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姉が悪役令嬢だった件  作者: おしどり将軍
天才剣士 ジョージ・レスター

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一つ目の巨人

 4m程度の巨体。大きな棍棒を持っている。毛皮の腰巻きは身に付けていたが、それ以外は灰色の肌が露出していた。


 前時代の怪物。魔王との対戦でも数多くの犠牲者を出し、一つ目の異様な姿や人間の肉を好んで食べることもあいまって、恐怖の象徴として民衆にもよく知られていた。その生態はよく知られていないため、一説には魔王が作り出した魔物とも言われている。


 皆疲労しきっており、ハイマン、ベイカー、オリバーの3人は負傷して動ける状態ではない。我々3人で対処するしかなかった。彼らを運んで逃げても追いつかれるのは明白だった。


「なぜ、このタイミングで」


 僕が言った。


「やるしかないのか」


 絶望的な表情をしたアーサー王太子が言った。


 その瞬間、ジョージは相手に向かって飛び込んでいった。


「待て、ジョージ」


 止める間もなく、ジョージは高く跳躍して、相手の左肩から袈裟斬りに愛刀を振り下ろしていた。


「やったか」


 しかし、ジョージの剣は相手の肩の根元に当たり、一刀両断するかに見えたが、浅いところで止まってしまった。


「魔力切れか」


 恐れていたことが起こってしまった。今までの戦いで魔剣を使い続けていた結果、彼の魔力の全てが消費されてしまっていたようだ。魔力の力を借りず、力任せに切るには相手が巨大すぎる。


 相手は怒りで真っ赤になって、右手でジョージを払い除けようとした。剣を握っていたジョージは回避することができず、まともに相手の攻撃が直撃してしまった。


 グシャっと鈍い骨が折れる音が聞こえ、ジョージが剣を持ったまま遠くへと飛ばされ、変な形で地面に叩きつけられる姿が見えた。


「ジョージ!!」


 王太子は叫んだが、ジョージは身動きひとつしなかった。


 その間、サイクロプスの目は怒りに燃え、そして、こちらに突進してきた。僕は呪文を放ち相手を攻撃した。しかし、全く歯が立たず、相手の勢いは止まらない。


「王太子殿下、早く逃げてください」


「しかし、みんなが」


「もう、オークたちはこの辺りにはいません。逃げるなら今です。僕が魔法で牽制してますから、その間に」


「だが俺は皆を置いていくわけには…」


「あなたに何かあった場合、皆が頑張っていた意味が失われてしまいます。皆、あなたのために戦ってきたのです。一時の感情は捨てて、この場は逃げるべきです」


 ハイマンやベイカーも口々に王太子に対し、逃げてくれと声をあげた。王太子は厳しい顔で目をつぶっていたが、やがて、両目を見開くとこういった。


「いや、俺は逃げない。守るべき人間を置いて逃げるような奴は王として失格だ」


 そういうと王太子は自らの剣を地面に突き刺しこう宣言した。


「この剣から先には引かないぞ。皆俺を信じてくれ、奴を倒してやる」


「一体どうやって倒すのですか、もう、何も打つ手は残っていません」


「いや、ある。王家に伝わる7大魔術の一つをお見舞いしてやる」


「えっ」


 そんな話は初耳だった。最近たしかに魔法の腕は上がってはいたが、最近まで上級魔法はおろか初級魔法しか使えなかったはずだった。伝説級の魔法などとてもじゃないができるはずがない。


「ばあちゃんに一度見せてもらったんだ。大丈夫、何度も練習しているから。いつか、お前を驚かそうと思って、こっそり練習していたんだ」


「本当に大丈夫なんですか?」


 にわかには信じがたく、僕は念を押した。


「なんだ、お前、俺を信じられないってのか。いいから、少し時間を稼いでくれ、準備ができたら合図するから、その時は避けてくれ」


 僕は半信半疑のまま、サイクロプスに向かって、魔術を放っていった。当てる場所を変えたりして弱点を探ろうとはしてみたが、相手をひるますことで精一杯だった。足場を崩すのは時間がかかりすぎてもう出来ない。


 背後で王太子は魔力を集中させている。王族の血を持つだけあって魔力の量はかなりのものだった。あとはうまく魔力を一点に集中させ、そして転換させることができるかどうかだ。しかし、安定感を欠いている。


