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ベータのくすり屋  作者: 碧海


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19/19

9歳

  ヴィオは教会に通いつつ、ユーリスとキリーから色々と教わり、9歳を過ぎたころには実践と称して日帰りの採集など軽めの依頼に連れていかれるようになった。


ヴィオの生活が規則正しくなったので、私も店の営業と並行してコツコツと抑制剤の改良に取り組んでいった。今ファーレンで扱ってる抑制剤は一般に流通していないもので、教会で保護されてるオメガ用に作られたものだそうだ。


 『教会に保護されているオメガは子どもから大人まで年齢は幅広く、生活棟はオメガだけに限られており、アルファやベータの神官とは接触しないように独立している。ただ、神官として祈りの場や奉仕活動など一般の人と交流しなければならない場面がある。発情期を避けて外で活動はするが、発情期でなくてもオメガのフェロモンは出ているので、その場にアルファがいたらお互いに突発発情を起こすかもしれない。そのために、外での活動の時には発情抑制剤を飲んでいる。


 発情期はオメガの体にとっては定期的に来る自然な生理現象。それを無理やり薬で止めるので、発情周期が変わったり、体調が悪くなったりしてしまう。発情を抑えるだけなので、フェロモンは出ているからアルファが近くにいれば事故が起きる可能性はある。ベータでも人によってはオメガのフェロモンには弱いながらも反応することもあるので、外での活動は慎重かつ神経質にならざるを得ないのが現状だ。そのため、一時的に発情を止める強力な抑制剤でなく、フェロモンを抑え、発情を穏やかに抑える薬があれば、発情期以外は他者との交流も生活も制約がなくなる。かつ、アルファ側がフェロモン遮断薬を服用すれば、オメガを教会や一般家庭で隔離せずに社会で暮らせるようになるのではないか。』


 私に渡された依頼書には、依頼された抑制剤の目的が書いてあった。オメガの現状は漠然とわかっていたつもりだったけど、改めてオメガの現状の厳しさを知った。遠くない将来ヴィオが直面する問題だ。現状では本当に職業選択の自由はないんだと。教会での生活一択だし、その中でも制約があるなんて・・・。

 

 依頼書から改良の目標が決まった。


1,フェロモン抑制=強力な遮断ではなく抑える効果。

2,発情期周期を整える作用=周期が一定になることで、発情期以外は普通の生活を送れる。

3,子ども用を作る=フェロモンを安定させ、穏やかに初めての発情期を迎える効果。

4,安価で大量生産できる=これ大事。市販薬として流通させるのが目標。この中にアルファ用のフェロモン遮断剤も含まれる。

  

 この薬が安価で一般流通するようになったら、もしかするとヴィオもパン屋になれるかもしれない。うん、頑張ろう!。 


 とりあえず今の目標は子ども用を作ること。ヴィオに必要なのは未成人が穏やかに発情を迎えられる薬だ。初めての発情期は個人差があるが12歳くらいまでには来るらしい。それまでに今の抑制剤を子ども用に改良し、できれば11歳くらいから予防的に飲用できるようにしたいと思ってる。そのためにも副作用がでない薬草で作りたい。


 様々な素材で試行錯誤しているので、近くで手に入らない薬草はギルドに依頼する。たいがいはユーリスが引き受けてヴィオと一緒に材料集めに行ってくれる。


「ママ・ブラウ、ただいま~!」

「おかえり、ヴィオ。ユーリスもお疲れ様。」

「希望の薬草を採ってきたきたぞ。これでいいか確認してくれ。」

「いつもありがとう。でもギルドを通さなくて良かったの?無報酬でしょう?」

 私は薬草を受け取りながらユーリスに聞いた。


「ブラウの薬草採集は身内の依頼ってことでギルドには通してあるから気にするな。薬草採集のついでにほかの依頼もこなしてきてるから大丈夫だ。」

「今日はね~ブラウンウルフを倒したんだよ。」

「え????」

 ヴィオが明るく言った後、しまったという顔をして口を押えてモゴモゴし始めた。


「あ~も~。ブラウが心配するから言うなって言ったのに・・・。」

「ちょっとユーリス、どいうこと?採集の実地訓練だっていうからヴィオを出してるのに?」


 詰め寄る私にユーリスが目線を外して後ずさった。

「あー、ブラウンウルフの素材の依頼があったんだよ。ブラウの採集地と近かったからさ。ついで、ついでだよ。ヴィオの魔力剣がずいぶん上達したからさ、ちょっとだけ。な~?ヴィオ?」


 ユーリスが苦し紛れにヴィオにふる。

「うん、僕ずいぶん魔力剣がうまく使えるようになったよ。今日だって1人でブラウンウルフ倒したんだよ!」

 ヴィオは着替えて水を飲みながら嬉々として戦果を教えてくれる。

「ユーリス!ヴィオに危険な討伐させないって言わなかった?」

「あ~~~、ごめんごめん! ギルド行ってくる~。」

 ユーリスは不利になったのでそそくさと出て行った。逃げたな。ヴィオがそれを見てくすくす笑ってる。私はため息をつくと、

「ヴィオ、お腹すいてるよね。夕飯にしようか。」

「うん!お腹すいたー。」


 危ないからと言ってなんでも禁止にはできないし、まあ、ユーリスが一緒なら大丈夫なんだけど、帰ってくるまでは心配。でもヴィオが楽しそうだから今日は良しとしよう。


 9歳の誕生日を過ぎて、ヴィオはずいぶん成長した。身長は私と近くなってきてそのうち追い越されるだろう。さらさら銀髪で可愛いのは変わりない。キリーから護身術と剣術を教えてもらってるけど、魔法の方が得意なので剣は補助としてるから細身の軽い剣を使いこなしている。なので、鍛えてるけどムッキムキではない!ムキムキのヴィオは見たくないなぁ。


 月に1度、王都の中央教会へ行きヴィオは神官長に会いに行く。名目はヴィオの成長と現状の確認だけど、実際は2人で楽しくお茶をしながらお喋りをしているらしい。ヴィオは1か月間にあったことを楽しそうに報告してるんだろうな。


 私はその間に、ファーレンへ行って改良途中の抑制剤を持って行き、治験協力者に試してもらってデータをとっている。効果のほどは魔法通信で後日送ってもらって、そこからまた改良がはじまる。ヴィオのためなんだけど、発情期が来ていないヴィオに試してもらうわけにはいかない。


「ねえ、ヴィオ。大きくなったら何になりたいか希望はある?」


 夕飯をお替りしておいしそうに食べているヴィオに思わず聞いてしまった。ヴィオはちょっと驚いた顔をして私を見ると、

「ん~。ユーリスみたいに冒険者かなー。キリーと3人で魔獣を倒したり、ママ・ブラウの薬草を採りに行ったりしたい。」

 ヴィオは食べながら明るく言った。


「あ、冒険者ね。わかった。」

 私の返事にヴィオは不思議そうな顔をした。そっか、冒険者かー。神官っていうかと思ったけど、ヴィオの中にちゃんと選択肢があったことに私は嬉しかった。

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