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弟が今日も意味不明なようです

小さい頃、母親に手を引かれたその男の子と出会った。

ふんわりとした黒髪は柔らかそうで思わず抱きしめたくなる可愛らしさ。自身なさそうに見上げてくる瞳はどこか潤んでいて、「大丈夫、お姉さんが守ってあげる…っ」といってあげたくなる小動物系。柔らかい頬はほのかに赤く、小さく細い手足も庇護欲をそそる。

「…し、白雪、しゅん…です」

「この子が新しい弟よ」

新しく訪れた家族、駿くんに「よろしくね」と微笑むと、「よろしくお願いします、おねえちゃん」と花が咲くように微笑んでくれた。天使だと思った。

そんな彼に胸を射抜かれて以降、私はブラコンになると決めたのだ。



しかし数年後。

「瑞稀」

「…なに?」

「髪、埃ついてる」

「あ、ありがと…」

「ただでさえブスで女として終わってるんだから身だしなみくらいできないの?ブース」

「はぁぁ!?」

私は高校二年生、可愛かった弟は中学二年生になり、生意気盛りの年齢となり。…私と弟の確執は深まっていった。ずぶずぶと。

「おねえちゃん」と呼んでくれていたのは一転して「瑞稀」と呼び捨てになり、愛らしく従順だったかつてとは打って変わって喧嘩と言い争いが耐えなくなった。それから30分言い争いをしたあと機嫌悪く勢いよく扉を閉め、自室に篭った。

「はあ…私の本当の弟はここにしかいないわ…」

「おねーさんっ」とゲーム画面の中で笑う天夢くん(弟系ショタ)を見つめ、溜息をつく。あれから数年、ブラコンとなった私は、現実から目を背け、ゲームの中の美少年あむくんを愛でるのに忙しくなっていた。

あむくんこと騰月天夢は『泡沫の戦場』と呼ばれるアクションゲームに出てくる美ショタで、ネガティブ感情がわからなくて常に笑顔を浮かべる愛らしく好奇心旺盛な姿に推す人も多い。「ねえねえどんな気持ち?」と笑顔で敵を大鎌で切り裂く姿は狂気に満ちているという人もいるけど少なくとも私は好きだったりする。

『嬉しいってどんな気持ち?教えてよ、おねーさん!』

「んへへ…あむくんってば可愛い…」

「きも」

自分以外の肉声に振り返ると弟が不機嫌な顔で立っていた。

「はっ、きもいって何よ!別にいいじゃないの!」

「弟だったら、俺が…」

「え?」

「この超絶麗しい俺がいるのになんで2次元みてんだよ!しねっ」

「はああああああ??」

超絶麗しいってなんだよとか、死ねとはなんだ死ねとは、とか。色々言いたいことはあったけど、…なぜ弟は頬が赤かったのか。1番わからないことに首をかしげて考えてみる。

「なんで2次元見てんだよ、か…」

それは当然、本来愛情を注ぐべき義弟駿に嫌われてるからですけど。あむくんが小さな頃の駿に似ていたというのもある。な。

弟の奇行はいつものことだけど、その真意を考えるのが難しい。

とりあえず親友である杏奈に「弟の言動が意味不明」と送ると「いつものことだろ」とすぐに返ってきたためですよね、とため息をついた。

…なんだかんだで弟が嫌いになれないせいで、こう複雑な気分なのだ。

「はあ…昔の弟カムバーック…」

『ねえねえおねーさん、今どんな気持ち?』

「とてつもなく憂鬱な気持ち、だよ…」

自動で時間が経つ度に流れる待機ボイスにそう返事を返すと、瞼を閉じた。襲ってくる眠気に身を任せていると、「…ねえねえ、どんな気持ち?」とあむくんではない声が聞こえた気がした。






姉である瑞稀はオタクである。昔は俺とよく遊んでいたが、今となっては全く俺の方を見向きもしない。よく天夢、とかいうゲームキャラに「んへへへへへきゃっわいいよおあむくん!あー尊い…しんど…しゅき…」とか頭のおかしいことを1人で呟いている。若干引いた。

しかし、かといって、頭のおかしな姉のことが好きである俺は、姉の1番好きな存在であろう敵を知らねばならない。敵情視察のためにゲームを始めることにした。

いざ始めてみれば、天夢というキャラはだいぶ頭がおかしい。ニコニコと笑顔で大鎌を振るい敵をなぎ倒していく。決め台詞は「ねえねえどんな気持ち?」…姉の好みがよくわからなくなった。見た目なのか?ようは見た目なのか?確かに金髪碧眼で女のように可愛らしく儚げではあるが。

「俺だって、それなりの見た目…なはずだし」

実際モテるにはモテるはずなのだ。しょっちゅう告白されるし、よく周りには女子がきゃあきゃあいって近くを歩く。姉でもない女の存在は鬱陶しいが、散らすのも面倒くさいので諦めている。

だからそれなりのはずなのに、どこが姉の琴線に触れなくなったのか。

鏡をじっと真剣に眺めながらふとひとつ気づく。

「ただの美少年じゃだめなのか…」

金髪碧眼で口癖は「どんな気持ち?」そんな美少年に…なるしかないのか。しかし金髪に染めるのは校則違反だ。正直そんなこと姉さえ好きと言ってくれるなら別に気にしないのだが…。

姉の部屋を覗くと姉はゲームを開いたまま寝息を立てていた。ゲーム画面には先程からずっと対峙していた美少年がにこにこと微笑んでいる。

「ねえねえ、どんな気持ち…?瑞稀」

姉が聞いていないと頃でなら素直に言えそうなのに。そう思いながら側にあったひざ掛けをかけてやると、本家が「さっすがおにーさんっ!どうしてそうしたの?」とまた疑問符をぶつけてきた。

なるほど、よく質問をするやつがいいんだな。そう認識すると、また姉を落とすため、自室でゲームを進めることにした。

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