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崩壊そして最高

 こんな事あっていいのか?誰が分かるんだ?こんな鬼畜な仕様にしているから、シスキンは終わりだとか言われる原因なんだよなぁ。


 俺は有賀。名前は昴。十四年目に突入したVRMMOゲーム【システマキングス】に人生を捧げた男。高校を卒業後に発表された世界初のVRMMOゲームに全てを魅了された一人だ。

 そう卒業後ずっとシステマキングスしかやってない。最低限の食事、睡眠、運動、後はシステマキングス。一日の内二十時間がゲーム、四時間が他だった。

 まあ、仕事もしてない。ずっとニートだ。でも働かなくても金はあった。両親は15歳の時に事故で亡くなった、結婚記念日に二人で出かけたままな。その時の保険金で最低限に生活していた。


 そんな風に過ごしていた俺はある日、とんでもないスキルを見つけてしまった。効果も、解放アビリティも最強と言うに相応しい程のスキル「抗う者・攻撃力」だった。

 システマキングスを始めて七年、俺は最高習得難易度のステータス上昇スキル、通称ナインシリーズを全て解放済みだった。


 聞いたらそんなに習得するのに難しさは感じないだろう、寧ろ苦痛と表現するのに相応しい。例に挙げると「攻撃力上昇・九」の習得条件は、「攻撃力上昇・八」を習得済みで武器を装備しないで、敵を1億回攻撃すると言うものだった。途方も無い時間と労力が必要な作業だった。

 苦痛な作業ゲーム、これが一般的な世間のゲーマーの評価だった、しかし俺は楽しかった。苦痛ではあったが。

 そのナインシリーズを超えたスキルの解放条件が、まさかのスキルリセットだと知った時は流石に運営、開発元には怒りを覚えた。


 正に偶然だった。その日は眠たくてログアウトした、いや。つもりだった。スキルリセットを選択してタッチしていた、次の瞬間…ガチャン!と重たそうな錠を開けた様な効果音が俺だけに響く。


 《おめでとうございます。忌み名シリーズスキルを解放致しました。スキル「抗う者」シリーズ=攻撃力、防御力、回避力、耐久力、魔法力、属性、順次解放。「水神」シリーズ=流水制空、水面流し、漣受け、水神召喚、順次解放。「炎帝」シリーズ=無邪気な業火、揺らめく大炎、炎帝の槍、炎帝召喚、順次解放。「眠り姫」シリーズ=薔薇の行信、フランエーテル、眠り姫の加護、眠り姫召喚、順次解放。「光と闇」シリーズ=光の宴、闇の宴、黒雨、閃光、光と闇召喚、順次解放。》


 一瞬にして脳が覚めていく感覚、正に覚醒したと表現した方が良い高揚感に包まれた。

 なんてスキルだ…あり得ないほどの苦痛の先にある最強スキルだった。ありがとうシステマキングス、良く頑張ったな俺。

 どうやら、ナインシリーズまで解放した後にスキルをリセットする事で忌み名シリーズと呼ばれるスキルを全て解放出来るらしい。初期段階では、全シリーズの最初のスキルしか使用、装備出来ないらしい事が分かった。


 な?運営のこのしてやったりみたいな解放条件には腹が立つよな?でも、楽しいんだよコレがまた良いんだ。


 そんな人生を捧げたであろうシステマキングスも今年で十五年目を迎えた。

 最終大型アップデートカウトダウンイベントに参加していた俺は少し昔を懐かしんでいた。始まりがあれば終わりもあるのだ。仕方がない事だ。俺の両親が事故で亡くなったのと変わらない。仕方がない事なんだから。


「皆さーん!システマキングスを楽しんでますかー!?」

 ウォオオオオオ!!と歓声が街の中に鳴り響く。かつてシステマキングスがサービス開始した時の様な盛り上がりを見せていた。

 最終大型アップデートの報告には、新規プレイヤーや古参プレイヤーすら楽しみにしていたのだから無理も無い。俺もそのうちの一人だ。その為、イベント開催場所が始まりの街に設定されている。新規に優しいのはありがたい。同時接続数が久しぶりの一億を超えている、本当に嬉しい。

