25
二日酔いを超えた三日酔い辛い。
「え…っ?」
ごめんってどういう意味なのか理解出来ず聞き返そうとした瞬間に事態が一変した。
自称勇者に止めを刺した穴から黒い鎖が無数に飛び出し、ルゥナさんの手足を拘束する。
更に束になった鎖は先端を鋭く尖らせ始めた。
ギルさんが咄嗟に黒い鎖を断ち切ろうと果敢に短剣で切りかかるが跳ね返され吹き飛ばされた。
森の奥まで吹き飛ばされたギルさんがどうなったかここからは見えない。
ルゥナさんは抵抗する様子すら見せずにただ優しく微笑み僕を見ていた。
鋭くなった鎖はルゥナさんに狙いを定める。
やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!
手を伸ばし駆け寄ろうと踏み出す。
全てがスローモーションに進む。
「やめてくれぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
無慈悲に鎖がルゥナさんの体を貫く。
その傷は明らかに致命傷で僕程度の治療魔法じゃ救うことは出来ない。
ルゥナさんの体から血の代わりに光の粒が漏れ出す。
鎖は乱暴にルゥナさんの体を地面に投げ捨て、役目を果たしたのか空気に溶けて消えていった。
ようやくルゥナさんの所までたどり着いた僕は穴が開いた体を抱きしめる。
これ以上光の粒がその体から出ていかないように強く強く。
ふふっといつもの笑い声が耳元で聞こえる。
「…顔を見せておくれ」
涙でぐちゃぐちゃになった顔なんて見せたくなかった僕は、乱暴に服の袖で顔を拭い無理やり笑った顔を見せる。
涙はまた溢れ出るし、頬は引きつり唇は意図せず震える。
きっと今の僕は酷い笑顔を浮かべていることだろう。
それでもルゥナさんはいつも通りの笑顔を浮かべて、優しく僕の頬を撫でてくれる。
「成人の祝いの品を…受け取ってくれるかな?」
ルゥナさんの掌に魔力が濃密に集まり圧縮していき、ビー玉より一回り大きい光輝く珠になった。
「これは宝玉…魔力の源が具現化されたもので体に取り込めば更に強くなれるはずだよ」
僕の手に宝玉を握らせるルゥナさんの手に力が全然籠っていないのに気が付いた。
宝玉と一緒にルゥナさんの手を握り子供のように縋りついてしまう。
「死なないで…下さい。まだ…僕は…ルゥナ様と一緒にいたいです…」
笑顔を維持することも出来ず僕は泣きじゃくる。
今ルゥナさんがどんな顔をしているか見れない。
「私の姿は見えずともアルバの中にいるよ…ずっとずっとね…」
ふわりと抱きしめていた重みが消える。
握りしめていた手もなく僕の手の中には宝玉が一つ。
足元にはルゥナさんの角が落ちていた。
「ルゥナ…さ…ま…?」
僕の声は虚しく風にとけていった。
「憎き魔獣の親玉は勇者様の尊き犠牲によって討ち取られた!!!残りは手下の魔獣と亜人だけだ!!!一気に攻め、
この森を再び人の手に取り戻すぞぉぉぉ!!!!」
後方で待機していた連合軍が動きを見せる。
軍を鼓舞する指揮官の声が風魔法の拡声で周囲に響く。
ウルサイ。
「皆様!勇者様が命を賭して我等を導いてくださいました!わたくしはセヴィオスの姫としてそして聖女として最後まで戦いますわ!!勇者様の意志を胸に剣を手に!!」
甲高い女の声がやけに耳障りだ。
ウルサイ…ウルサイナァ…。
虚ろな瞳で連合軍を見ると先頭に華美な装飾がされた象のような動物が立っている。
その上には踊り子のような下品な恰好をした女が、ゴテゴテと宝飾品がついたこれまた下品な杖を空に掲げている。
「共に悪しき者を打倒しましょう!!」
…悪しき者?
ルゥナさんが?ギルさんが?ルナエルフが?魔獣達が?
ただ森で静かに暮らしていただけなのに?
ただ静かに暮らしているだけで悪しき者と呼ばれなければならないのか?
ふざけるな。
思考が怒りと憎しみで黒く塗りつぶされていく。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
宝玉と角を握りめ有らん限りの魔力を解放し始める。
大地が揺れヒビが入ると連合軍は慌てふためいたように四方に散って逃げ始める。
≪ちょ!そんな大規模な魔力暴走を起こしたらあんたの体も崩壊するわよ!≫
ずっと静観していた百合子さんから焦ったような念話がくる。
だが残念ながら真っ黒い感情に支配された僕にはそんな言葉は響かない。
ルゥナサンガイナイコンナセカイナンテキエテシマエ…。




