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周りの盛り上がる声と拍手で意識が戻る。

あれ、僕は何を考えていたんだっけ?

視線の向こうには微笑を浮かべたギルさんがステージに立ってお辞儀をしている最中だった。


「アルバ、私の自慢の息子愛おしい子。君に聞いてほしいことがあるんだ。私は人と争うのは嫌だと言っていたのに結局最後は人と対立して…自分の森に住む彼らや多くの魔獣を自分の(かいな)に囲い外から隔絶した世界に住まわせてしまった。全ては私自身の罪なのだと分かっている。

だから私の愛しい子にはそうなってほしくないのだよ」


振り返ると悲しげな表情のルゥナさんが真後ろに立っていた。

今では僕の方が身長が高くなってルゥナさんを少し見下げる形になる。

僕の右頬を温もりのない左手で撫でるように触れて言った。

「ねぇ、最初で最後の私の願いを聞いてくれないかい」


先程まであんなに楽しそうに笑っていたのに。

冗談を言って僕を拗ねさせていたアナタは何故そんな苦しそうな顔をしているの?


「ルナエルフを魔獣をあらゆる嘆きに苦しむ存在を…」


周囲の声が遠くに聞こえる。

今の僕のルゥナさんの一挙一動の全てを逃さないよう集中している。


「……っ!ふふっ…言えないやこんなこと。」


ルゥナさんの目尻から雫が零れて頬を伝う。

無理に笑おうをしているのか唇が震えている。


「もしも人間の汚さに嫌気がさす時が来たら、世界の在り方に疑問が浮かんだら…太陽の通り道を訪ねなさい。

そこに私の古い知人が居るから。道に迷った君に、アルバにヒントをくれるはずだから」


何で急にそんな事を言うの?

僕はようやく成人して一人前を認められるようになったのに。

ようやく役に立てると思っていたのに。

思わずルゥナさんの左手首を掴む。

今離したらもう二度と掴めないような気がして。


「与えられたモノだから君を拾って育てたのかと言われれば答えは"NO"だよ。愛していることも嘘じゃない。

この気持ちは私自身の気持ちだと胸を張っていえる。愛しているよ可愛い可愛い我が子」



掴んでいた感覚が消える。

夢を見ているようで掴んでいた手を握りしめても何も掴めずただ己の掌を握りしめるだけに至った。


「ルゥナ様!?」


ギルさんの声が聞こえる。

広場は騒めきに満ちている。


「皆の者これは私からの命令です。違反は許しません。」


厳かな声が頭上から降り注ぐ。

ゆっくりと空を見上げる。

額から生える長い銀の角はどの魔獣より太く美しく。


「人間の国が再び攻めてきました。これより私は迎撃戦にはいります」


白銀に輝く鬣。真っ白い毛並みに夜空のような紺色の瞳が目立つ。その四脚と首周りには雲を纏っている。

前世のイメージで例えるならば白銀の麒麟だろうか。

生まれて初めて見る神獣の姿のルゥナさんは神秘的で尊い存在に見えた、


「村の者全員神樹の中に避難しなさい。全て終わるまで出てきてはいけない。再度言うけどこれは命令だよ」



重苦しくならないように最後は軽い口調で言うけれど僕は先程のやり取りで軽く受け流すことは出来ない。

言い終わるとルゥナさんは空を駆けていきあっという間にその姿は見えなくなってしまった。

村の人々は慣れたように言われた通りに動き出す。

何で言われた通りに動くんだ?

これからルゥナさんは独りで戦いに行くんだぞ?


「アルバ、命令通りに動かねばルゥナ様の足手まといになってしまう。早く神樹に避難するぞ」


あのギルさんまでもが言いなりになっている。

違うだろう。ルゥナさん命のギルさんだったら命令なんてちんけなものに囚われず剣を手にその背を追うだろ。

「お待ちくださいルゥナ様。この命に代えましても御身をお守りいたします」とか何とか言いながらさ。


「嫌だ。僕は僕の思うように動く」


さっきの命令は「村の者全員神樹の中に避難しなさい」と言っていただけで村の者じゃない僕は含まれていないから命令違反にもならないはず。


僕はルゥナさんを…僕のお母さんを守りたいんだ。

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