No.10 犬猿の仲
ある昼下がりの事、昼食を食べ終え気分転換にと思った俺は、庭園の方に向かうと誰かが口論しているような所を見かけた。
「ヤメテグダサイ。離シテグダサイ」
「嫌ヨ。それはレイカの大切な物ネ、何でイブが持ってるヨ!!我がイブに返すアル!!」
とイブさんとシャンランさんが何かを取り合っているようだ。
「2人ともどうしたんだ?喧嘩は良くないぞ?」
その俺の声に2人は「ピタッ」と動きを止める。
そのあと、2人は互いに見つめ合いながらも気まずそうにしている。
「シャンランサンガ私ノペンダントヲ返セト言ッテキタンデス。デモコレハ渡セナイト言ッタラ揉ミ合イ二ナッテシマイマシタ」
とイブさんが持っているペンダントを見せてもらう。
すると奇妙な事に気づいた。
所々錆びているのか茶色っぽく見える。
何だろうかこの胸騒ぎは、ずっと昔に嗅いだ事のある匂いに似ている。それに鉄臭いのだ。
まるで伯父さんの時と一緒のような…
「どうしたヨ、シュン?何かおかしい事でもあったネ?」
「…いや、何でもない。昔の事を思い出してたんだ」
その言葉に2人は首を傾げているが、ここで一から話す事でもないので2人に話しかける。
「これがレイカさんのペンダントなのか?でも、どうしてイブさんが持ってるんだ?」
「ワカリマセン。デモ、ワカルンデス。コレハ大切ナ物ダト。大切ナ人ガ写ッテイルカラ」
その言葉にある事を思い出した。
確かハロウィンの時レイカさんが「自分に似た女の子に見せてもらって」と言っていたが、それはカンナさんではなくイブさんの事だったのかと理解した。
自分の答えがあっているか確かめる為に、許可も無くペンダントの蓋を開くと3人の家族写真が入っていた。
レイカさんとその腕に抱かれている幼い頃のカンナさんと、その2人を優しく見つめる理事長の姿もあった。
「これをシャンランさんレイカさんに返せと言ったんだな?」
「当たり前ヨ、それはレイカの物ネ」
「でも、レイカさんはイブさんの事を知っているんだ。だから持たせているんじゃないのか?イブさん、レイカさんと面識は?」
「レイカ…何デショウ凄ク懐カシイ感ジガシマス。デスガ、私ハ面識アリマセン。ソノ、レイカサンハドコニイルンデショウカ?」
確かに、あのハロウィン以降レイカさんを見かけていない。
彼女は今どこにいるのだろうか?
校舎内にいるのは間違いないだろう。
(もしかしたら地下にいるのかもしれないな。あそこは1度も行った事がない。今夜行ってみるか…)
と考えていると、イブさんが声をかけてくる。
「シュン君、オ願イガアリマス。コノペンダント貴方ガ持ッテイテハクレマセンカ?コノママでは拉致ガ開キマセン。ソレニ、私ハモウスグ此処ニ来レナクナリマス。コレヲ、アルベキ所ニ戻シテハクレマセンカ?」
「来られない?どういう事だ、イブさん?」
「Dr.ノ準備ガデキタソウデス。私ハ長期間此処ヘ戻レマセン。皆サンニモ伝エテオイテ下サイ」
その言葉に俺とシャンランさんは目を見開き、目を合わせる。
「どう言う事ヨ?嫌よ、お別れナンテ。イブ、我謝るヨ。ごめん、だから我の事嫌いにならないでヨ」
その言葉にイブさんは悲しそうにしながらも笑みを浮かべている。
「私モ別レタクアリマセン。デモ、仕方ナイノデス。ソレガ、本来私ガ作ラレタ理由デスカラ。シュン君、アリガトウ。ニホンノ昔話ト同ジデスネ。犬ト猿ガ喧嘩シテイタラ鳥ガ仲直リサセテクレルソウデスネ」
その言葉を最後にイブさんは校舎の方へと戻っていった。
その日の夜、人がいないのを見計らい校舎の中へ入りレイカさんを探す為、エレベーターに乗り込んだ後ボタンの下にある蓋を開き読み取り機に以前もらったカードを翳す。
以前、人工的な繰り上がりの為に顕現の授業前に来てほしいと言われたが自分には必要のない事だったので地下に行く事はなかった。
関係者がいるのは地下5階だ。
カードキーを持っているので警戒される事はないだろうが、それでも緊張してしまう。
一呼吸入れ、事前に預かったペンダントを握り締める。
地下5階に着くと、真っ暗な廊下が続いていた。
かろうじて床にライトがあるので、その通りに進めば誰かに会えるだろう。
そのまま進むと、黒い両扉が見えた。
中に何があるか、その恐怖心と好奇心が混ざり合い扉に手をかけるものの躊躇していると中から犬の鳴き声がする。
(こんな地下に動物がいるのか!?というか気づかれたのか!?)
