隠しボスの名前と約束
静寂に包まれたトレーニングルームでは緊迫した状況が続いていた。
漆黒のマント羽織る隠しボスは先程から目を閉ざしたまま動かない、スバルに指摘された言葉と自身の状況から答えを導き出す為に考えているのだろう。
スバルはとりあえず自身のトレーニングルームから全員で離脱したかった、考えて出したスバルの答えは隠しボスにとっては半信半疑にしか感じない…しかし、ここから出られ自由になれる、と少なからず隠しボスは考えている。
「………小僧、一つ聞こう。…お主は妾の従属するこの強制的な効果を取り除けるか?」
恐らく…無理だろう、スバルはそう感じていた。アップデートの瞬間に事故が起きて多数の死者が出たシステマキングスを見た…その後エデルが創造した星がシステマキングスを基本にした星なら、隠しボスの扱いも効果も変わらないはずだ、箱庭のトレーニングルームにも隠しボスの出現がある以上…。
しかし、可能性が無いわけではない。それは…創造された星に行けば扱いや効果は分からないし、効果を取り除ける方法が存在する可能性はある。
「………すまんな、俺にはその効果は取り除けない。だが…可能性は薄いが、もしかしたら?と言う可能性を提示する事は出来るがな?」
「………そう、であるか。可能性のぅ…ふむぅ。そうなると…妾より…むぅ…」
スバルの問い掛けに、中途半端な受け応えのみで返す隠しボスは、再度目を閉ざして考えている。
「…今の内にコンソールまで行けませんかね?」
「………無理、隠しボスが見逃さない…」
「あらあらまあまあ…全員が無理でも…一人なら離脱出来そうですわね?」
ヒソヒソと話をする三人はどうするかを相談している。隠しボスもそれは分かっていたが、対峙するスバルと今後の自身の行動について考えさせられていたから動こうにも動けない。物言いをスバルにされてるのだから。
実はこの時…隠しボスはスバル達に倒されて従属しても良いと思っていたのだ。しかし、自分は隠しボスの設定である為ステータスが強すぎるのだ…生半可な攻撃力では倒してもらえない未来しか視えないのである。
唯一互角の可能性を秘めた目の前のスバルでさえ、防戦一方なのだから。
仮にスバル達以外に倒せる者の出現を待つだけとは言ったが、スバルがランキング一位であると先程聞いた隠しボスにとっては最悪な状況である。
「その………お主が提示する薄き可能性とは何じゃ?」
「…お前が俺達のパーティに加わる事、つまりは従属して共に転生するって話だ」
此奴…分かっておるのか?お主らが妾を倒せる可能性が無いから妾も悩んでおるのじゃぞ?
「お主は意外と阿保なのか?妾は今までの経緯から、お主らになら従属しても良いと判断しておる…じゃが、お主らは妾を倒せるだけの力を持っておらんでは無いか…」
「え?!従属しても良いんですか!?」
「…なら!…話は変わってくる!」
「ええ…時間はまだありますから力をつける事が出来ますわね!」
ヒソヒソとスバルを逃がそうと算段をつけていた三人は隠しボスの話を聞いて算段を取り消し話す。
「…従属しても良いのか?…ならここから逃がしてもらわなくても良い、俺達はまだ強くなれるしな」
「…何じゃと?…妾の攻撃を受け生きているだけで十二分に強いのじゃ、更にお主は受けておらん。…お主は防御に関しては妾と同等な技量を持っておる、それより先があるじゃと?」
そう、俺達にはまだまだ強くなれる先があるのだ。俺に至っては…さらなる先…到達したプレイヤーは恐らく俺しかいないであろう忌み名シリーズ。
こんな危機的状況になったのは訓練の順番をミスらせた俺のせいだ、俺は…忌み名シリーズを言うか迷っていたんだからな。
もし忌み名シリーズをパーティ全員で目指していたなら、こんか状況になっているはずがない。俺の責任だ。
俺が死んでしまう状況ならどうでもいいんだ…でもな、初めて出来たパーティの仲間達には死んでなんて欲しくない。
「勿論ですよ!ねぇスバル!」
「スバル…私達の真の力はまだまだ…ある!」
「上級職も関係あるんで最高地点…ではありませんが、まだまだ強くなれますわよ?ね?スバルさん!」