 ランキング一位の俺は街の特設ステージに立っていた。最終大型アップデートイベントのゲストとして。少し緊張している。

「さて、残り三十秒になりました!サービス開始当初からPVPランキング不動の一位!スタートさん!何か一言二言お願いしまーす!」


 急にきたな…凄いタイミングだ。心臓が飛び出そうとはこう言う事態に使うのだろうかね。


「あ、えっと。サービス開始からとか、途中からとか抜きで俺は嬉しいです。こんなにも好きなゲームを皆さんとプレイ出来るのが、俺にとっては最高です。願わくば、最終大型アップデートが最高のフィナーレとして相応しいアップデートである事を、そして全てのシスキンプレイヤーにありがとうと言いたい!以上!」


 ドドドドッ!!と地鳴りが起こり。ウォオオオオオ!!と先程より一層強い大歓声が巻き起こる。


 十…


 フィナーレ…?終焉…?ああ、そうか…本当にアップデートが終わり、その内容も攻略した時、俺の人生も終わるのかも知れないな。


 九…



 唐突な虚無感が俺の心を支配する。



 八…



 嫌だ!嫌だ嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!



 七…



 俺は…楽しかったんだ、本当に。最高だった。システマキングスが現実だったと言ってもいい程に。



 六…



 何が最高だ!?終わるんだぞ?!…俺は…俺は…。



 五…



 現実を見てみろ!俺がいるべき場所は!?俺が生きるべき場所は!?俺が死ぬ場所は!?



 四…



 システマキングスが消えた世界に一体何が残ってるってんだ!?



 三…



 何も無い…何も無いんだ!!あらゆるスキルも!大好きな街並みも!!景色も!!雄大なフィールドも!!切磋琢磨するプレイヤーも!!最高難易度のボスも!!最強装備を作る為の冒険も!!



 二…



 …心で葛藤した所で何も変わりはしない。運命なのだから、そう。仕方がない事だ。アップデートが終わり、イベントを攻略したら…死のう。



 一…



 現実での俺はオブジェクト扱いでしかない人間だ。

 そんな人生はもういい…俺は、システマキングスの世界が現実だったんだ。全てを忘れられた…ありがとうシステマキングス。



 零…



 願わくば死んだらシステマキングスの世界に生まれたい。



 そんな想いを抱きながらカウントダウンが零の表示になった瞬間、システマキングスの世界が時を止めた。


 自身の声だけしかこだましない。


「何だ?これが新しいアップデート内容なのか?」


 自分以外のプレイヤーが硬直したまま動かない、表情すらそのままだ。

 何だこの現象は?バグが発生しているのか?最後の最後でまたやらかしてしまったのか運営は?といくつもの可能性を模索する。

 そうしておよそ五分位だろうか?時間が経過するにつれある変化に気づく。


 ザザッ…ザッザッ…


 街並みがノイズ画面の様に一部分ずつ消えていってるのだ。


「じ、地面も?徐々に消えていってる!?何が起きてるんだ!?」


 地面も、フィールドも、景色も消え始める。もはや崩壊と表現した方が正しい。

 流石に異常事態と察した俺は叫ぶが周囲からの反応は何も無い。


「何が起きてるんだ…本当に…」


 その一言を最後に、崩壊するシステマキングスの光景を目にしながら俺の意識は消えてしまう。





 天地創造の書。理りの木霊に二人の想い願わくば叶えられん、創造神エデル。

 創造の光、視ている心、交わる想いが願いを叶える。

 まさか、僕を呼ぶことが出来る程の想いがあるとは思わなかったよ。





「君達、面白いね。ふふっ!君達二人の想いが交わり僕が呼ばれたんだ。おっと、まだ意識は無いみたいだね」



 一筋の光が意識の無い二人の人間に語りかけるが、反応は無い。



「君達二人の願いを叶えてあげるよ。そして新しい人生を堪能してね?…あー、でもお互い気付けるかは分からないけどね?色々な意味で」



 一筋の光の前にキューブ状の青い箱が造られる。



「世界の元って言うんだコレ。ココに君達の意識情報と…っと失礼」


 二人の額に触れた光からキューブ状の青い箱に小さな光が吸い込まれていく。


「で、此処にさっきの媒体情報と融合させて…こうしたら…ほいっと」


 反応は無いはずの二人に語りかける様に作業する創造神エデル。

 そして反応の無い二人とエデルの前には、まるで最初からそこに存在していたのでは無いかと思う星があった。


 僕は創造神エデル。君達二人の想いが詰まった世界が出来たよ。まあ、世界がどうなってるのかは知らないし、どうなっていくかは僕にも分からない。でも、君達は願った。そうして僕に想いが伝わり呼ぶことが出来た。