混乱していると扉が開かれ、青い瞳がこちらを見つめてくる。
少しずつ開けられるとその姿が見えてきた。
色白の金髪に青い瞳、背は俺の10cm上175cmぐらいだろうか?
頭には黒の軍帽を、そして同じ色のYシャツにグノムアランド寮のネクタイをしており、それを包むように黒革のロングコートを着ている。
「ブロンディが吠えるなんて珍しいですね。貴方は敵ですか?
Dr.の関係者の方ですか?」
と聞かれた俺は恐る恐るペンダントを彼に渡す。
相手も理解してくれたのか、返してもらった後扉を開け案内してくれる。
よく見ると、ロビーのような部屋の奥の方に彼の守護霊なのだろうか?サイが眠っているようだった。
「Dr.はここから3時の方向にいらっしゃいます。私達は此処におりますので困った事が有れば声をおかけ下さい」
「わかった」
3時の方向、東という事でいいのだろうか?
彼の言葉通り進んでいると、隼が辺りを見渡し警戒しているようだ。
『坊っちゃん、危険じゃありませんか?敵の本拠地みたいなもんじゃろ?』
「でも、カードキーを持ってる人は行き来出来るならそこまで危険じゃないと思う。少なくても関係者なら敵意を向けて来ない。それにレイカさんがいるなら話を聞きたいんだ。イブさんとの関係性についても」
そのあと、恐る恐る廊下を進むと今度はガラス張りの部屋が見える。そこに誰かいるようだった。
白衣を着ており、茶色の髪にカンナさんと同じ黄緑の瞳を持つ男性。
写真で見た時より、白髪混じりのボサボサ頭になっており、少し窶れているようだが理事長本人に間違いないだろう。
何かの資料を見ながらタバコを吸っているようだった。
しかし、その顔はクマが深く皺を深くし不機嫌そうに見える。
こちらに気づくと更に不機嫌になったのか俺から遠ざかってしまう。
(ま、まずいな。カンナさんのお父さんに嫌われてしまった!!)
こういうのは第一印象が大切だと思っていたのに悪い印象を与えてしまったようだ。
落ち込んでいると誰かに声をかけられる。
『あら、こんばんは。ハロウィンの時以来ね。何しにきたの?』
その声に気づき振り返るとレイカさんがいた。
「レイカさん、こんばんは。これをイブさんから貴方に渡して欲しいと頼まれたんだ」
と握っていたペンダントをレイカさんに見せる。
「そうあの子が…。でも、死んだ私が持っていても仕方ないものね。ごめんなさい。迷惑かけることになるけどカンナに渡してもらえないかしら?主人に渡しても貴方が警戒されるだけだもの」
「…あの、もしかしてイブさんは理事長がしようとしている「人体蘇生」の実験体なんでしょうか?」
『えぇ、今最終段階まで来てるわ。だから、主人も神経質になっているの。…この実験を成功させて私を生き返らせたいのね。私はここにいるのに』
その言いながらレイカさんはガラス越しにいる理事長を見つめている。
何となく、レイカさんと伯父さんの立場が似ているような気があるのだ。
だとすれば理事長は祖父と一緒なのだろうか?
