表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/11

母の愛

学校を出ると、遠野(とおの)が迎えにきていた。風真(ふうま)と遠野の(すす)めもあって、(まい)を家まで送ることになりーー


夜、茉莉(まつり)は布団の中でなかなか寝付けないでいた。

そわそわと落ち着かない。だが決してそれは不快なものではなく、むしろ幸せな高揚感(こうようかん)だった。


茉莉は今まで同性の友達がいなかった。だが帰りの車の中で、舞とたくさん話すことが出来た。

やはり舞は本が大好きで、本の話題になると思いの(ほか)饒舌(じょうぜつ)になってくれて。

彼女が言うような嫌な思いなど一つもしなかった。それどころか楽しい時間を過ごせたのだ。

()()きで、お互いを名字ではなく名前で呼ぶことにもなった。

もし学校以外で遊ぶことになったら、何をすればいいのだろう。


街で一緒に買い物とか、甘いもの食べに行ったりとか……?


そんなことを考えながら目を閉じた茉莉は、ほんのり嬉しい気分で眠りに落ちていった。


          ※


ため息を吐きながら、颯馬(そうま)は制服のネクタイを外す。

今日もまた、京華(きょうか)とその友人とやらに付き合わされた。本当に暇な奴らだ、とつくづく思う。

結局自室に戻ってこられたのは、夜も遅い時間だ。


(ふすま)の前に立っている颯馬は、少しの間考えに耽る。

京華の友人達からの自分の印象は上々だ。京華には、愛想笑いが少しはマシになったとも言われた。颯馬の口の()が吊り上がる。


こんな作り笑いであんたが満足するなら、いくらでもしてやるーー


何年も前から、茉莉には作り笑いすら見せていない。自分の感情を押し殺し、表情を取り(つくろ)うのに必死だからだ。

だが当主の祝いの会の日に、茉莉が矢島に襲われた時はだめだった。

内心の様々な感情が抑えられなかった。自分の表情や声音、態度がいつもと違うことに茉莉なら気付き、不思議に思っただろう。


あの日から今までの全てを、台無しにするような失敗だった。


今の状況が辛くないと言えば嘘になる。

だが、これは罰だ。

茉莉を守れなかった自分のーー


いつの間にか、颯馬は口を引き結んでいた。


制服ズボンのポケットが震える。颯馬はポケットからスマホを手にし、着信相手の名前を見てから電話に出た。


「……どうしました?」


しばらく黙って相手の話を聞いていた颯馬の口元が、知らず(ゆる)んだ。


           ※


『まつり……茉莉……』


懐かしい声だ、と(おぼろ)げに茉莉は思う。

気付くと目の前に母親がいた。細く薄い身体、青白い顔、悲し気な表情ーーそんな母親の姿に、茉莉は違和感なく受け入れる。

これが茉莉の知っている母親ーー(さくら)のいつもの姿だった。 


『お母さんが愛してあげるからーーそれ以上は何も望んじゃだめよ、茉莉』


桜が言う。強く念を押すように。茉莉を縛り付けるようにーー


昔、何度も何度も桜に言われてきた言葉だ。


急に桜が険しい顔になった。茉莉には初めて見る顔つきだ。


『どうしてお友だちを作ったの? あなたに関わった人は、みんな不幸になるのにーー』


はっとして、茉莉は目を覚ました。

夢だったのに、母親である桜の姿や声がやけにこびりついている。

思考がそちらに引っ張られそうになるのを振り払うために、茉莉は頭を軽く左右に振った。

まだ辺りは暗く、静かだ。茉莉は自分がしっとりと汗をかいていることに気付いた。


母親の夢を見るのは久しぶりだった。

いつも少しだけ目覚めは悪いが、今は最悪だ。

母親は自分を愛してくれた。あの当時、きっと誰よりも。

だが、歪んだ愛だった。

母親自身も離れから出ることはなかったが、茉莉を離れから出そうとはしなかった。外に出ることを、許さなかった。

格子窓から見える外の世界は美しく魅力的で。茉莉は思いっきり飛び出して行きたかったけれど、母親を悲しませたくなくていつの頃にか諦めた。


そんな母親だったけれど。

あんなことは言わなかった。

茉莉に関わった人はみんな不幸になる、などとはーー

でも、でも、そうか。


「あなたもそうだったね。私がいなければ、この家に縛り付けられることはなかった…。ごめんなさい、お母さん……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