「もう来ます。限界です」


 相手が巨大なので、距離感が掴みにくいが、もう相手の攻撃が当たる範囲にまで迫ってきている。異様な匂いまでこちらに伝わってきた。


「ウィリアム!!」


 僕がサッと横によけると、アーサー王太子は全力で魔力を変換させ、巨人に向かって解き放った。


聖王暴嵐陣テンペスト


 彼の両手から渦のような光が巻き起こり、そのうずは大地をえぐりながら巨人の体に直撃した。巨人は削られた大地と共に粉々に砕かれて吹き飛んでいった。渦は勢いを止めることなく、遠くの空まで吹き上がり、やがて上空にある厚い雲までぶち破っていった。雲にはポッカリと穴が開き、青空がかいま見えている。


 呆然と魔法の行方を見ていたら、王太子がいきなり倒れ込む音がした。僕はすぐに駆け寄った。


「魔力切れだ、大丈夫心配いらない」


 アーサー王太子はそういうとすぐに意識を失った。彼の横顔は上空の雲間から垣間見える青空のように晴れ晴れとしていた。


 ◇


 夕暮れの帰り道、僕ら3人は同じ馬車の中で揺られていた。ハイマンの元に最初の報告をしに来た護衛の人が、目覚めた後にふもとまで救援を要請しにいっていたのだ。


 王太子が意識を失ってすぐ、僕はジョージの容態を見にいっていた。彼は身体中の骨が折れていたが、急所は外していたらしく、即死ダメージは受けていなかった。


 ジョージはさすがというべきか、相当重傷だったにも関わらず意識はしっかりしていて、身動き一つできないのにも関わらず、「しばらく寝ていれば治るから、放っておいてくれ」と言っていた。


 もちろん、治癒の呪文で治してあげた。


 ハイマン以下3人も全員無事で、僕らとは別の馬車に乗っている。全てが無事で終わった。皆の奮闘があってのことではあったが、やはり、王太子の活躍なくては全滅していただろう。


「それにしてもウィリアムはすごいな。あんなに呪文を使っているのに魔力切れしないのか?」


 正面に座っている王太子が話しかけてきた。すっかり、具合はいいようだ。


「今の所、なったことはないですね。まあ、あまり、強力な呪文は使えませんし」


「いや、結構すごい魔法打ちまくっていただろう。なあ、ジョージ」


 ジョージは外の風景をぼんやりと見ていて、声をかけたがこちらを振り向くことはなかった。王太子は僕の方に耳打ちして言った。


「あれで、結構ショック受けているんだぜ。サイクロプスにやられたからな」


「ふん、お前の魔法なんて、まぐれあたりのくせに」


「なんだと」


 言い合ってはいるが、彼らは互いに信頼しあっているのを感じた。


「それにしても、アーサー殿下。すごい呪文でしたね。おかげで皆無事に生きて帰ってこれました」


 僕は凄まじい呪文により、地面がえぐられているさまを生なましく思い出しながらそう言った。


「すごいだろう。王家が誇る風の呪文の最高技の一つ、テンペストというらしい」


「それにしても、いつの間にそんな呪文が使えるようになっていたんですか?」


「いや、うまく行ったのは今回が初めてだ」


「えっ」


「一度も成功したことないよ。だけど、あの時はできる気がしたんだ」


 僕は少し気になったので、一言忠告することにした。


「王太子殿下」


「なんだ」


「王になるべき人間だったら、もう少し自重した方が良いと思います。あなたのかわりはいないんですよ。あなたが死んだら、王国としての痛手は相当なものだったでしょう」


「ハイマンみたいな物言いするなよ、ウィリアム」


 王太子はいつになく真面目な顔でそう言った。


「俺はさ、逃げるわけにはいかないんだよ。立派な王が、配下の人間を犠牲にして一目散に逃げるなんてさ。俺はもうすでに覚悟を決めている」


 彼の真意を聞き、僕は自分が言ったことが恥ずかしくなった。


「出過ぎた発言を許してください」


 王太子はじっとこちらを見ていた。そして、こう言った。


「ウィリアム。言っておきたいことがあるんだけど」


「なんでしょう?」


「もう王太子殿下っていうのはやめてくれないかな。アーサーでいいよ。だって、俺たちもう友達だろう」


僕はまじまじとアーサー殿下を見た。彼の顔は真剣そのものだった。


「分かりました。アーサー」


 二人で握手すると、横からジョージも手を出してきた。


「当然、俺も入れてくれよな」


「もちろん」


 3人は笑い合った。

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