No.30 「レオナルド」の話
「僕はさ、常にこのスクールにいた訳じゃなくて通信教育を受けながらモデルやデザイナーの仕事をしてたんだよね。両親と同じように仕事人間だったからさ」
「じゃあ何で大会に参加したんですか?もしかして、偶々その時いたからとかだったりして…」
「うん、そうだよ偶々。丁度仕事もフリーで長い時間いられたから記念に参加したらバッチをもらったの」
「いいですね、呑気で。そんな簡単にバッチが取れるなら苦労しませんよ。とは言え、私もカンナと同じ1年生の時に取ってますがね」
(なんだかんだ言って当時1年生しかいなかったヤンさんの方が取れる確実は高かったんじゃないかな…)
「だってしょうがないじゃん。良く考えればメイもキョウも大会に参加してなかったし、ガストンは3edリーグ狙いだったんだもん。チャンピオンリーグは選手層も薄かった。だから弱い僕でも勝てたんだよ。お嬢ちゃんも一緒でしょ?」
「えっ、私ですか!?去年のレベルがどうなのかは分かりませんが低くもないし高くもないと思いますよ。…個人的な意見ですけど」
「カンナ、貴方。内心舐めてるでしょ。そうですね、選手層が厚いといえばやはり私達1期生と5期生の時でしょうね。特に私達の時は大会の雰囲気も良かったですよ。貴方達の時とは違って」
「何自慢してんの?でもさ、守護者になったからと言って特別な事なんて何も無いんだよ。僕はスクールに全然顔出してなかったからその恩恵を受けてないのかもしれないけどね。それに僕が弱い事も変わらない。あの時もそうだった」
そのあとジュリオさんは俯き悲しそうな顔をする。
「あの時ってもしかして…」
と言いながらヤンさんの顔を見やる、すると彼は察したようだ。
「成る程、4人を捕まえようとした時ですね。確かジュリオが最後だったんですよね。捕まえるの」
「ちょっとやめてよ。そういう話を君の口から聞きたく無いんだけど。…僕が話すのも嫌だけどさ」
そんな会話を無視してヤンさんはしゃべり続ける。
「でもジュリオは手こずりましたよ。3人を捕らえた後夜が明けそうになるまで探してましたから。貴方、案外粘り強いですよね?」
「そうかな?泣きながら走り回った記憶しかないよ。でも、案外4人がかりだと1人を見つけるのって大変なのかな?オクトール諸島ってなんだかんだ言って広いし。でも流石に体力の限界もあるからヘトヘトになった所を捕らえられちゃったけどね」
「でも凄いと思います。仲間が捕らえたなか1人でも逃げようとするその精神力というか体力というか。ジュリオさんって自分の事を卑下するような言い方しますけどいい物を持ってると思うんですよ」
「煽てても何もでないよ。そんな事を言っても結果は覆らないしね。もっと自分に力があって強くなる為の努力をしていればこんな事にはならなかったかもしれない。だからこの前も訓練所で特訓してたんだよ。初めてだよこんな事。今までその場その場で生きていたのにさ」
「ですが、同じ事を30回やっても意味ないと思いますよ。はっきり言って非効率です。回数だけこなしても何も考えてなきゃ意味ないんですよ。大事なのは回想じゃなくて内容です」
その言葉にジュリオさんは目を見開き、ヤンさんの肩を掴み前後に揺らしている。
「何でその時言ってくれなかったの!!今までの努力が無駄じゃん!!」
「でも、強くなりたいって行動しようとする姿勢は悪い事ではないと思いますよ。私なんか合気道の稽古や剣の素振りをするぐらいで努力しようとなんて思いませんもん」
「これだからゆとりは」
「いや、ヤンに言われたくないんだけど。…成る程ね。努力し過ぎると当たり前の事になってくるのかな。僕も参考にさせてもらうよ」
そのあと、ジュリオさんは突然立ち上がり砂浜とは反対方向へと向かっている。
「何しにいくんですか?ジュリオさん」
「何って、これから皆んな僕のアトリエに来るんでしょ?迎える準備をしないといけないからさ、面倒だけどね。それでどこがいいの?パリやニューヨーク、他にもあるけどリクエストは?」
「私の実家があるベルリンは避けましょう。アジアとヨーロッパは避けるべきかと」
「なら、ニューヨークですかね?」
(…あれ?何でアジアはダメなんだろ?ウサマルさんやキョウさんがニホン出身だからかな?いや、待ってそもそもシュン君の伯父さんが亡くなったのもOB会に関係してる。…じゃあママの仲間がいる本拠地って)
色々考えられるがまずは救出した4人を保護するのが最優先だ。
「では予定通り2人を集めましょう。ウサマルは嫌がりそうですけどね。あの人ソファーだろうが椅子だろうが正座しますし寮もわざわざ畳に変える人ですかね。神経質ですよ」
