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「君は可哀想だね」
目を開けると真っ白な空間にぽつんと一人少年が立っていた。
下を見ても上を見てもどこを向いても真っ白な空間が広がっている。
白の世界で少年の黒髪だけがやけに目立っていた。
自分の置かれてる状況が分からず、漠然とした不安が胸に広がっていく。
今の自分はさぞ困惑した表情をしていることだろう。
「ここはどこなんだ?それに君は…?」
唇に指を当て、少しだけ考え込む表情をする少年。
「ここは現実と夢の狭間。僕のような存在が介入しやすい世界。そして僕は案内人ってところかな?」
ふわりと笑った顔は年相応に幼く可愛らしい。
その整いすぎた美しい顔はある意味現実離れしていた。
「僕はね、≪キャスト≫の一員である君を異世界に案内する為にここに来たんだよ。」
少年は両手を広げ、くるくるとその場で回りだした。
少年の体から黒い光が広がっていく。
白い世界が黒い世界に塗り替えられていく。
異様なその光景に声を出すことも指一本動かすこともできずにただ立ちすくむ。
世界が黒に変わりきると少年が回るのを止めた。
先程まで真っ黒だった髪の毛は真っ白な色に変わっていた。
白だった世界が黒に、黒だった髪が白に反転した。
「地球って退屈だと思わない?学校行って、働いてお金を稼いで、休日にささやかな娯楽を楽しむ。ワクワク感が得にくい生活システムだと思うんだよね。もうレールが引かれているとでもいうのかな。ある一定の年齢まで学校に行き、その後定年まで働き、老後は年金と貯蓄で生活し死ぬ。今生きている人たちは既に出来上がってるレールの上をひたすら死に向かって歩き続けてるだけなんだよ。」
身振り手振り話す少年の前で先程見た異様な光景に未だ気持ちが呑まれたままの僕は答えることが出来ない。
「確かに化学が発展して生活は豊かで便利になったかもしれない。でもその分だけロマンが失われてしまった。この地球を創った神の唯一の失敗は科学を発展させたことだと思うね。」
いたずらっ子のような表情を浮かべた少年は僕を正面から見据えた。
その瞳には楽しそうに輝いており、僕は思わず息を呑む。
まだ何もわからないこの状況下で次は何を言い何をするのか。
「話が脱線しちゃったけど、簡単に言うと君に剣と魔法の世界をプレゼント♪」
掌をこちらに向けたと思ったら急に重力が増したかのように体が重たくなった。
それと同時に足元は底なし沼のように沈んでいく。
何故どうして?尽きぬ疑問と未知の体験への恐怖に思考が埋め尽くされる。
体を捩っても抜け出せずただ沈み行く僕を少年は見下ろしていた。
「その世界で君は色々知ることとなるだろう。知りたくなかったと嘆いても無駄なんだ。結局僕も君も地球に住む人々も何もかもが≪キャスト≫なんだから」
泣きそうな顔で少年は笑っていた。
「せめてその時がくるまでは≪神の箱庭≫を楽しんできて」
それを最後に僕は闇にのまれ、意識が途切れた。