三人は俺を見つめて先を見据える良い目をしていた。…ああ、俺は…。ある意味、友達に、仲間に、これから共に旅をするって皆んなに隠し事をしていたんだな…。
途端に罪悪感が胸を締め付ける痛みと共に、自然と涙が流れ出たスバル。
「………皆んな…本当にご、ごめんな…俺は、俺は……!」
突然の出来事に三人は戸惑う、隠しボスもどうしたのか?と言う表情だ。
「お主は何を泣いておるのじゃ?怖いのかのぅ?」
「…いや違うんだ!……俺がもっと早く…皆んなに伝えていれば!こんな状況にはならなかった!俺は…言い出せなかったんだ!…ナインシリーズの先にあるスキルの事を…!」
三人は驚愕するしかなかった、勿論スキルの情報を伝えてもらわなかったからではない。ナインシリーズでさえ知らなかった情報であったシエンやアカリ、知っていたリイサもナインシリーズの先があった事実に。
「…すまない皆んな、俺は隠していたんだ…言えなかった、迷ってしまったんだ!…本当にごめん…」
スバルは罵詈雑言すら覚悟の上だった、しかし。
「………気にしないで下さいよ!もう、急に涙を流したから驚きましたよ、システマキングスをプレイしていたプレイヤーなら気持ち…充分に分かりますよ?僕だって、ナインシリーズを教えて頂いた事で返しきれない恩がありますし、僕を…正してくれたじゃないですか?はぁ、安心しましたよ」
良かった、と言う表情を浮かべ話すシエン。少し前にシエンとはぶつかり合い、お互いを認めた男と男の友情と表現する様な感情も二人には芽生えていた。
シエンはスバルに何ら猜疑心も浮かばないし、スバルがおかしくなった訳では無いので安心しながらも、ナインシリーズの先、の言葉を聞いて寧ろ有り難かった。
「…熱い熱い友情!…私は熱いの苦手…でも今日だけ…ハグしてやろう」
何故かスバルをハグしだすアカリではあるが、彼女なりにスバルを気遣った行為だったのだろう。スバルは顔を赤くした固まるしか無かったが、アカリが離れるとその表情に涙はもう無い。
「…ふぅ、スバルさん…本当に心配しましたよ?隠し事の一つや二つ普通にありますよ?いちいちそれを気にしたらキリがありませんし!システマキングスをプレイしていた私達をもう二度と舐めてはいけませんよ?…あの時みたいに、もう」
リイサには前かがみになりながら言われてしまう。…目線のやり場に困る、巨乳だからやめて欲しいが…ありがとうございます。最後の方は聞き取れなかったが、こんな風に考えられる程に落ち着きを取り戻せた。全てを吐き出して仲間に打ち解けた俺は、仲間に感謝した。
「……………羨ましいのぅ…」
誰にも聞こえて無い程にポツリと呟いた声…悲しい声だった…。
隠しボスは羨ましそうな目で四人のやり取りを静観していたが、声を低くして口を開く。
「………いい加減にしてもらえんかのぅ?いつまでだらだらと友情遊びをやるつもりじゃ!」
羨ましい、と呟いた隠しボスは何故だか怒り憤りを募らせながら吐き出していた。自分にも分からなかった。
「………羨ましいって言ってたの、聞こえてたよ、俺には……だから!倒してやるから!一緒に旅しよう!お前もさ!」
聞こえていたとは知らず面の下の頬が赤くなる隠しボス。
「…な、な、何を!?べ、別に羨ましくないのじゃ!そ、それに妾はには立派な名がある!お前、ではないのじゃ!」
羨ましいんだなぁ、とシエン、アカリ、リイサの三人にもジト目で視線が向けられる隠しボス、言葉にも動揺が見て取れる辺り明白な事実だった。
「なら教えてくれ!…お前の名前は?」
「…じゃから!くぅ…!妾の名を聞いて震えるが良い!妾の名はファントム・ペインじゃ!」
「ふふっ、ありがとう…ペイン」
「お主は…!はぁ、疲れるのじゃ…して!妾を倒す算段はあるんじゃろうな!お主の言うたナインシリーズ?とやらの先に!」
あるさ、だって忌み名シリーズは…本当にチート級な効果ばかりのスキルなんだから。
システマキングスでプレイヤーに使用したのは二回だけだったがな、他はモンスターにしか使用した事はない。
「…安心してくれ、恐らく一撃で倒せる…ペイン次第ではだが」
「妾…次第じゃと?どう言う意味じゃ?」
「全部言わなくても良いだろ?…ペインと本気の戦闘を経験したいんだよ俺は。…皆んなには悪いんだけど…」