「大丈夫でしょ、僕も一緒だし。ジャパニーズテイストも悪くないし変えたいなら変えるお金はあるから。…でもお金がいくらあっても戻ってこない物もあるんだよね。僕の腕とかさ。いやいいんだけどさ、左利きだし右腕がなくても生活出来るし。モデルの仕事は出来なくなるから裏方に回るしかないね」
とどんどん言ってて落ち込んでしまったのかその場でしゃがんでしまった。
「ジュリオさん、元気出してください。何か方法ないかな、腕を戻せる手段があるといいんですけど。…戻す?あっ!?」
「どうしましたかカンナ?」
「あの私もご一緒してもいいですか?キョウさんにお願いしたい事があるんです」
7月の満月の夜が終わり数日経った後のこと、ジュリオさんのアトリエに案内してもらうと室内には既にキョウさんとウサマルさんがいた。
キョウさんがウサマルさんに私が来た事を教えてくれている。
やはり2人の顔は勿論、ジュリオさんの腕も見ていて悲しくなる。
しかし、あの考えがあっているなら希望の光を見せてあげる事が出来るかもしれない。
そう考えているとキョウさんが笑顔で挨拶をしてくれる。
「カンナちゃん久しぶりだね。僕に話したい事があるって聞いたけど何?」
「以前キョウさんが使っていた白の液体になった水槽がありましたよね?それを使ったら皆さん目や腕が無くなる前に戻れるんじゃないかなと思って。父が皆さんを手術する前に時間を戻すんです。私達の体も幼くなりましたし可能なんじゃないかな?と思いまして」
その言葉に4人は目を見開いている。
キョウさんでさえ、その使い方を考えた事がなかったのかもしれない。
「確かに《白百合》を使えばタマミもロリになったし《黒薔薇》を使ったら時間が進んだのか元に戻った。全身に使うのは危険だけど目だけとか部分的にやったら余りリスクもないよね。じゃあ僕が実験台になるよ。あの時確認しておけばよかったね。動転してたから視力が戻ったなんて気づいてないよ」
そのあと、キョウさんに目だけ白の液体につけてもらうと私の考え通り視力が戻ったようだ。
しかし、キョウさんは顔を顰めている。
「キョウさん、大丈夫ですか?」
「僕、カラコンしてるから元々視力悪いんだよね。片目でもあんまり変わんないかも。眼帯つけて厨二病ごっこしてる方が楽しいかな」
その言葉に苦笑いするしかなかった。
そのあともウサマルさんやジュリオさんに試してもらう。
無事に成功したが、亡くなった皆さんの事を考えると後悔してしまう。
もしこの方法がもっと早くわかっていれば全員を救う事ができたかもしれないのだ。
キョウさんに全てを押し付けるつもりはない。
でも可能性があったと考えると色々考えてしまうものだ。
そんな事を考えているとヤンさんが頭を撫でてくる。
「ヤンさん、やめてください。私の事なんだと思っているんですか!?」
「そうですね。犬でしょうか?寂しそうな顔をしているのでついやってしまいました。人間なら妹ですかね。Dr.は家族だと思っていましたし、貴方も同じです。…カンナ、貴方は全てを背負わなくていいんですよ。自分の責務を全うしなくていいんです」
その言葉に違和感を覚える。
だって運命に従ってきたヤンさんがそんな事をいう人だったなんておかしな話だ。
「ヤンさん、貴方どういうつもりですか?何か企んでいませんか?」
「別に、何も。私も吹っ切れましたから。私は大層な人間じゃありません。じゃがいも畑を作っている時が一番充実していましたから。…もしもなんて考えなくていいんですよ。どうせ偉大な人物でも底辺の弱者でも死ぬ時はみんな一緒です。使命を終えた者から消えていくそうでしょ?」
「えっと、意味がわかりませんけどもしかして私を元気付けようとしてくれてるんですか?」
「貴方がそう思うならそれでいいでしょう。後は私達に任せて貴方はゆっくり休んで下さい。夏季休暇を無駄にしないで下さいね」
そのあと、皆さんと別れニホンに帰国した。
次はガストンさんとの戦いだ。あと2人。
私はどれだけの人を救う事ができるのだろうか?
そう思い空を見上げると月が輝いていた。
No.30を読んでいただきありがとうございました。
ぶっちゃけジュリオって回想だと書く事がないんですよね。
スクールから離れていたので生徒との関係も書きづらいですし、現在進行形という形でやらせていただきました。
プロムには参加していたので守護者同士の戦いの時に4人が揃いはしたのですがやはり連携が取れていませんでした。
次はNo.31「すれ違い」をお送りします。