「レイカさん。俺、理事長にひとこと言ってきます。このまま悪い事されても嫌ですから」
『えっ!?ちょっとシュン君!?』
研究室の扉を開け、理事長の元へと向かう。
理事長はずっと俺達を見ていたのか、更に不機嫌になり奥へと隠れてしまいそうになるが、それ以上に俺が早く彼を追い込み壁際へと理事長を誘導する。
「こんな時間に何の用だ。研究室の見学やってないぞ。大人しく帰ったらどうだ?」
「ではひとこと言ってから帰ります。理事長、貴方は俺の祖父とよく似ている。人を亡くした悲しみを復讐という形で補おうとしている。俺じゃなくてカンナさんから言われた方が説得力があるかもしれないが、人体蘇生してもレイカさんは帰ってこない。生き返ったとしてもそれはレイカさんじゃない、別の人間だ。貴方だって気付いているでしょう?イブさんはレイカさんの遺体を使ったレイカさんの紛い物に過ぎない。貴方がやるべき事はもっと別の事だ。今すぐ守護者を解放して下さい。彼らもこの実験に関わっているのは知っています。…私情だが、その中にはメイさんもいる。彼女を母国の家族の元に返してあげて下さい。貴方にも子供がいるでしょう?何年も会えない家族の悲しみを理解してあげて下さい。お願いします」
その言葉に怒られると思ったが、思ったより冷静に話を聞いてくれた。
「シモダイラ・シュン。1stリーグの番人。大会は見させてもらった。未来の守護者候補を消すのは惜しい。君の言う通りだ。先程も君は妻と話をしていたのだろう。しかし、私は彼女の姿も見えないし声も聞けない。だから、私は実際に彼女の姿を見て、声を聞いて安心したいんだ。それに物事には優先順位がある。私の目的は妻を生き返らせる事だ。他の事は彼に任せておけばいい。私はこの実験を止める事は出来ない。そうしなければ永遠に妻に会えなくなるからだ。守護者以上に私は沢山の時間を犠牲にしてきた。それでも何か反論が?」
「なら警告しておきます。レイカさんもカンナさんもそして貴方も利用されているだけだ。貴方に全ての責任を擦りつけてのうのうと逃れようとしている人達がいる。…俺の家もその一つだったんです。以前、カンナさん達がきっかけをくれて今は祖父も深くスクールと関わらなくなりました。今は出来るなら家族や仲間の力になりたいと思っています。理事長、どうか目を覚ましてください。お願いします」
「君は一体誰の味方なんだ?私の仲間ではないだろう。カードキーを渡した憶えはないぞ。というと、彼か…。帰った方いい。彼もここにいる、話を聞かれたらお終いだ。忠告ありがとう。それと君が持っていたペンダントは娘に渡してくれ。私より君の方が信頼されているだろう」
「分かりました。理事長は外見は怖いですけど、中身は優しいですね。うちの祖父や伯父さんと一緒だ」
「…さっき妻は私の事を話していたのか。若い頃同じ事を言われたような気がする」
その言葉に首を傾げるが、理事長に背中を押され地下から地上へと戻った。
そのあと、2人の言葉通りカンナさんにペンダントを渡そうと思ったが時間が時間なので日を改める事にした。
忘れないように、渡す事を手に書いて置いたので安心だ。
そのあと、寮に戻り1日を終えた。
No.10を読んでいただきありがとうございました。
この話を書いてる途中作者もハラハラドキドキしていました。
「シュン、ダメだ早く戻れ!!」「いいぞ、シュンもっとやれ!!」と脳内で天使と悪魔が戦ってました。
シュンが持ってる情報ですが、ケンシロウのやりたい事は理解していてもいいかなと思い「人体蘇生」についても以前から知っていた事にしています。
カンナちゃんが理事長の娘であると言う事も以前から知っていました。
だから、初対面の時「わざわざありがとう」とかペアになった後も「カンナさんが一緒だと心強いな」と言っていました。理事長の娘だから守護霊の扱いに慣れているのではないかと思ったからですね。
この話でもそうですし、ハロウィンでレイカと話をしたときもカンナが「利用されている」と言っていましたがケンシロウに全ての責任を擦りつけてようとしている人達がいるからですね。
娘であるカンナにもそれが降りかかるとシュンは思っていたからです。
シュンはケンシロウとカンナが長年会っていなかった事については知らなかったので勘違いもあるかもしれませんが持ってる情報はケンシロウ関連だとこんな感じですかね。
物語上、ケンシロウは言ってしまえば表の黒幕です。
序盤というか、第1部で目標となるような敵がいないとつまらないですからね。
この作品、キャラクターが自分の目的の為に色々な形で動いているので作者の中だと黒幕は2人としていますが解釈によっては3、4人と増える可能性があります。
自分の目的の為なら手段を選ばず、自分含めて色々な人や物を犠牲にしてきたのは共通しているからですね。
作者の中で黒幕は「嘘をつかせない」ようにしているので黒幕の言葉は嘘ではなく真実の言葉です。
冷静さの中に狂気がある人達なので1番怖いタイプですね。自分の欲望に忠実です。
次はNo.11「幼馴染」をお送りします。




