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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等のそれなりに通常ではない日常
28/61

25話

 「空翔ける兎亭」の定食はマールに聞いていた通りとても美味しかった。値段も手頃で味も良いとなると人気が出るのも当然だと思えた。


 時間をかけて食事をすませると代金を払って店を出る。それとなく辺りを窺ったが騎士の姿は見えない。それもそのはず、ここから城まではかなり距離があるので、馬でも飛ばさない限りこの短時間で戻ってくるのは不可能なのだ。


 お腹が満たされたライカは再び大通りに戻り、「黄金の花亭」でフェリシアが好きな焼き菓子を買うことにする。


 てくてく歩いて目的の店に着くと、店の前には行列ができていた。列にいるのはほとんどが女性だが、何人かは男性も交じっているようだ。ライルも列の最後尾に並ぶ。


 順番が来るころには騎士たちもこの付近まで来られるだろう。ライカを見つけられるかは別だが。


 焼き菓子を買った後、大通りを歩いて途中何軒か店を覗きながら城下中央にある大噴水広場まで来ると、屋台で果物水を買い広場にあるベンチに腰かける。辺りを見渡すと噴水の周りを子供が走っているのが目に入った。行商人らしき人の姿もちらほらと見える。城下は活気にあふれていた。


 (こうやって城下をのんびり歩くのは初めてです)


 ライカが城下に来るのは任務のときがほとんどで、稀にフェリシアに頼まれて買い物に来ることもあるが、目的の品を手に入れるとすぐに城へ戻るので、今日のように散策したことはなかった。


 (こうやって何もしないでいることを、ぼうっとすると言うのでしょう)


 結局昼三の鐘が鳴るまで、ライカはベンチに座っていた。







 昼三の鐘が鳴ったのでライカが王城の正門に戻ると、全員がすでに揃っていた。


 ライカが戻ってくる前に騎士たちは報告を済ませていた。後半の3人はライカを見つけられなかったらしい。まさか彼女が噴水前のベンチにずっと座っていたとは思いもよらなかったのだろう。ライカがどこにいたのかを言うと驚きの表情になった。


 「皆ご苦労さまでした。明日も同様に行いますのでそのつもりで。この後通常任務がある方はすぐに着替えて持ち場に行って下さい」


 通常任務とは城の警備のことだ。フレイエの言葉で騎士たちが走りだそうとするのをライカが、すいませんと呼び止める。


 「先ほど城下で購入しました。よろしければ皆様でお召し上がりください」


 そう言って騎士たちに紙袋を差し出す。中からは焼き菓子のいい匂いがしてくる。「黄金の花亭」で騎士の分も買っておいたのだ。


 差し出された騎士は、ダレスを見た。彼が小さく頷いたのを見て紙袋を受け取る。その時ダレスの隣にいたフレイエは、なぜか周囲の温度が下がったように感じた。


 「ありがとう。後で食べるよ」


 「「黄金の花亭」の焼き菓子です。お口に合うとよろしいのですが」


 店の名前を聞いて騎士たちが嬉しそうな顔になる。「黄金の花亭」は騎士の間でも人気のようだ。


 「貴方たち!交代の時間は迫っていますよ。早く行きなさい」


 『はっ!』


 フレイエに言われて、今度こそ騎士たちが走り出す。


 走りながら「俺ここの焼き菓子好きなんだよ」「俺も俺も!あいつ無表情だけどいい奴だな」「俺の分も残しとけよ!」「いつの間に買ったんだろ…?」「他の奴らには内緒な!」などと言った会話をしているのが聞こえていた。


 「全く子供みたいにはしゃいで!もう少し騎士らしくできないのでしょうか」


 騎士たちの走りながら話す内容を聞いてフレイエは立腹している。


 「あの、フレイエ副団長?副団長もよろしかったらどうぞ」


 おそるおそるといった感じでライカが、騎士たちについてぶつぶつ呟いているフレイエに紙袋を差し出す。


 「あ、私にもですか。ありがとうございます」


 怒りの表情が瞬時に普段の穏やかなものに変わる。フレイエの表情の変化に軽く驚きを覚えたが、気にしないことにする。


 「ダレス様の分もありますので、執務室に戻ってお茶でもお入れ致しましょうか」


 「いいですね。私の分もおねがぃ…しようと思ったのですが、用事を思い出しましたので失礼します!」


 「?はい、お疲れ様でございました」


 にこやかにしていたフレイエが突然顔をひきつらせ、足早に去って行った。


 なぜフレイエの態度が変わったのか分からないライカは、首を傾げて彼が去って行った方を見つめる。


 「行くぞ」


 「はい、ダレス様」


 フレイエのおかしな態度も全く気にしていないように見えるダレスに呼ばれて、ライカは彼の後を追って城の中へと向かう。


 フレイエが表情を一変させたとき、ダレスが殺気を込めた目で彼を睨んでいたことをライカが知ることはなかった…。 



  


 


二人きりの時間を邪魔するものは副団長といえども許しません。

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