20話 森の中の小屋
森の茂みに足を踏み入れると地面から伸びる所々に生えている蔦状の植物に歩みを邪魔される。
なかなか歩くにも苦労するので、こんな環境で魔物に襲われたら上手く立ち回れるか心配になった。
マルルがいたら今以上に困難な状況になっていただろう。
もっとも危険がありそうだと感じた瞬間に引き返しているだろうけど。
僕はそれでも進めるだけ進んでみたいと冒険欲にも後押しされて鬱蒼と広がる辛うじて木々の隙間から陽射しを取り込んでいる緑の秘境へと意識を没入させていく。
集中はしている。
気配を感知しながら何かいないか、不意打ちを受けないようにして警戒しながらゆっくりと一歩一歩踏みしめていく。
振り返れば僕の通ったところに轍道が出来ているのでトラブルがなければ帰りには困らないだろう。
途中猿や鹿のような魔物と遭遇したが今の僕の敵ではなかった。
LVが上がったステータスでならこの森の魔物なら問題なさそうだ。
足元が慣れないのは難点ではあるが、そのハンデも含めてもまだ余裕があると言える。
ただ、僕の剣の劣化を感じ始めていたので、新調することも今後考えていかなければならないな。
その後数十分、数時間は歩いただろうか。
時間の感覚を失い始めたころ、視界の遠く先の方には小屋のようなものが見える。
え?小屋・・・?
なんでこんなところに?
僕は念のため”探知”と”感知”に算術ポイントを振って様子を窺ってみる。
そこには生命反応が1つ。
魔物ではなさそうな感じがするがこんなところに人が果たしているのだろうか。
次は音を立てないように隠密行動にポイントを振り直して近づいてみた。
スキルを昇格させることで『暗影』スキルへと変化させていれば自分から発せられる物音や息遣いですら遮断して隠れることが出来る。
小屋には小さいながらも採光用の窓が付いていて、隙間から中の様子を見ることができそうだった。
他人の家であれば趣味の悪い行動ではあるが、こんな魔物蔓延る森羅にぽつりと建っているのだからこの行動は許して欲しい。
こっそりと、スキルを使っているとは言え、それでも静かに慎重に中を確認すると、そこには漆黒の肌に耳の長い人型の生き物が生活をしていた。
ごくり。
僕の人生で見たことも聞いたこともない人種だ。
もちろん僕の知る世界はソナニ村と今はネクトスの町だけだから知識不足は否めない。
でもある程度は村長からの教育で人種についても習っている。
あれは一体・・・なんという種族なのだろうかと頭を抱えていると突然玄関のドアが開き、風が吸い込まれていく。
不思議と僕の体も引き寄せられていき、玄関の前までおびき寄せられてしまった。
「おやおやおや、こんなところに子供が迷い込んでしまいましたか。その姿を見るに冒険者といったところですかね」
玄関を挟んで対面してしまったその黒い種族は丁寧な言葉で喋り出す。
口調からは敵意も歓迎しているとも取れない微妙なニュアンスだった。
思ったよりも上背が高く、全体的には細見と思われる。
中性的な声質と見た目で性別は判断しかねる。
全体を覆うようにローブを着ているのでボディラインからも決定的な情報はなかった。
僕は勇気を出して声を出す。
「あなたは・・・なんでこんなところにいるんですか?」
あなたは何なんですか?ほんとはそれが知りたかったが、あまりに不躾だと思ったので遠まわしに情報を聞き出す糸口を探す。
「ふふふ、さぁ、私はなぜこんなところにいるのでしょうね」
惚けるように言って、ニヤニヤと不気味に笑うので僕は段々と嫌な予感を空気から察知する。
「あなたは・・・何者ですか?」
「君こそ何者なんだい?私の見立てでは君は冒険者だろう?そしてまだ経験は浅いだろうね。もっとも実力はなかなかありそうだが。どうだい?私の見立てでは君はまだここへは来るべきではなかった」
ふふふと不気味な笑みを浮かべる漆黒の肌を持つ相手に僕は冷めた汗を垂らし一歩後退りすると一瞬で僕の後ろに湧くように現れる。
目をつぶっていたわけでもないのにいつの間にか自分の背中に移動している現実が僕を恐怖に貶める。
「ふふふ、君は面白いスキルを持っているね」
囁くような声を耳元で放ち、僕は総毛立ち警戒を最大限に上げすぐにそいつとの距離を取るように横へ飛び退く。
その先にもそいつはなぜか待ち伏せている。
訳の分からない能力と思考回路がごちゃまぜになってきて冷静を保つことはもはや叶わない。
逃げることも容易くはない。
おしゃべりな謎の人物から僕はどうにか機を模索する。
「僕はポーツって言います。あなたの名前は?」
僕の言葉を聞いて、ほう、と嗜めるように舌なめずりをしてからそいつはある程度の距離まで離れた。
「ふふふ、なかなか礼儀を弁えているね。私は丁寧な態度には好感を持つよ。そして不躾に君を憚ったことの謝意として自己紹介をさせて頂こう。私の名前はギャダル・ピオ・サスルーン、魔神の代弁者たるブラックエルフだ」
ブラックエルフという種族は聞いたことがない。
ただ魔神の代弁者という呼称は村長に聞いたことがある。
かなり昔の話で記憶は朧気ではあるが、かつてこの世界の創成期に繰り広げられてきたとされる聖魔神戦争で争ったのが神聖派閥であるエルフと神魔派閥の魔人だったはずだ。
そして魔人とは魔神の代弁者と呼ばれていたと古い文献に残されていたらしい。
その魔人がこのブラックエルフという種族なのであれば魔神の代弁者というのは合致するかもしれない。
だが本当に魔人とブラックエルフがイコールなのかは確かめる術もない。
いや、もしかしたら『鑑定』を使えば分かるかもしれない。
魔人かどうかは分からないまでも相手の強さなら少しは計れるかもしれない。
そう思って僕はギャダルと言ったブラックエルフを『鑑定』した。
■■■■■■
☆ギャダル・ピオ・サスルーン
☆ブラックエルフ
☆ステータス
個体LV ****
基礎体力 ****
身体筋力 ****
保有魔力 ****
精神知力 ****
天運気力 ****
創造器量 ****
☆スキル
****
■■■■■■
そう思い通りにはいかないか・・・残念に思っているとギャダルは不敵な笑みを溢す。
「そう焦る必要はないよ。僕を覗いたっていいことはない。それに今の君には私の相手をするに値しない。つまり今君との会話は私のただの気まぐれであり暇つぶしなのさ。どうかな?ポーツ君。それでも私にまだ興味があるのであれば君を大事に想う者を泣かせることになるのだが?」
僕が鑑定したことすら見破られていることを知り、その得体の知れない、底の見えない実力に僕は絶望した。
それでも興味を失ったかと言われれば、そんなことはなかった。
怖さと同時に不思議と好奇心も抱いていたのだ。
「そうみたいですね。それじゃあ僕は帰ります。お邪魔しました」
何故か名残惜しい気持ちが高まってきてつい付け足すように聞いてしまった。
「あの・・・またいつか会うことはできますか?」
ふふふと笑ったかと思ったら、その笑みは消え、
「次に会う時があればその時は敵か味方か。それを決めるのは私じゃない。君なのだよ。その時を楽しみにしておいてあげるよ」
そう言い残して霧のように小屋事消えてしまった。
僕は小屋があったはずの空間をしばらく眺めてから町の方向へ振り返って進んでいく。
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