言いながら三人に目線を送るスバル、三人は互いに視線をやり取りしてやれやれと言った表情で頷いてスバルに返す。
「…ふん!分かったのじゃ!ならばこれからどうするのじゃ?お主は」
「ひたすらナインシリーズ習得に励む、それだけだ。…恐らくは、五日あれば間に合うはずだ」
「五日じゃと?妾はどうなる?この状況はどう解釈するのじゃ?」
確かに盲点だった…いつもはモンスターやボスを倒してからトレーニングルームから移動するが、倒せなかった場合の解釈は考えて無かったな。
「………少し待ってくれ、ムースにメッセージを送る…」
「…ムース?誰じゃそやつは?スバ…お主らの違う仲間か?」
スバル…と言いかけたペインに対してボソボソ喋り出した三人にぎろりと睨むペイン。
メッセージを受け取ったムースが何も無い空間を裂いて現れた。
「皆様トレーニング中でございましょうか?トレーニングルームに入るのは少し勝手が違うので申し訳ありません。私に聞きたい事とは何でございましょうか?」
「…な…な…何者じゃ!?貴様は!?来い!…黒渦の鉤爪よ!」
途端にペインは警戒度を最大にする、殺気を込めた言葉と共に真っ黒な鉤爪が何処からともなくペインの腕に装着される。
「ま、待て待て!この人はムースって言って…あー!もう!色々あったんだよ!とにかく長くなるから説明させてくれ!」
「…私に殺気を向けられていますが、貴女では私には勝てません。強い弱いなどの単純な話では無く、箱庭では創造神エデル様に創造され、箱庭の管理権限を持つ私に勝てるのはエデル様しかおりませんので」
正に一触即発の状況になる、全員に視線を受けるスバル。
「………言うではないか?のぅ?…スバル!説明するのじゃ!」
「私も説明を先にして頂けますでしょうか?」
スバルは全員の視線と二人からの圧がかかった様な言葉により説明を求められる。
スバルは要点的な部分を抜き出して説明する。
自分達は一度死んだのだが…創造神エデルにより創造され、新たにシステマキングスとほぼ変わりない星を用意され転生する予定なのだと、その過程で箱庭にあるトレーニングルームで訓練中だった事。
ペインが出現した経緯や、ダウンロードの情報も反映されている事、ペインを倒さなければならない状況、トレーニングルームから離脱した場合のペインの存在がどうなるか?などを混ぜながらペインとムースに説明した。
「…なるほど把握致しました。ペイン様につきましてはスバル様達がトレーニングルームを離脱、移動された場合でも存在はそのままでございます。倒された場合のみ消えてしまいます…が、ペイン様は倒された相手に従事する仕様になっている様子ですので消える心配もありません。従事する仕様が消えるかどうかは…実際に転生先に行って確かめるか、転生しても不可能だった場合は別の方法を模索するしか無いでしょう」
「まぁ最悪…従属は取り除けなくても良い…しかし、なるほどのぅ?中々にして浮世離れした話じゃが…自身の目でも…肌でもムースを確認してしまったからのぅ。皆は気付いとらんかもしれんがのぅ…此奴…相当な力を秘めておるのじゃぞ?」
馬鹿な…パジャマっ子ムースが?まるで圧も感じた事はない、野性的な六感がムースの内にある強さを感じて見抜いたのかも知れないな。
「………否定は致しません」
「………ふん!白々しいのぅ!」
「あ、ありがとうムース!これから俺達…話し合いになるから!お疲れ様!本当ごめん!」
ムースはペインを含めた全員にお辞儀をして捻じ曲げた空間に消えていく。
「ムースさん…それ程強かったんですね…」
「…優しいお姉さん…イメージ」
「あらあらまあまあ、優しいお姉さんには大抵…隠したい事があるものです!ウフフ」
毎秒体力回復系スキルがある三人のダメージはもはや完全に回復して元どおりになっていた、スバルもその様子を見て安心していた。
「………スバル、シエン、アカリ、リイサ…妾と約束しろ……必ず…本気の妾を倒すと!」
全員がその言葉を聞いた瞬間、まかせろと言わんばかりの気迫を浮かべ頷く。
「ああ!任せろ!訓練があるから…少し待たせるが、必ず倒して…ペイン!お前を仲間にする!」