 やはり想いとは侮れないね。たかが人間二人の想いがこうも素晴らしい光を放つなんてね。


「あれ?でも、流石にいきなり起きても状況が分からないし混乱しちゃうかな?強すぎた想いが原因で二人以外にも数十人が同じ場所に来ちゃったしなあ…」


 そうだ!良い事を思いついたよ!少しだけ、ほんの少しだけ君達には恩恵をあげよう。選べる恩恵をね?となると…僕の代わりに説明して貰う存在が必要だなあ。


「創造神エデルの名において、異なる世界の神として世界を見守り、この者たちに全ての状況を説明する君を創造しよう!」


 パリィン!!と、一筋の光の一部が砕け新たなる光が現れる。緑色の光の球体が。


「我が創造神エデル様、把握致しました」と緑の光の球体は話す。


「あ、そんな堅苦しくしなくていいよ?創造する時だけ真面目にやってるだけだから」


「その様な無礼は私には出来かねます」


 んー、まあ良いか。とりあえずはこの子達を目覚めさせる準備は整ったから。


「お好きにどうぞー。じゃあ早速目覚めさせて説明してあげてね?僕の情報思念送るからその通りに頼むね?」

「畏まり承ります、我が創造神エデル様!」


 なんかある意味凄い不安な感覚だなあ…まあ良いか。とりあえずこの子達を目覚めさせよう。あ、びっくりしない様に同じ姿になっておいた方が良いかもなあ…よし。

 えーと、あ。名を冠し与えてなかったな…しすてまきんぐす?だったっけか…うーん、シテ…クス…シテ…キス…シテキス…ムー…ス…うん!ムースにしようか。


「君の名を冠し与えてなかったよね?君にはムースの名を冠し与えるよ」

「把握致しました!これより私が冠し頂いた名はムース!しかと承りました!」


 凄い元気だなあ、と思いながら同じ姿になっておくように情報思念を送るエデル。


 エデルは自身の光を意識の無い数十人に向かって優しく放つ。光は意識の無い身体に吸い込まれて様々な色を放ち輝き出した。

 一人、また一人と意識が戻り驚愕する。自分達がいる場所に。

 見渡す限りの銀河景色が広がり目の前には、銀髪の子供、緑色のロングヘアーの美女が存在していた。

 銀河…つまり宇宙空間とでもいうべき場所だった為に、立つと言うような表し方より存在していたと言う意味合いが強かった。


 続々と意識を取り戻した人間達から、畏怖や疑念の色が視える視線を向けられながら意識の戻りがまだ無い二人に視線を向けるエデル。


 んー?情報量が多いのかな?二人の想いが強かったからかな?説明もあるから起こさなきゃいけないしなあ。


「さあ、起きて」


 エデルの声に反応する周囲、ビクリと肩が揺れる。数秒程の静寂が過ぎ二人の内の一人が意識を取り戻す。

 目を覚ましたその子は周囲とは違う反応をしていた。一瞬驚きはしたものの、目を輝かせて周囲やエデル、ムース、そして眼前に広がる大きな星を見つめていた。ひっそりと涙を浮かべている様にエデルからは見ていた。


 エデルは嬉しかった。二人の想いが叶えた世界に一人は涙を浮かべて感動してくれていたのが分かったからである。


 ふふっ、良かった。喜んで貰えたみたいで安心もしたよ?しかし…もう一人は遅いなあ。凄い情報量を持っているみたいだね。僕の呼びかけに反応しないって中々凄い事なんだけどね?そろそろ起こさないと…ね?


「さあ…そろそろ起きて?君が最後だよ?スバル?目を覚まして見てごらん?君の本当の現実の始まりだよ?」



 あれ?俺は…何してたんだっけ?


 ザザッ…


 うぅ…頭が痛い…ノイズの音…??


 ザッザッ…


 な、何だ?割れそうなノイズのような音だな?…ノイズ?

 そうだ!俺はシステマキングスで時間が止まった様な現象が起きて、バグ?なのか…?崩壊していく光景が目の前に広がっていて…?!あ、頭が痛い!!ぐうぅっ!!


「…あ…き」



 だ、誰の声だ!?知らない声が聞こえてくる!?



「さあ………きて」


 きて?何処に行くんだ??何がどうなってる!?俺はどうしてしまったんだ!?



「さあ、起きて?スバル。君の本当の現実の始まりだよ?」



 ガチャン!!と聞いた様な音と共に頭の痛みが無くなり意識が覚醒していく感覚に包まれる。ぐんっ!と起き上がると目の前に大きな星が見える。

 意識を取り戻した俺の第一声。


「…最高!!」


 俺の本当の現実が始まるみたいだ。




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