてきたギルドマスターがおかしなことを言った。
「やはり安すぎましたか……では、七百枚でどうでしょう。 確かに王都でオークションに出せば最低でも金貨千枚にはなると思います。 しかし、輸送の際のリスク、手間などを考えるとこの辺りが限界かと」
「いや、五百枚でいいです」
え?って言ったら二百枚追加されたぞ。
逆に怖いわ。
素手で触り、目の近くまで持ってきて鑑定していたギルドマスターに「それ、トカゲのウンコです」と言ったらどうなるのだろうか。
殺されるかな?
「そのかわり、後で三つほどウ……竜の宝玉がここに運び込まれることになります」
「は? これほど貴重なものが?」
危ない、ウンコと言いかけた。
「それを同じ値段で即金で買い取ってほしい」
「買取はぜひさせて頂きたい! ですが……計四つ、金貨二千枚を即金でお支払いするのは難しいかと。 剣神様のお支払いもギルド銀行で口座を作って頂き、本部からの入金にしていただこうと相談しようと思っていた次第でして」
そんな大金持ち歩いていても怖いし、むしろその方がいいか。
「三人の冒険者が持ち込むことになる、その三人に即金で金貨五枚支払い、後は口座振り込みでどうでしょう」
「それならばもちろん大丈夫です! 用意しておきましょう」
ウンコの買取交渉が終わり、口座開設の手続きに入る。
俺はその間、照れ屋なトカゲにどうやってウンコさせるかで頭がいっぱいだった。
口座を作り終えた俺たちは、魔王とクロエがいる練習所に向かい、ぼーっと二人の素振りを眺めていた。
そして夜になり、そろそろ止めようかと考えていた頃に新人達が帰ってきた。
その間、受付嬢らしき仕事を全くしていないクロエ。これでいいのだろうか、冒険者ギルドよ。
「師匠! やったよ俺たち! 三つとも見つけてきたぜ!」
「いろんな場所に隠してあったから苦労したわ」
「頑張ったです! でも、本当にこんな大金受け取って良いです?」
確かに金貨五百枚は嬉しいを通り越して怖いかもしれない。
「確かに……そうだよな」
「う〜ん…… 労働と対価が見合ってないわよね」
「そうです。 金貨五枚もなんて切り詰めれば一年ぐらい暮せるです」
ん?
「金貨五枚?」
「やっぱり間違いだったです?」
「いや、それは受け取って良いのだが……他はどうしたのだ?」
「師匠の口座に振り込むって言われたぜ」
なんで?
俺何もしてないのに。
ギルドマスターは何をどう考えて、なにもしていない俺に報酬の大半を振り込む決断をしたのだろうか。
「流石に金貨五百枚なんて受け取れないわよ。 ちょっと怖いし」
「五百枚も持ってるって噂が立ったら絶対襲われるです」
「一日仕事の報酬が金貨五枚なんて破格だしな!」
しっかりとした金銭感覚を持っていた新人達。
金銭感覚を養わないといけないのは俺の方だったのか。
結局、受取拒否の姿勢を崩さなかった新人達。
俺の銀行口座には高額すぎる泡銭が振り込まれることになった。
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翌日。
俺達は全員で建築ギルドにきていた。
仕事しろよクロエ。
「流さない大便器を追加して欲しいのですが」
「は、はい?」
「大便器は出来るだけ大きく……トカゲに合わせたものでお願いします」
「わ、わかりました。 追加料金が発生しますがよろしいですか?」
「大丈夫です」
何しろ、トカゲのウンコ金貨五百枚で売れるので。
「ああ、ついでに寮も道場の横に建ててください」
「は、はぃぃ。 その……お金の方は?」
「余裕です」
「建築ギルド総出で取り掛からせて頂きます」
新人達の部屋も必要だろうし、これから人が増えるかもしれないしな。
金の成るトカゲがいるのだ。
じゃぶじゃぶ金を使って道場をカスタムしよう。
「ああ、後……何がいると思う?」
「灯台だな、灯台。 灯台は人間の文化の極みだぜ」
「じゃあ、それもで」
「後は、砂風呂だな。 あれも人間の文化の極みだ」
「それも追加で」
「真空状態の部屋がほしいですな。 良い素振りが出来そうです」
「それも追加で」
「海がほしいです!」
「海はいらないです」
ガーンと効果音でもなりそうな表情をしているクロエの要望は無視するとして、弟子とペットの要望は出来るだけ叶えてやろう。俺には金の成るトカゲがいるし。
「も、申し訳ありません。 信用していないわけではないのですが……その、お金のほうは大丈夫でしょうか?」
当然の疑問だろう。
いくら信用できる相手とはいえ、すぐにうんとは言えない大金が動くのだから。
というか、何故俺に信用があるのだろうか。
信用とは無縁の詐欺師だと言うのに。
「即金で金貨二千枚払います」
「え?」
「ああ、すみません。 冒険者ギルドから振り込まれてから払います。 一週間ほど待って欲しいと言われているのを忘れていました」
「冒険者ギルドに確認を取らせていただいてよろしいですか?」
「ええ、構いません」
その後、確認が取れ、担当に「全身全霊を込め、建築ギルド総出で取り掛からせて頂きます!」と言われ建築ギルドを後にした。
泡銭なんてじゃぶじゃぶ使えばいいのだ。
金銭感覚?これだけ金回りが良いと誰だって金銭感覚が狂うだろうよ。
※金貨一枚=十万円ぐらいの感覚でお願いします。




